第280話「レベルアップ前の穏やかな時間」
#第280話「レベルアップ前の穏やかな時間」
司が危うい道へと足を踏み入れつつある頃――。
一方のレンたちは、ただひたすら五階層の攻略に集中していた。全員レベル6を目指し、油断せず、慢心せず、一歩ずつ前へ。
(レン視点です)
俺たちは五階層の攻略中、頑張って前に進んだ。しかしやはり大変だ。レベル6にレベルアップするためにはオークを一万匹近くも倒す必要がある。
レベル5のハンターにとってはオークは強敵。普通に考えたら正気の沙汰じゃない。
でも日本には既にレベル7、そしてレベル8を達成している人がそれなりにいるわけで、彼らはおそらくはこの道を軽く踏破している。本当に凄いことだなと思う。俺も何とかレベル6まで来たがきつくなってきた。
さすがに次のレベル7はかなり遠いのではないかと思う。
ちなみにオークを1万体倒そうと思うと、1日100体近く倒したとしても三か月はかかる計算になる。もちろんそれ以外の雑魚も倒すわけでそこまで単純計算になるわけでもないが本当に大変な数字。
そもそも五階層のオークは一対一でも厳しい相手。だからこそ、地道な積み重ねが必要。今はそのオーク担当をラムとリンが担っている。
集中して、彼女たちはそのレベル6への階段を1つ1つ登っている。
――強くなるために。
――そして、いざというとき日本の切り札になるために。
そんな思いで進み続け、とうとう“数日後にラムとリンのレベルアップ”という地点まで到達した。
長かったような、あっという間だったような……もうすぐでレベルアップ、本当に不思議な感覚だ。
あと数日だと思うとワクワクする。しかし現時点で一番ワクワクしているのは、どう見ても透子さんだよな。
その理由は使役モンスターにはFS遷移の可能性があるからだ。次に何が起きるのか? 正直まったく分からない。
もちろん、何も起こらない可能性だってあるのだけど……透子さんは何か絶対に起きると断言している。
まあ何も起こらなかったらあまりにも残念なので、あまり期待はしないで欲しいところだけどね。
そして何も起きない可能性については透子さんにはあまり言わないようにした。それを言うと見た目にしょんぼりするからちょっとかわいそうなんだよね。
そして今日はダンジョンから帰ったあと、マンションの使役モンスター側の部屋に集合している。
透子さんは、もうすぐレベルアップということで完全にご機嫌だった。
遠足を待つ小学生みたいで、ちょっと可愛いかもね……と思って眺めていると、ひよりのジト目が飛んできたような気がする。
いや、待て。なんで分かるんだよ。念話できるわけでもないのに察しが良すぎるだろ。とんでもなく鋭い。やはり女性は怖い、侮ってはいけないな。
そんなことを考えていたら、ラムがお茶を配ってくれた。
落ち着いた仕草で、ほんのり微笑んでいる。
本当に、どう見ても“使役モンスター”じゃない。完全に“みんなのしっかり者のお姉さん”だよね。
ちょっと時間が空くとこうやってお茶を入れたり軽食を持ってきてくれたりする。他にもひよりと一緒に夕食を作ったりといろいろなことをしてくれる。
すでに戦力として申し分ないけど、こうやって生活周りのことをしてくれるのも本当にありがたい。
透子さんは茶碗を手にお茶を飲みながら感心したように言った。
「使役モンスターのみんなは本当にすごいよね。とんでもない力を持ってるのに、すでにちゃんと調整できている。私だったら絶対、茶碗とか握りつぶして割っちゃうと思うよ」
まあ確かに……。
使役モンスターはダンジョン内での力そのままに外に出ている。おそらくは人間の数百倍、数千倍、下手すれば数万倍とかの握力だ。
うっかりしたらちょっとした家具くらい簡単に壊してしまうだろう。
でも、みんな器用だ。すぐに力加減を調整してしまった。
100均のハンドグリップやプラケース、パズルなどで徐々に慣らしていったとはいえ、みんな1日も掛からずに慣れてしまった。短期間でそこまで仕上げるのは本当にすごいと思う。
まあいくつかは軽くひんまげたり割ったり破裂させたりと壊してしまったけどそれはご愛敬というものだろう。
「特にリンはおっちょこちょいだから危ないと思ってたけど、すぐに慣れたよな」
俺がぽつりと呟くと、リンが頬をふくらませて笑った。
「レンさん、あまりにもひどいですです!」とリン。
「ご、ごめんごめん、つい。心の中の言葉が漏れてしまった」
「レンさん更にひどい、全然フォローになってない」とロアが笑う。
するとみんなも笑った。そんな他愛ないやり取りが心地いい。
そうやってみんなで話をしながら賑やかで温かい時間が流れていった。毎日、緊張して集中している。それだけに、こういう時間も貴重で必要だと思う。
――ラムとリンのレベルアップまで、あと数日。何が起きるのか予想できない。本当に楽しみだ。
早くその日が来て欲しい。
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