第290話「知らぬ間に終わった戦い」
#第290話「知らぬ間に終わった戦い」
(函館駐屯地の自衛隊たちのお話です)
その日、函館駐屯地に衝撃が走った。函館から比較的近くにある北海道・駒ヶ岳ダンジョンでモンスターが氾濫したというのだ。
その数、およそ三百体とのこと。
ほとんどがレベル3相当のベア系モンスターだという報告があり、自衛隊内部の一部では一瞬にして空気が一変した。
最近では海外派遣も多く自衛隊内でもダンジョンから氾濫するモンスターについての情報が共有されつつある。
その辺りの情報を詳しく知る人間ほどに絶望感を感じざるを得ない状況だった。レベル3モンスターが三百体ともなると、とんでもない規模の氾濫だ。
すぐに共有された対応方針は――重火器による迎撃だった。
軽装甲機動車、戦車部隊の投入も確認済み。さらに陸上部隊の半数以上、およそ四百名が出動するという。
これまでの函館駐屯地の訓練でも例を見ない最大規模での出動だ。
それには特段の情報を持たない末端の自衛隊員さえも困惑した。もちろん、今後はダンジョンから氾濫するモンスターに対応する可能性があることは知らされていた。
だが、実際にここまでの戦力を動かす事態になるとは思ってもみなかった。函館駐屯地ですぐに準備できる最大規模の戦力と言っていいだろう。
その出動規模を聞いて函館駐屯地の誰もが「とんでもないことが起きた」と理解した。
その内容は函館から約二十キロ地点にバリケードを構築。第一防衛線を形成し、そこで迎撃するというもの。
基本任務は防衛線の維持。
そして同時に、最悪の場合は後退もあり得ると通達された。
――逃げる想定の話さえも?
それが何を意味するのか。それはすぐに分かる。対峙する相手がそれほど強いということだ。末端の隊員まで、完全にその意識は伝わった。
とにかく、今はできるだけ早い準備が必要だ。隊員たちは口数を減らし淡々と準備を進めた。
「今回の任務はかなりやばいんじゃないのか?」という若手隊員の声が聞こえてきた。
「大丈夫だ。何かあったらお前らは逃げればいい、俺たちがしんがりを務めるから問題ない」
「そんなわけには行かいないっすよ。俺もやります。だっておやっさんには嫁さんも子供もいるじゃないっすか」
準備が進められる中でもそんな会話が出てくることもあった。緊張感の中に悲壮感も含まれるようにもなっていった。
そういった声をかき消すかのように仲間同士で励まし合い準備を進めていく。
命令から約二時間。
簡易バリケードはほぼ完成し、重火器の配置も終わった。とりあえずの準備は完成だ。あとは細かい軍隊の配置確認。そして作戦の再確認など。
あとは敵モンスターが来るのを待つだけだった。
「来るならいつでも来い」そんな気合の声も聞かれるようになった。
小隊ごとに最終確認の声が飛び交い無線が交錯する。
だが駐屯地のトップの人間やダンジョンの氾濫に詳しい人間たちは知っていた。
――この戦力でも止められない可能性がある。
何よりも火力が心配だ。足りなくなったらどうするのか?状況に応じての撤退の命令、指揮系統についても話し合いがなされていった。
報告を受けながら、指揮官は副官に静かに告げた。
「万一突破された場合、私もしんがりを務めるためにライフルを持って前線に参加する。以降の指揮は任せる」
その悲壮感のある声に何とか副官も声を絞った。
「指揮官……分かりました。でもまだその時ではありません。状況を見極めましょう」
皆がそれぞれに覚悟を決めていった。
函館駐屯地、ほぼ全勢力での迎撃体制が整った。緊張が張り詰めていった。
だが――。
それから約二時間後、無線が鳴った。
『敵性モンスター、全個体沈黙。掃討完了』
……は?
一瞬、誰もが意味が理解できなかった。その報告を最初に聞いた上層部がざわめいた。
情報を再確認した。
しかし間違いないとのこと。何が起きたのか?
現時点ではどこを見ても敵はいない。
一方で理由は不明だがモンスターの撃破報告はある。
すなわち、それは少なくとも自分たちの部隊によるものではない。自分たちは迎撃態勢は整えたもののまだ動いていない。
戦闘記録も、爆音も、重火器の使用履歴も何も存在しない。
ただ結果だけが残っていた。
その後は詳しい情報が少しずつ出てきた。鹿部町内で氾濫したモンスターの全個体が討伐されたという。
およそ三百のモンスターその全てだ。
おかしい、あり得ない。モンスター氾濫した駒ヶ岳ダンジョンの一番近くの自衛隊基地は自分たちの函館駐屯地だ。そのほぼ全勢力を使って迎撃する予定だった敵でありその強さはとんでもない。
一応、鹿部町にも駒ヶ岳演習場があるので自衛隊員が全くいないわけではない。しかしその自衛隊員のみで対応できるはずもない規模のモンスターの氾濫だったはずだ。
やはり分からない。一体何が鹿部町内で起こったというのか?
喜べばいいはずだが、どう反応すべきか分からない。函館駐屯地の自衛隊上層部の人間たちは顔を見合わせた。
戦闘すらしていないのに……終わった。
状況、報告は良い連絡のはずなのにも関わらず理解不能の連続。
だがそうも言ってられない。その後の行動のための命令が必要だ。
指揮官は混乱しつつも、なんとか声を振り絞った。
「作戦は終了、撤収する。いや、掃討されたモンスターの確認とその対応が必要だっだ。第一中隊のみは残ってその準備を進めてくれ」
こうして函館駐屯地の緊急部隊は、一発も撃たずに撤収や現場確認をすることになった。
この日、自分たちの知らぬところで何が起きたのか。それを彼らが知るのは、ずっと後のことになる。
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