第351話「最強戦力からの警告」
#第351話「最強戦力からの警告」
レンたちが高泉首相と大泉防衛大臣を出迎えていた頃――。少し離れた位置から、その様子を観察している七人の影があった。
Q国のテロ組織のメンバーだ。
彼らは車の到着から降車までを冷静に見ていた。
「……妙だな」
一人が小声で呟いた。
車での移動まではそれなりに警備が厳重だった。護衛の車は多い。そして周囲の警戒も抜かりない。
だが、車を降りた後に待ち構えているのは、たった8人。そしてなぜか車に乗っているSPが1人しか同行しないようだ。
しかも、出迎えている8人は1人を除けば若い女性ばかり。護衛の経験があるようには見えなかった。
「どういうことだ。ダンジョンの近くだから安心しきっているのか?」
「よく分からんが……そうかもしれん。日本はこれほどまでに緩い国なのか? 国の首相の警備をこれだけおろそかにするとは……さすがにおかしいな。何か罠でもあるのか?」
リーダー格の男は目を細めた。しかし周りを見ても罠らしいものは見当たらない。そして何度か視察もしている。
誘拐するにあたって障害になりそうなものは無かった。
「不思議な状況ではあるが……これは願ってもないチャンスだ。予定通り、ダンジョンから出てきたところを狙おう」
そこにいた誰もが、思ったよりも簡単な仕事になりそうだとほくそ笑んだ。
――ただ一人を除いて。
「待って」
静かに口を開いたのはクアンだった。その声には、わずかな緊張が混じっている。
「あの8人……かなり強いと思う。今回の依頼は、やめたほうがいい」
一瞬、空気が止まった。
他のメンバーは驚いた。
この中で最も戦闘能力が高いのはクアンだ。そのクアンが、弱気とも取れる発言をしたのだ。
これまで何度も難しい誘拐を成功させ、さらには救出作戦なども成功させている。そんなクアンがこれほどまでに簡単そうに見える仕事を躊躇したのだ。
いや、躊躇という言葉では生ぬるい。完全にやめた方がいいと言っているのだ。
「本気で言っているのか?」
「見た目は普通の若者だぞ?」
遠目に見えるのは若い男女にしか見えない。確かに多少の威圧感はあるが、絶望的な強者という印象はない。何よりも武器さえ持って無さそうだ。
普通に考えて楽勝だろう。恐れる要素は何もない。
不思議に思ったレイラが静かに問いかけた。
「クアン、それは本当? 確かに、ただ者ではない雰囲気はある。でも、私たちの敵になるほど?」
他のメンバーも同じ考えだった。いつもよりもかなり楽な仕事に見える。それよりも、はるかに難しいと思える仕事をこなしてきたクアンが警戒する意味が分からない。
「もしかして、おじけづいたのか? それとも日本に来て勘が鈍ったのか?」
誰かが嘲るように言った。だがクアンは首を振った。
「違う。彼らは強いと思う。そして……何度か、見られた気がする。すでにこちらに感づいていると思うよ」
「見られた?」
「こちらをちらちらと観察している。おそらく気付いている」
「この距離でか? さすがにあり得ないだろう」
クアンを除く6人は顔を見合わせた。見た目は普通の若者。そしてこちらに気付いたとも思えない。
しかし、実力者であるクアンが警戒している。
だが――。
「クアンの話を上に報告して中止するか?」
「これほどのチャンスなのに動かないと?」
「腰抜け扱いされるのがオチだ。この状況をそのまま報告したら激怒されるぞ」
沈黙が流れた。やがていくつかの話し合いを重ねて結論を出した。
「作戦を微調整する」
1人が攪乱役から外れ、狙撃に専念する。誰かが捕まった場合、容赦なく射殺する役目だ。状況によってはあの護衛の8人も射殺する。
とにかく失敗して捕まるのが最悪だ。いくらテロ組織の仲間が屈強とは言え捕まっての精神的な攻撃に耐えられる保証はない。例えば自白剤などを飲まされてテロ組織のことをばらされたらまずい。
1人は狙撃、そして残る5人が各自ばらばらに動き、攪乱する。その隙にクアンが高泉首相をさらう。
安全重視。何があっても捕まらないことを最優先。少しでも危険を感じたら即座に撤退。
クアンの意思を尊重し、相手が見た目よりも相当に強いと警戒した上での作戦となった。それでもクアンは厳しいと考えていた。
「……本当にやるの?」
クアンは最後まで抵抗した。だが、ここまで来て中止はない。
「失敗は許されない。そして、これほどのチャンスに撤退することもあり得ない。これ以上のチャンスは他にないだろう。仮に失敗しそうだったら逃げることに徹する。それならばクアンも文句ないだろう」
やるしかない状況だとして押し切られた。
レイラもまた、胸の奥に小さな違和感を抱いていた。クアンは何を恐れているというのか?本当に分からない。
目に映るのは若いハンターたちのみだ。強者のたたずまいはあるが、そこまで恐れる相手には見えない。
攪乱して、その隙にクアンが高泉首相をさらうだけの楽な仕事と思えた。
これまでの仕事では、その数倍のSPが付いていて、難易度が高そうな仕事でも全て成功させてきたのだ。それと同じようにやればいいだけのはず。
最悪のケースも考えたから万全だ。
何よりも、見たとおりに簡単なはず――しかし、それこそがテロ組織の最大の油断だった。
こうして計画は、静かに動き出す。
葉山ダンジョンを舞台に、運命が交差しようとしていた。
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