第171話「深まるFS遷移の謎」
#第171話「深まるFS遷移の謎」
透子さんが来るというちよっとしたハプニングがあった翌日も、俺たちはいつものように恩方ダンジョンの4階層へ向かった。
今日もリンの経験値は順調に溜まっており、レベルアップまであと1か月もかからないと思う。
リンのレベルアップでもおそらくはラムと同じようなFSの推移があるだろう。リンも同じように外出ができると思うと自然と胸が高鳴る。リンもきっと喜んでくれるだろう。ロア、ルフ、クーもそれを目指して張り切っている。いい雰囲気だ。
そして討伐も順調で夜7時過ぎには帰宅した。
でも俺とひより、ラムの3人でアパートに戻ると、玄関に見慣れない靴が並んでいた。
――あれっ?誰かいる、樹や葵の友達か?でもちょっと遅い時間なんだがな。
そう思いながらリビングを覗くと、そこにいたのは――透子さんだった。
「……えっ? なんで今日も透子さんがいるの?」
思わず声が裏返る。昨日の夜に来て泊まり今日の朝に帰ったばかりのはずなのになぜ再びここに?
「透子さんが来たから入れたんだけど、何かまずかった?」樹が申し訳なさそうに言う。
「いや、まずくはないけど……透子さん、また来たんですか? さすがに馴染むの早くないですか? というか、来るなら一言でも先に言ってくれればいいのに」
テーブルを囲んで葵とお菓子を食べている透子さんはもう普通に家族みたいな空気を出していた。とてもではないが昨日知り合ったばかりとは思えない。おそらくハンター協会、研究課についてなどの話をしていたのだろう。
その後、透子さんは手を合わせて「レン、ごめん、しばらく毎日泊めてほしい」と言ってきた。なんとスーツケース持参。どうやらお泊りセットまで持ち込んでいる。
そこへ、当然のようにひよりが「だったら私も」と名乗りを上げる。
……この流れ、もう止められないな。
透子さんに理由を聞くと、ラムに聞きたいことがまだまだあるという。そりゃまあ透子さんは研究者だから興味は尽きないだろう。でも俺のプライベートをもう少し考えて欲しいところなんだけどね。
「前もって毎日泊めてと言うと断られるかと思って」
まあそりゃ普通に断りそうだな。それで実力行使にで出たのか……。
でも「透子さん、ひよりさんも毎日お泊りするの?」と葵が喜んでいる。もういいか、諦めるしかなさそう。先に透子さんがいてくれたら安心だし悪い話でもない。
その後、ひよりとラムと一緒に俺の部屋に入ると透子さんがFS遷移の話を始めた。
「FS2までは再現できた。でも、その先がどうしても進まないんだ」
「え、そうなんですか? レベルアップだけではFS3への遷移は駄目なんですか?」
「ああ、まずは使役モンスターとの接触頻度を上げて名づけをすると大抵はFS2に遷移する。ただしあからさまなのは駄目。本当に使役モンスターと心を通わせようとする人間でないと遷移しない。ということでFS2まではいいんだ。ほぼ解明できたと言っていいだろう」
「なるほど。ある意味、ペットみたいな感じですね。動物は人間の気持ちに敏感だから名前だけ付けて適当にあしらっていたら駄目なんですね」
「そういうことなんだ。そう考えると宝箱から出てきた使役モンスターはFS1の状態でもそれなりに知能が高いのかもしれない。もちろん本能的な部分もあるだろうけどね」
なるほど、俺は完全に無意識だったけど使役モンスターは「大当たり」だと思っていた。そして、孤独なダンジョン生活でずっと一緒だったから他の人には使役モンスターに対する気持ちは誰にも負けないと思う。だから俺の場合はすんなりFS2に推移したと。
そして俺ほどでなくても、それなりに大事に思っている人の使役モンスターはFS2に遷移したはずだ。確か以前の調査結果では2000件中10件の0.5%という話だったかな?
外れだと思って放置している人が多い中で0.5%の人達は使役モンスターを大事に思っていたということだろう。俺と同じような気持ちの人がそれなりにいることにちょっと嬉しくもなる。
「ただね。その先で行き詰っている。レベルを上げてもFS2から変化しないんだ。現時点ではレベリングで上げた個体はみんなFS2止まり。レンのように1万体討伐が必要なのかもしれない。もちろんそれ以外にも要因はあるかもしれないけどね」
透子さんによると、FS2までの再現はそれなりに可能。まあ比較的簡単だという事情もある。でもその次がうまくいかない。少なくともレベリングでレベルを上げた使役モンスターはFS3への遷移の実現例がないらしい。
俺のように一緒に1万体討伐する必要があるのか?それとも他の条件があるのか?複数の条件があるのか?現時点では何も分かっていないとのこと。
そして1万体討伐が必要という条件になると現時点ではその実験が絶望的。そりゃそうだろうな。
なるほど、確かに俺たちの場合はかなり特殊だった。ずっと1人でやっていた俺にとっては使役モンスターは「大当たり」だった。一緒に討伐する仲間ができたんだからね。
だから一緒に1万体討伐もそれほど苦ではなかった。1人でやっていた時よりも断然楽しかった。更には金箱の裏技もあったからね。5体共に3階層まで同じモンスター1万体を討伐して進んだんだよな。
でも普通の人はその辺りの段階をレベリングで飛ばしている。自分でさえも面倒だから飛ばした1階層で使役モンスターの「1万体討伐」なんて普通のハンターには無理だろうし、そもそも考えも付かない。
それが例え研究用だとしてもきついよな。
「何が要因か分からないので再現は……たぶん難しいと思います。使役モンスターに1万体討伐させるだけでも普通は苦行ですよね。再現性を見るとなるとそれを何度もやらないと駄目。しかも他にも条件があるかもしれないとなると……ちょっと現実的ではないような気もしますね」
「そうなんだよなぁ。頼んでも誰もやろうとしない。お金で解決しようとなると、とんでもない費用が必要になりそうだ。今のレンの状況を公開すればやり出す人間はいるかもしれないが、それこそ事故が増えるかもしれない。ほんと頭が痛い難しい話だよ」
透子さんは肩を落とした。
「だからこそ、ラムにいろいろと話を聞いて少しでもヒントを得ようと思ったんだ。レン、私の気持ちが分かるでしょ! だからしばらく泊めさせてね!」
うう、結局そこに話が戻るのか。でも、そういった事情ならば仕方がないような気もする。でも、断っても泊まるつもり満々だよね。スーツケースまで持ってきてるし。
まあ仕方がないかな。でも我が家が賑やかになってそこは嬉しいところでもある。俺が帰るより前に透子さんがいてくれたら樹と葵も嬉しいだろう。
ひよりは……多少不満げに見えるけど俺のところに泊まる口実ができてそれはそれで嬉しいみたいだしとりあえずは皆、文句もないようだしOKなのかな。
とは言ってもあと4人(4体)の使役モンスターがダンジョンの外に外出可能となるとそうも言ってられない。樹と葵への説明も難しいしアパートが狭すぎる。
早めにルナとエリナさんにはマンションを借りる件について相談しようと思う。どうなることやら。
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