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からくり競馬2〜『変異する血統(ブラッド・リンク)』〜  作者: 水前寺鯉太郎
第1幕

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22/26

第22話

「帝王の帰還、覇王の網」


東京競馬場、芝二千四百メートル。ジャパンカップ。

 秋の午後の光が、世界中から集まった鉄塊たちの装甲を不気味に照らし出している。

 

 パドックの視線は、一点に集中していた。

 漆黒の装甲をさらに研ぎ澄ませたレイスター。

 菊花賞を制し、全身から黄金の火花を撒き散らすルナティック。

 だが、その二頭を遮るように、一台の優雅な機体がゲートへと進む。

 

「……戻ってきたよ。この、風が止まる場所へ」

 ジョッキー、岡部孝雄。

 愛機『ラストエンペラー』。モデルは、度重なる骨折を乗り越え、一年ぶりのぶっつけ本番で有終の美を飾った伝説の帝王。

 度重なる故障と長期離脱。絶望の淵から這い上がったその脚部は、かつての「バネ」以上のしなやかさを取り戻していた。

「岡部さん。あなたの走りは、もう古い。……今の競馬は、演算と狂気で回っているんだ」

 財前巌が、黄金のバハムートを横に並べる。

 その背後には、ジャミルのアイアンエクリプスが、影のように控えている。

 財前は、もはや負けを許されない。彼はこのレースのために、かつて「世紀末の覇王」がそうしたように、全出走馬を絶望的な「包囲網」で飲み込む戦略を練り上げていた。

 ゲートオープン。

 先頭を行くのは、やはり財前。だが、いつもと違うのは、その圧倒的な「威圧感」だ。

 ジャミルのエクリプスが二番手で蓋をし、その後ろを海老原のダークランサーが、まるで死神のように隙を伺う。

 

 麗のレイスターは、中団で「クロフネ・プロトコル」のタイミングを計っていた。

 だが、財前の包囲網は、麗の加速ラインを完璧に予測し、数センチ単位で潰してくる。

「っ……! 進路が、開かない!?」

 麗が焦る。

 一方、大外からすべてをなぎ倒そうとする亜紀子のルナティックに対し、海老原が老練な進路取りで「影の壁」を築く。

「……若者よ。ここが、本物の『王道』の入り口だ」

 第四コーナー。

 財前がリードを広げる。

 ジャミルが、麗のインコースを体当たり覚悟で塞ぐ。

 もはやこれまでかと思われた、その瞬間。

 「――跳べッ、エンペラー!!」

 最後方付近から、一筋の「青い稲妻」が弾けた。

 岡部孝雄のラストエンペラー。

 他の機体が芝を粉砕し、熱を撒き散らす中、エンペラーだけが、重力を忘れたような「テイオー・ステップ」で群衆の隙間をすり抜けていく。

 財前の包囲網、海老原の影、麗の執念。

 そのすべてを嘲笑うかのように、帝王は最も美しく、最も残酷な「復活」のドラマを描き始めた。

「……見せてやるよ。一度折れた魂が、どれだけ鋭く光るかをな!」

 直線。

 覇王・財前と、帝王・岡部。

 そして地獄から這い上がった鉄屑・麗。

 三つの異なる「魂」が、府中の坂を駆け上がる。

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