表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/8

第8話 「人格は、誰のものですか」

王城・人格設計室。


机の上には、新しい書類が一枚。


私は嫌な予感しかしなかった。


「……ねぇ」


担当者は封筒へ印を押している。


トン。


「押印処理中です」


「返事じゃないのよ」


「処理を継続しております」


「会話より事務作業を優先したわね」


「締切がありますので」


「役所って締切だけは絶対守るのね」



担当者は封筒を私へ差し出した。


「本日の案件です」


私は受け取る。


赤い封蝋。


王家の紋章。


最近見慣れてきた。


「嫌な予感しかしない」


「予感は管理対象外です」


「便利ね、その言葉」



封を切る。


中には申請書。


一枚だけだった。




【人格設計変更 追加審査】


【申請者:国王】




「あれ、王妃様じゃない」


担当者が頷く。


「申請者が変更されました」


「夫婦で別々に申請するの?」


「共同名義ではありません」


「住宅ローンみたいな説明しないで」


担当者は静かに訂正する。


「王位継承案件です」


「もっと重かった」


私は続きを読む。


そこには短く書かれていた。




【感情追加を再検討してください】


【現状維持を希望します】




「……え?」


私は思わず顔を上げる。


「昨日は自由意思を追加してって話じゃなかった?」


「申請内容が競合しております」


「システムエラーみたいに言わないで」


「承認権限者が複数おりますので」


「家庭問題を権限で処理しないでよ」



その時。


扉が開いた。


国王だった。


威厳がある。


でも。


どこか疲れている。


「人格設計士か」


「はい」


「息子を変える必要はない」


私は驚いた。


「…え?」


国王は王子を見る。


「今のままで十分だ」


「でも…」


「王は感情で判断してはならん」


静かな声だった。


「迷いは国を滅ぼす」


私は黙る。


昨日、王妃は言った。


“笑ってほしい”


今日、国王は言う。


“変わらなくていい”


正反対だった。 




担当者が書類を一枚追加する。



【申請内容】


王妃


【自由意思追加】


国王


【現状維持】


「板挟みじゃない!!!」


「承認待ち案件です」


「だから仕事として処理しないで」



私は国王を見る。


「王様」


「なんだ」


「王子様は幸せですか」


国王は少しだけ黙った。


「国家は安定している」


「聞いてない」


「民も飢えていない」


「それも聞いてない」


「国境も平和だ」


「だから!」


思わず声が大きくなる。


「王子様本人は?」


静かになった。


国王は答えない。


担当者が口を開く。


「質問対象が異なります」


「え?」


「国王は国家について回答しています」


私は国王を見る。


国王もまた。


王子と同じだった。


役割で話している。


父親ではなく。


国王として。


胸の奥が少しだけ痛んだ。


「……王様」


私はゆっくり聞く。


「あなたは今…父親ですか

…それとも国王ですか」



国王は初めて言葉を失った。


部屋に沈黙が落ちる。


担当者は静かに書類を閉じる。


「人格設計士」


「……なに」


「人格は個人の所有物ではありません」


私は担当者を見る。


「え?」


「役割を持つ者の人格は」


一拍置く。


「周囲の利害関係者にも影響します」


「利害関係者って……」


「王子の人格変更は」


担当者は淡々と続けた。


「王妃の希望」


「国王の判断」


「国家運営」


「王位継承」


「すべてへ影響します」



私は依頼書を見る。


一人の人格。


でも。


それを望む人は何人もいる。


王妃は母として願う。


国王は王として守る。


私は人格設計士として迷う。


そして。


肝心の王子だけが。


まだ何も望めない。



王子が静かに口を開いた。


「人格設計士」


「うん」


「人格は…」


少しだけ考える。


「誰のものなのでしょう」



私は答えられなかった。


王妃のものでもない。


国王のものでもない。


人格設計士のものでもない。


けれど。


本人だけのものだと、簡単にも言えなかった。


人格は、設計できる。


でも。


その人格は、本当は誰のために存在するのか。


その答えは、まだ誰も設計できていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ