24話 デートのやり直し(結城視点)
時は戻り、結城の家に華たちがやってきた週の休日。
俺は、前回に内海さんと遊びに来た駅にいた。
内海さんがどうしてもデートをしてほしいとLINEでお願いしてきたので、それを受け入れたからだ。
今回は、前のときと比べて肌寒くなく、かといって暑くもない。空が抜けるような青さに澄み切る快晴。
「先輩、お待たせしました」
約束時間の十分前に、改札から出てきた内海さんが俺のそばまで駆け寄って来る。
「今回は遅刻しませんでしたよ!」
よほど前回の遅刻が心残りだったようで、内海さんは開口一番そう言ってきた。
彼女の服装がいつもと違った。
キャップ帽子を被り、オーバーサイズのデニムシャツにワイドパンツを着ている。
いつもの可愛らしい恰好ではなく、カジュアルな服装。
帽子にはNY、と印字されている。
「野球好きなの?」
俺は内海さんが被ってる帽子を指差して聞いてみた。
「野球ですか? あまり詳しくないです」
「あれ、でも帽子は……」
それってニューヨークヤンキースのロゴじゃなかったっけ?
内海さんは帽子のつばを摘まみ、見せつけるように浮かせた。
「帽子ですか? 可愛いですよね、お気に入りなんです」
うん、よし。これ以上は変な空気になりそうだから、突っ込まないでおこう。
今回内海さんが提案したのは、前回にできなかったデートの内容をすること。
なので、まずは俺が案内しようとした喫茶店に行くことに。
最初から俺がリードすることなく、スマホを片手に内海さんが先行して案内してくれた。
情けないけど、俺が道案内すると迷子になるので仕方がない。
「わぁー、すっごく素敵ですね!」
喫茶店に入り、その内装を見て内海さんが感嘆の声を上げる。
ログハウス調の内装に、壁中に描かれた童話のような絵。
まるで絵本の中に入り込んだかのような錯覚を覚える。
席はどこに座っても大丈夫らしいので、壁掛けのカウンターテーブルに肩を並べて腰を下ろす。
「見てください先輩。ラテアートとかやってますよ」
絵本のような形をしたメニューを見ていた内海さんが、俺に肩を寄せて中身を見せてきた。
「本当だ、可愛いね」
「種類があるんですね。別々のを頼みましょうよ」
「そうだね。色んな種類があったほうが楽しいし、そうしようか」
俺はリーフという、葉っぱの模様が表現されたカフェラテを選んだ。
「あたしは、どれにしようかな……あ、これに」
内海さんが指差したのは、ハートマーク……にしようとして、その横のペガザスを選んだ。
「こっちにします」
なんでハートマークを敢えて外したんだ?
そういえばここに来るまで、内海さんは手を繋ごうとしてこなかった。
前までは積極的に手を繋ごうとしてきていたのに。
表情を窺おうにも、内海さんはメニューを俯き加減に見ていて読み取れない。
注文を済ませて待つこと五分ほど。
コーヒーの上を、ミルクを筆で描いたようなカフェラテが届いた。
「なんか、飲むのが勿体ないですね」
白い歯を見せて笑う内海さんの表情は、いつもと変わらないように見える。
「飲む前に写真撮っていいですか?」
「もちろん、いいよ」
内海さんは俺の頼んだカフェラテと、自分が頼んだカフェラテを並べてスマホを構える。
「先輩も撮りますか?」
「俺は大丈夫かな」
どうせ撮っても見返したりしないし。
「インスタとかに上げないんですか?」
「インスタやってないんだよね」
「え、そんな人いるんですか!?」
目を大きく見開いて驚かれてしまった。
そんなにやってないって珍しいかな?
「先輩って、もしかしてぼっちですか?」
内海さんが挑発するような笑みを浮かべる。
「あはは、ぼっちだったけど、今は内海さんがいるから寂しくないかな」
内海さんの軽口を流したつもりだったのに、隣では耳まで真っ赤にしていた。
「……なーんで、そういうこと言っちゃうかな」
内海さんがボソリッ、と囁くように呟く。
「駄目ですよ、先輩。そんなこと言って勘違いさせちゃ」
カップを手に取った内海さんが、ちびちびと口にする。
両手で大事そうにカップを包み、今という時間を大切にするように。
内海さんがカップに口をつけるたび、カフェラテの上で描かれた模様が、ゆっくりと形が崩れていく。




