不機嫌な魔女
放課後。 大地は珍しく一人で学校の裏にある丘で一人眼前に広がる景色を眺め黄昏れていた。
空は『面白い』ことを探しに行くといつもの病気を発しながら一つ下の後輩、海斗と共にどこかへと去って行った。
あの二人はいつの間にあんなに距離を縮めたのだ? と疑問を浮かべるが空の人間性を思い出すとそう難しい事ではないかと一人合点した。
ジャスティスと一騎は家の用事があると言って先に帰宅していった。
菅原と雪姫、ガルムとジャックにリアはこの世界の未来に関わる大事な用があると意味不明な事を言って目前から去って行った。
月華と陽子、レベッカの三人はこれからガールズトークをすると言って、それを聞いた大地は、これは一人で帰るしかないなと思い、久方ぶりにこの丘へと訪れたのだった。
梅雨は明け、本格的に熱くなってきた今日この頃、頬を撫でる風は生暖くてとてもじゃないが気分が晴れる様なものではなかった。
気が付けばもう七月。 そしてもう少ししたら夏休み。 そう、今年最後の……。
きっと、夏休みが終わったら自分も含め、皆は本格的に受験に勤しむ毎日へと変わるだろう。
勉強が忙しくなっていくに連れ、交わす言葉も少なくなってきて、遊ぶことも少なくなって、志望校に受かって、そして、そして……。
大地は首を小さく横に振ってそれ以上考える事を止めた。
嗚呼、あいつらと出会ってから、俺は変わってしまった。
人と関わるのが楽しくて仕方がない。
あいつらが好きで好きで堪らない……!
だからこんな複雑な気持ちになってしまう。
このまま学校生活が終わらなければ良いのにな……。
なんてな、と大地は笑って目前に広がる景色を再び見渡す。
色んな形をした家々が広がっており、夕暮れ時の太陽の日差しがそれを橙色に染めて幻想的なものとなっていた。
いつか、この見慣れた景色も見る回数も少なくなる。
大地は後悔しなくても良いように、自分の眼の奥までその景色を刻み込んだ。
「ちょっと、そこの貴方」
不意に後方から声を掛けられた。
振り向くとそこにいたのは以前ガルムを追いかけていた魔女のコスプレをしているジェシカだった。
彼女はどこかご機嫌斜めな様子で「失礼するわよ」と大地の隣に移動した。
「久しぶりだな」と大地が声を掛けると「久しぶり」と無愛想ながらも返事をするジェシカ。
「ガルムと一緒じゃないのか?」
大地の問いにジェシカは「そうなのよ。 どこに行ったのかしら? アイツ……」と深い息を吐いた。
「そう言えば貴方……」
「西野大地だ」
「大地」
「呼び捨てかよ!?」
「別に良いじゃない。 細かい男ね」
ジェシカの高飛車な態度に大地は若干こめかみを僅かに動かしながらも、相手は小さな子供だからと言い聞かせて会話を進める。
「で、何だ?」
「最近あのバカと一緒だそうじゃない?」
「それがどうかしたのか?」
「アタシはあのバカを見ておかなきゃいけないの」
だから、とジェシカは言葉を続けた。
「今度からはアタシもあのバカと一緒に大地の教室に訪れるから」
彼女は伝えるだけ伝えてスッキリしたのか、「じゃあね」と軽く手を振ってその場から立ち去った。
そんなジェシカの背中を見て、「素直じゃないな」と微笑んだのは大地だけの秘密。




