第358話「歪な結論」
#第358話「歪な結論」
その後、透子さんは何度か尋問に参加したようだ。
研究者としての視点で細かく質問を重ね、レア武具についていろいろと確認したらしい。
「彼女たちの話は事実と見ていいと思う」
透子さんはそう結論づけた。
レア武具三点セット。それが偶然か、あるいは極低確率の現象か。
いずれにせよ、クアンがその武具を装着すればダンジョン外で力を発揮できるということで間違いないらしい。
すなわち三つ目のパターンということだ。
そして俺もクアンに興味があったので、時間を見つけて面談に向かった。
取調室の奥。
そこにいたクアンは、少しやつれた様子だった。まあずっと拘束されていたら疲れもするだろうな。
俺は翻訳機を通じて会話した。クアンはすぐに俺のことに気が付いたようだ。
「(あなたは……あの時の)」
「(ああ、そうだよ。悪いけど邪魔させてもらった)」
俺がそう言うと、クアンは小さく首を振った。
「(当然のこと。悪いのは私たちだから)」
少しの沈黙があり、クアンは話を続けた。
「(でも、どうしてそこまで強くなれるの?私とは段違いの強さだった。あれではどうしたって勝てっこない)」
あれれ、俺が尋問するはずなのに、逆に聞かれてしまった。まあいいか。それほど聞きたい話があるわけでもない。
「(さあな。気付いたらこうなってた)」
「(そんなわけないでしょ、教えてよ!)」
「(無茶言うなよ、でも、本当なんだ。ずっと、長い期間をかけてダンジョン内で一生懸命に頑張ったんだ。君はレア武具に頼ったかもしれないけど、俺は仲間達と協力し合って懸命に力を付けたんだよ)」
「(……そうね。あの強さなら納得するしかないわ。相当に努力したのでしょうね。私はもっと強さに執着すべきだったかもしれない。上には上がいる。天狗になって、そんな当たり前のことが思い付かなかった)」
そうなんだよね。せっかくレア武具を持っていながらレベル4にとどまっていたのは本当にもったいないことだ。
逆に言えば俺たちにとっては幸運だったわけだけどね。
そこで今度は俺から質問した。
「(何であんなことを? 大変な罪になるってわかりそうなものだけど)」
「(すでに話したと思うけど、私にとってはレイラさんが全てなの。レイラさんのためなら何でもするわ)」
聞いていた通りだな。レイラさんに依存しているみたいだ。このまま一人だと衰弱して厳しい気がする。
でも逆にそれだけ執着できるのも凄いと思った。そしてつい思っていたことが言葉に出てしまった。
「(ふーん、凄いね)」
「(何を言っているの? あなた、変な人ね)」
「(何で?)」
「(みんな依存し過ぎは良くないと言ってる。それはレイラさんも同じ。凄いなんていうのはあなたぐらいのもの)」
まあ常識的に考えたらそうだよな。依存すると、その人がいなくなった時に厳しくなる。
でも俺はそこまで間違っていることとも思えないのだよね。
「(依存したっていいと思うけど。誰にも迷惑をかけてないならな)」
「(……あなた、本当に変な人ね)」
「(なんで?)」
「(私の話を聞いても、特に否定しない)」
「(俺はそう思うだけだよ。別に俺が正しいことを言っているつもりはない。だけどさ)」
「(だけど?)」
「(それだけ人のことを強く思えるのは素晴らしいことだと思うよ。俺はそういう人を信用したいけどな)」
そう言うとクアンはうつむいた。そして小さな声で言った。
「(……ありがとう)」
少しだけ、空気が柔らいだ気がする。そこで俺は話を続けた。
「(で、君はどうしたい? 何か希望はあるの?)」
クアンは迷わず答えた。
「(できるならレイラさんと一緒に暮らしたい。それができないなら生きていても意味がない)」
即答だった。まあ、普通に考えたら一緒に住むなんて無理だよね。もう諦めているのかもな。
でも、何とかしてあげたい気がする。
「(監視付きでも?)」
「(……え? 一緒に暮らせるの?)」
「(ああ、いや。ごめん。俺に決定権はない。ただ、もしかしたら、そういう形もあるんじゃないかって思っただけ)」
「(何でもいい。一緒にいられるなら)」
クアンの言葉に迷いはなかった。
「(分かった。聞いてみる。でも期待はしないでくれ)」
「(ありがとう)」
僅かだけど最後は微笑んでいたようにも思う。とは言えあまり信用してもらっても困るのだけどね。
その後、レイラさんにも確認した。答えは同じだった。監視があってもいい。拘束があっても構わない。
クアンと一緒にいられるなら、それでいいというものだった。
そこで俺は自衛隊ダンジョン特殊部隊の佐伯さんに進言した。
「クアンから武具を取り上げて、監視付きでレイラさんと一緒に住まわせるのはどうですか?」
「ほう。レンもそう考えるか。一応、上層部でもそういう案が出てはいる。クアンは凄い力を持つが武具さえなければ問題はないからな。GPS機能付きの拘束具を二人に付けることが検討されている」
「なるほど。やはり俺が思うようなことは上も考えていますよね」
「ああ、このまま拘束していても前進はないからな。変な言い方だが、利用することもできない」
その後、上層部と協議が重ねられたらしい。そして、一応の結論が出た。二人は簡易住居に同居を許可されることになった。ただし条件は厳しい。
基本的に外出禁止。GPS機能付き拘束具を両手両足に装着。総重量は約20キロ。普通に動くのも大変な重さだ。
仮に逃げても、重くて思うように動けないだろうしGPSが付いているのですぐに発見される。クアンからは武具も取り上げているのでそこまで脅威でもない。
しかも拘束具を取り外そうとした場合、あるいは強い衝撃を与えた場合には強力な電流が流れる仕組みだという。そして遠隔操作も多少はできるらしい。
まさに“鎖付きの自由”という感じだ。かなり不自由だろう。
それでも二人は一緒に居ることができるのならばと承諾した。さらに、定期的にダンジョンに潜ることも許可されるらしい。
気分転換という意味合いもあるが、監視下での能力確認も兼ねているのだろう。
本来ならばひっそりと死刑にするような流れもあったらしい。
しかしせっかくの秘密の戦力だ。何とか使えないかといろいろと検討を重ねたようだ。
もちろん、現実には秘密の戦力として当てにする段階ではない。だが完全に切り捨てるわけでもない。
いざとなったらレイラを人質にしてでもクアンを利用することも検討しているのだろう。
まあ現実の落としどころとしてはそんなところだろうと思う。彼女たちも二人で暮らせるならば幸せだろうし、一方で政府側としてもいざとなった時の保険になる。
一応はwinwinという形なのだろう。かなり歪ではあるけどね。
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