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ツッコム俺の身にもなってくれ!!  作者: 楽椎名
ザ・ラスト・ステージ!! 三年生編!!
76/80

ソラガハレタヒ

 一二月二五日。 快晴。 午後一三時。

 今日はクリスマス。

 世界の殆どの子供たちが自分の欲しがっていた玩具などをサンタクロースと言う親から貰える日。

 しかし、西野大地の親友、東野院空は違った。

 彼は寒空の下で一人、県外にある墓地を歩いていた。

 色とりどりの綺麗な花束を片手に。

「待たせたな」

『西園寺ノ墓』と掘られた墓標に辿り着いた空は「ほい、御土産」と言って花束を添えた。

 この墓には、大地に出会う前、まだ空が学校を転校する前に出来た親友の墓である。

「今年のクリスマスパーティーも楽しかったよ」

 空はどこか寂しそうな笑みを零しながら両手を合わせる。

 すると、墓に眠る親友が応えるかの様に空から粉雪が降ってきた。

 空は舞い落ちてくる粉雪を片手で受け止め、それが融けていく様を見つめて今度は自嘲するかの様に笑った。

「懐かしいなぁ。 あの時も雪が降っていたよな?」

 そう、それは彼が中学二年生の頃の話……。



 彼の心は毎日雲がかっていた。

 二年生に進級したと言うのに、どこか気持ちが晴れなかった。

 それもそうだろう。

 何をやっても上手く行く毎日。

 東野院に近付こうと媚びを諂う教員とクラスメイトたち。

 俺が『東野院』の人間じゃなかったらお前ら今の様に接してくれるのか?

 答えは否。 否である。

 こんな風に、空は人間に関心を持たなくなったのだ。

 ただ一人を除いて。

「よっ! 空! またつまんなそうな顔してるぞ?」

 聞き慣れた陽気な声が耳に入る。

 空は声がした方へと目を向けるとそこには当時唯一の親友、西園寺(さいおんじ)太陽(たいよう)が通学鞄を片手に立っていた。

 空と同じく、校則破りな金の髪をしている。 顔つきは整っており、空より少し筋肉質な身体をしている。

 彼の挨拶に対して空は「ほっとけ」とそっぽを向けた。

 これもいつもの調子なのか、太陽は「へいへい」と笑いながら空の隣の席に座る。

 太陽とは一年生の時からの付き合いである。

 唯一空を普通に接した一般人。

 陽気で、人当たりが良く、その名前に恥じぬ暖かさを持った少年だった。

 そんな彼に興味を持った空は毎日の様に遊び回っていた。

 東野院は一、二を争う財閥。 どこの馬の骨とも知らない一般人が友達という事を良く思っていない輩は勿論いる。 中には襲撃してくる不届き者もいるが当時から人間の身体能力の限界を超越している空に返り討ちにされていた。

 いつも、自分の身を守ってくれる親友に罪悪感を覚える太陽だが、空はそれを気にしてはいなかった。

 守ることなんて容易なことだ。

 そう信じてならなかった。 あの事件が起きるまでは……。

 その年の一二月二五日。 二人はクリスマスを楽しもうと前もって約束していた。

 よく雪が降る日だった。

 空は去年と同様、豪華な料理を用意して待っていた。

 しかし、約束の時間になっても、彼が訪れることは無かった。

 それでも空は親友を信じて待っていた。

 それから夜の九時を回った頃、諦めて片付けようと思った時、携帯電話が鳴った。

 相手は太陽の母だった。

 何事かと空は「もしもし」と電話に出る。

 太陽の母から告げられた言葉に、空は目を大きく見開き、身体を震わせ、電話を落として目的地へと向かって走りだした。

 路道は雪が積もっており、何度も足を取られながらも空は黒い風の様に駆け抜けた。

「太陽!」

 辿り着いた目的地はやけに冷たく、静かだった。

 薬品の香りが鼻を擽る。

 空は目の前の現実を信じられないといった目で見ながら彼の下へと歩み寄った。

 穢れの無い綺麗な白いベッドで眠る酷い怪我を負った親友。

「太陽……。 どうしたんだよ? 早く起きろよ……」

 声を震わせながら空は言葉を続ける。

「今日もお前の好きな食べ物とかを揃えたんだぜ?」

 だからさ! と空は氷の様に冷たくなった親友の手を握った。

「目を覚ませよ……。 覚ましてくれよ……!」

 太陽が無くなった原因は集団による殴殺だった。

 彼をよく思っていない輩がいたのは知っていた。

 まさか、こんなことになるとは空も予想していなかった。


 守ることなんて容易な事だ。


 そんな事は無かった。

 空は絶望した。 あの時、自分が彼を迎えに行けばこんなことにならなかったのだ。

 太陽を、親友を亡き者にした輩たちに復讐をしようとも考えたが、そんなことをしても、彼が戻ってくることはないと皮肉にも理解しており、なによりそんな事を求めていないことも解っている。

 行き場の無い怒りを感じながら、空は冬休みが空けても、学校へ向かう事はなかった。

 そんなある日、空の下へ一通の手紙が届く。

 封を切ると中から一通の手紙と新品のお守りが入っていた。


 拝啓、東野院空くんへ。

 いつも太陽と遊んでくれてありがとう。

 太陽はもう戻ってこないけど、きっと天国で貴方を見守っているわ。

 このお守りは太陽も持っていたのと同じものです。

 貴方の側には太陽がいるという思いを込めて、用意させて頂きました。

 もう、私たちの家には太陽はいませんが、たまには挨拶に来てください。

 天国の太陽もきっと喜びます。

 太陽の母より。


 空は膝から崩れ落ちた。

 お守りを強く握りしめ、泣き叫んだ。

 そう、彼は自分に友達がいる喜びを教えてくれた。

 友達がいる楽しさを教えれたのだった……。



 それから太陽は三年に進級すると共に転校し、大地と出会って今に至る。


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