第289話「知られざる対策会議」
#第289話「知られざる対策会議」
話は少し遡る。
モニターをチェックしていたハンター協会の監視員から悲鳴のような声が上がった。
「大変です!北海道の駒ヶ岳ダンジョンでモンスターの氾濫が起きています!」
「三階層からとんでもない数のモンスターがダンジョン外に出ています!」
その深刻な情報はすぐにハンター協会トップに上がった。とんでもない規模の氾濫が起きてしまったのだ、事態はとにかく深刻。
ハンター協会トップから、首相・高泉、防衛大臣・大泉、そして自衛隊トップの高倉へと緊急連絡が入っていった。
三人を中心とした政府中枢メンバーが直ちに招集され、緊急対策会議が開かれた。
まず提示されたのは氾濫規模の報告だった。
レベル3のベア系モンスターが約三百体。
会議室に、重たい沈黙が落ちた。
これまで日本で確認された氾濫の中で最大規模だ。いや、世界規模でも最大規模と言っていいだろう。海外ではレベル3のモンスター百体程度でも都市が壊滅したという報告もある。今回はその3倍規模になる。
特に横須賀ダンジョンの氾濫を知る者たちは理解していた。レベル3は“たかが”ではない。
レベル3のモンスターとなると1体倒すだけでもとんでもなく大変。ライフルだけで沈黙させるのは容易ではない。
どう考えても重火器で止めるしかない。ぎりぎりだがそれは可能。
だが、その数が三百体となれば単純ではない――自衛隊の一駐屯地にある戦力でも火力が足りる保証がないのだ。
横須賀ダンジョン氾濫ではレベル3のモンスターは十体前後だったと聞く。それでも自衛隊は大苦戦したと報告されている。
それが三百体近い。とんでもない数だ。苦戦した情報を知っているものはどうしても最悪の事態を想定した。
もしそのモンスターが函館市内に侵入すれば……被害は計り知れない。
「絶対に、函館には入れさせるな」
高泉の強い意志を持った低い声が会議室に響いた。自衛隊トップの高倉は即座に現在の状況を報告した。
・鹿部町の住民を函館方面へ避難誘導中。およそ2時間以内に完了する予定
・函館駐屯地から自衛隊が出動。函館から約20km地点に簡易バリケードを構築中。
・その第一防衛線に重火器も配備、迎撃態勢を急いでいる。こちらもおよそ2時間で完成予定
さらに、比較的近くの八雲駐屯地から戦車を含む重火器部隊を出動要請。バリケードを突破された時に備え、更なる迎撃態勢を敷く予定。
真駒内駐屯地からはヘリ部隊も展開予定。前線到達前の空中攻撃も想定している。
打てる手を次々と展開していった。もちろん、長期戦の可能性もある。更なる自衛隊の要請もしていった。北海道内の自衛隊への要請、そして東北地方へも打診していた。
これまでにない規模での出動と迎撃態勢の構築。自衛隊にも混乱が広がることだろう。だがそれでも構わない。
まずは函館を守ることが最優先だ。20万人以上もいる市民、日本国民をなんとしてでも守らなければいけない。
そして、ここで高倉は限られた者だけに伝えた。立川駐屯地から特殊ダンジョン部隊を派遣済み。到着は約三時間後の予定。
首相の高泉と防衛大臣の大泉は、わずかに頷いた。
それが“最後の切り札”であることを理解している。何とか函館の市民、日本国民を守って欲しいところだ。
もちろん彼らだけに頼るのは良くないと分かっているがどうしても頼る気持ちがあった。
会議開始からおよそ二時間が経過した。
その時に函館から20km付近に設置されたバリケード、すなわち第一防衛線ほぼ完成との報告。迎撃する武器も展開中でほぼ準備が完了とのことだった。
最低限の体制は整ったとやや安心感が広がった。
だが、完全に安心できる状況ではないのは明白。
火力は足りるのか。足りない場合には自衛隊員にも犠牲が出る可能性がある。そうなれば、当然のことながら責任問題も出てくるだろう。
もちろん、それだけではない。自衛隊の防衛ラインを突破されれば最悪は函館の市民が危険にさらされる。その犠牲者の数はとんでもない数字になる可能性がある。
誰もが、その覚悟をしていた。そして祈るような気持ちになっていた。なんとか自衛隊には頑張ってもらいたい。
自衛隊の迎撃態勢が整いつつあっても重苦しい空気は変わらなかった。
そして駒ヶ岳ダンジョンのモンスター氾濫発生から三時間。モンスターが鹿部町内で暴れているとの報告が上がった。
まだ函館方面へは向かっていない。
一応はまだ時間を稼げている。だが、鹿部町は……壊滅的被害を受けることだろう。
誰もが、そう思っていた。
そして氾濫発生から四時間が経過。
突如、とんでもない、その場にいる誰もが予想だにしなかった報告が上がった。
「敵性モンスターを全て撃破、全個体が沈黙!」
会議室が凍り付いた。
誤報なのか。
それとも、他の地域から何らかの混線が起きたのか。
だが続報も全て同じ内容だった。
どの情報を見てもほぼ同じ。
「全モンスターの討伐が完了」
「およそ三百体のレベル3モンスターを討伐済み」
「鹿部町にて全モンスターが沈黙」
「鹿部町の被害は軽微、人的被害も確認されず」
などなど、内容はやや異なるが基本的には同じものばかり、歓迎すべき情報しかそこにはない。
モンスターが討伐された場所は鹿部町内らしい?
鹿部町でも被害は想定より遥かに軽微?
おかしい、全く意味が分からない。
ほんの一時間前には鹿部町でモンスターが暴れているという報告が上がったばかり。そこで一体何が起きたと言うのか?
会議に参加しているメンバーの誰もが耳を疑った。
本来ならば歓声が上がるところだろう。しかしながら混乱だけが広がった。
だが、その中にいる三人だけは沈黙したまま頷いていた。
首相の高泉、そして防衛大臣の大泉、そして自衛隊トップの高倉だけはその意味を正確に理解していた。
そんな人並外れたことができるのは彼らしかいないだろう。ほぼ間違いない。
大泉は天を見上げ、ため息を付き独り言ちた。
「……間に合ったか」
特殊ダンジョン部隊。
間違いない。あの部隊が到着して活動してくれたのだろう。
早期編成を決断しておいて本当に正解だった。3人には心の底からの安堵が広がった。
だが……それは、ほんの一握りの者しか知らない事実。
一応は鹿部町、そして函館は奇跡的に守られたということになった。モンスターが混乱し海方面に向かって沈黙したのだろうと。
それだけが、とりあえずの表向きの公式記録として残った。
いつも読んで頂いてありがとうございます。毎日12時ごろ、20時頃の2話投稿を限界まで続けていく予定です。
ブックマーク、評価ポイント、レビュー、いいね、感想などもしていただけると励みになるかもよ?
その他、何らかの頑張れパワーをいただけると更に頑張れるかもです!
べ、べつに何も無くても頑張るけどね、、、 (^O^)/




