第28話
第28話「連戦の女帝、中山の旋風」
阪神での桜花賞制覇から、わずか七日。
村上ガレージのトランスポーターは、休む間もなく中山競馬場へと滑り込んだ。
パドックに並ぶ精鋭たちの中で、真珠色の装甲を纏ったノーブル・レジーナの姿は、あまりに細く、あまりに優雅に見えた。
「無茶だよ、義清。レジーナのフレーム、桜花賞の負荷がまだ抜けきってない。中一週間で皐月賞なんて、からくり競馬の歴史でも前例がないわ」
ピットからの麗の通信には、珍しく焦燥が混じっていた。隣では亜紀子がルナティックの過給機を限界まで回し、耳を塞ぎたくなるような爆音を響かせている。
「心配はいりません、姉さん。レジーナは、一度の勝利で満足するような器じゃない。……それに、僕が目指すのは牝馬三冠だけじゃない。この国の頂点そのものです」
義清は冷徹に言い放ち、レジーナの起動スイッチを入れた。
中山二千メートル、皐月賞。
トリッキーなコーナーと、ゴール前の急坂。
ゲートが弾けた瞬間、牡馬たちの荒々しい排熱がコースを包む。
義清は敢えて、乱気流の激しい中団にレジーナを沈めた。
「そこは地獄だぞ、ボウヤ! 牝馬のフレームじゃ、男たちの風圧に耐えられねえ!」
隣を走るジョッキーが嘲笑う。
義清は微動だにしなかった。
「……風圧? むしろ心地いいくらいです。レジーナ、教えてあげなさい。誰がこのターフの主なのかを」
第四コーナー。全馬が一斉にスパートをかける。
馬群の真ん中で、白い閃光が爆発した。
「——道を空けなさい。失礼ですよ」
義清がレバーを一気に押し込む。ノーブル・レジーナの脚部が、桜花賞の疲れなど微塵も感じさせない鋭さで地面を捉えた。左右から迫る巨体を、レジーナは触れることもなく、ただ速さだけでかき分けていく。
ゴール板。
1着ノーブル・レジーナ、2着に二馬身差。
中山のスタンドが、静まり返った。
義清はレジーナから降り立ち、スーツを一度だけ整えた。それだけで踵を返し、ピットへと歩いていく。
その背中に、麗が通信を入れた。
「……信じらんない。本当にやったわね」
「言いましたよ、姉さん。最短距離で、と」
レジーナが、低く電子音を鳴らした。




