二十一冊目<虚像>
「続いてのニュースです。5歳の男の子が、ベランダから落下して亡くなりました。事故当日、男の子は1人で留守番をしていたとみられ……」
テレビから無機質なニュースキャスターの声が聞こえる。朝食である鮭の塩焼きを箸で切って、口に運ぶ。塩気をまるで感じない。
「最近多いわね。うちもマンションだし、怖いわぁ。でも、空はそんなことしないわよね?」
「うん。もちろんだよ。ベランダは、お母さんの許可なしには、行かないよ」
「流石!私の息子だわぁ」
甘ったるい声で僕に擦り寄る母。フローラルの香水が、鼻を刺激する。吐き気がした。
「あらぁ?箸が進んでいないわね?美味しくなぁい?」
肩に力が入る。手も汗ばんできた。
「そんなことないよ。ニュースを見ていたから、手が止まったんだ。毎朝美味しいよ」
「そう?よかったぁ」
鍛え抜かれた表情筋で、満面の笑みを作る。バレてはいないようだ。僕は、大急ぎで鮭、白米、味噌汁を一気にかきこむ。味がしないのに食感だけがあるのは、少し気持ち悪い。
「ご馳走様。僕、花壇の花に水をあげる当番だから、もう行くね」
「ええ。いってらっしゃい」
「行ってきます」
僕は日々、両親に監視されている。朝は母親。夜は父親。成績はもちろん、ご飯の食べ方や、椅子の座り方、歩き方、身だしなみ……何もかもが、完璧でなければならなかった。両親は優しい。暴力だけは振るわない。でもそれは、怪我を負えば、大切に育てた自慢の商品が傷つくのと同義だからだろう。虐待をしているというイメージは、作りたくないと思うから。
「おはようございます」
「おはよう空君。早いね。まだ誰もきてないよ」
「じゃあ、僕が1人でやりますよ」
「ダメよ。いつもそうやって、1人で抱え込むんだから。あなたはまだ小学4年生よ?甘えてもいいの。大人びてるから、他の先生方はあまり気にしていないけれど……」
大きな瞳を潤ませて僕をまっすぐ見つめるのは、担任の花畑先生。生徒1人1人に向き合おうと努力する、いい先生だと思う。
「ありがとうございます。じゃあ、もう少しだけ待ちます」
「なら、私とお話しましょう。空君は、大人になったら何になりたい?」
「え?あ……考えたことなかったです」
「そうなの?!この間、同じことを他の子に聞いたら、あれもこれもしたいって言っていたわ。早く大人になりたいんですって。そんなこと言えるのが羨ましいわ。私なんて、歳をとるのが嫌なのにね」
先生は、情景を思い出すように口に手を当てて笑っていた。僕はむしろ、大人になんてなりたくない。だって大人は、身勝手で、自分が正しいと信じている。他の大人は知らないが、少なくとも僕のよく知る大人は両親だ。あんな大人になら、ならない方がマシだ。
「僕は、子供のまま自由になりたいです」
「空君って、意外と子供なのね。童話にもあるわよね。大人になりたくない話。少し意外だわ」
先生は誤解している。でも、本当のことを話す気にはならないので、作り笑いを浮かべた。
「先生!おはよー!」
「あら、みんな来たみたいね。おはよう!」
先生もみんなも、今を謳歌しているように見える。眩しくて、触れたら火傷してしまいそうだ。
水やりが終わると、一時間目が始まった。授業は保健体育。内容は思春期の体の変化について。いわゆる、体が大人になるということ。今日は大人という言葉をよく聞く。かなり憂鬱だ。早く帰りたい。
ようやく六時間目が終わり、特に長い一日が終わった。
「空!久しぶりに今日放課後遊ばねえ?」
話しかけてきたのは、一年生の時に仲良くなった清井大地。低学年の時は授業も早く終わる。しかし学年が上がるにつれ、授業が増えて帰りが遅くなる。門限のある僕にとっては、この時間から遊びに行けるほど余裕はない。
「ごめん。僕の家、門限のがあるから……」
「門限って、何時?」
「5時だよ」
「じゃあ、10分だけ!校庭でサッカーしようぜ!」
「それならいいよ」
別に仲がいいからといって、放課後まで僕に付き合う必要はない。大地は明るい性格だから、僕以外にも友達はいるだろうに。
校庭に出ると、夕日が眩しかった。僕に早く帰れと、圧をかけてきているかのようだった。
「おーい!ボール蹴るぞー!」
「え、いつの間に……」
一緒に外に出たはずなのに、大地はすでに50メートルくらい離れたところでボールを構えて待っていた。そういえば足が速かったっけ。
「行くぞー!」
「おっとと……」
まっすぐ蹴ってはくれたが、運動不足なのか、ボールを受け止めるとふらついてしまった。
「大丈夫か?」
「問題ないよ」
「そっか」
その後、無言で10分間パスをし合うと、大地はボールを返しに行った。戻ってくると、途中まで一緒に家を目指した。
「なあ空。お前ってさ、今生きてて楽しい?」
「え?楽しい……と思うよ」
「俺がどうしても10分遊びたかったのはさ、お前が辛そうだったからだよ。なんていうか……楽しくなさそうっていうか……暗い顔ばっかりしてるみたいな。俺は、相談に乗れるほど頭のいいやつじゃないけど、気分転換には付き合えるなって思ってさ。にひひ」
大地は、僕の周りに漂う霧を晴らしてくれているようだった。確かに、無言でボールを蹴っている時間は、心が楽だった。気を遣わせて申し訳ないけど、それよりも今は感謝だ。太陽のような眩しい表情に、僕が救われたのは事実なのだから。
「ありがとう。今日は楽しかったよ。その……また……」
「もちろんだ!遠慮はいらないぜ!俺ら友達なんだからさ!あ、俺こっちだからまたなー!」
「うん。またね」
夕日のせいか、大地の頬は少しだけ赤く染まっていたように見えた。
「ただい……」
「ちょっとあなた!この間の空のテスト、平均以下だったわよ!勉強はあなたが見ているのでしょう!?どうしてこんなに出来が悪いのよ!」
「俺はちゃんと教えた!できないのは空のせいだろ!大体、お前だって、空の身なりをちゃんと見ているのか?この間なんて、制服のボタンが1つ取れていたぞ!」
「はあ!?見てるわよ!ボタンが取れてるって言わない空のせいじゃない!ああ、もう!あの子がいるとイライラするわ!でもきちんとしていないと、親が悪いって言われるし、ホントに最悪!」
「俺だって、出来の悪い子供に勉強を教えて疲れているんだ!ストレス溜まるし、イライラするに決まってる!はあーあ。もっとできる子供なら、自慢できるし苦労もせずに済んだのにな」
「同感だわ」
両親が言い争う声。リビングの扉の外まで聞こえてきた。大抵、両親が喧嘩をする時は、僕のテストの点が悪かったりしたときだ。
「出来の悪い子供……」
努力は、した分だけ報われるなんて言うけれど、そうでもないこともある。努力して、いい点が取れても、それは当たり前で、報われたということにはならない。褒められたり、認められたりするのなら、努力が報われたと言えるのだと僕は思う。
「……」
虚しい。砂の城でできた僕の心が、サラサラと崩れる音がした。
「死んだ魚の目をしているな。どうしたんだ?」
「誰?」
俯いた僕の頭の上から、聞きなれない女の人の声がした。顔を上げると、途端に風景は一変。薄いリビングの扉は消え、本で囲まれた部屋へと姿を変えた。両親の言い争う声も聞こえない。
「あなたは……?」
この部屋の中心のカウンター席座る女の人。長い髪は艶やかで、黒のレースは彼女の魅力を最大限生かすためにあるアイテムのようだ。
「私は葉月史乃。ようこそ、仙木空。選ばれし者である君を、伝承者である私は歓迎するぞ」
訳の分からない状況。でも、ここは静かで、嫌な大人はいない。心が安らぐ。
「この空間は気に入ったみたいだな」
「はい。できれば、ずっとここにいたいです。でも、そんなことをしたら、両親が怒るので……」
ようやく見つけた安息地。誰も知らない秘密基地を手に入れた気分だった。しかし、もうすぐ門限だ。帰らなければ。
「心配せずとも、ここでの時間と現世での時間はズレている。君がここでお茶を一杯飲んだくらいで門限にはならないよ」
「何でも知ってる、魔法使いみたいですね。分かりました。じゃあ、門限になるまでここにいさせて下さい」
「もちろんだ。ただ、私の話を聞きながらというのが条件だ。構わないか?」
「はい」
「では、こちらの椅子に座りたまえ。君のために、紅茶も淹れてある」
葉月さんは、向かい側の椅子を指してそう言った。僕は疑うことなく指示に従った。何となく、葉月さんからは、嫌な感じがしなかった。
葉月さんと向かい合わせで座ると、目の前に湯気のたった紅茶が置かれているのに気がついた。さわやかな香りが鼻腔をくすぐる。甘ったるい匂いより、よっぽどいい。
「いただきます」
味はしないが、匂いだけで、おいしいと言ってしまいそうだった。
「君くらいの年齢だと、紅茶はあまり好まないのだと思ったが、大丈夫なようだな」
「あー……その、僕、結構前から味覚を無くしていて。両親にも言えなくて……だから、紅茶も飲めたんだと思います。でも、すごくいい香りのするお茶だなって思いました!」
「そうか。それなら何よりだ」
「あの、それはそうと、話というのは?」
「ああ、そうだったな。最近、君達の住んでいる世界では、子供が転落死する事故が多いみたいだな」
「はい。今朝もそのニュースを見ました。それがどうかしたんですか?」
「その子たちは何を思って飛び降りたと思う?空への憧れ?飛び降りた先の未来?違うな。自ら飛び降りる子供たちの共通点は、大人になりたくないと感じたことだ」
「どうしてわかるんですか?」
「大人になりたくないと思うと、時間を止めてくれる妖精が囁くんだ。ここから飛び降りたら大人にならなくていい。このままの姿で生きていけると。つまり、妖精の言う、大人にならない方法は、子供のまま時を止めるということ。つまりは死だ」
「妖精だなんて……絵本じゃないんですから」
「もちろん、羽の生えた可愛い妖精ではない。正体は昔飛び降り自殺をした少女だ。残念ながら私は子供ではないから見ることはできないが、幼い子供のみが見ることができると言われている」
話が現実離れしすぎていて、理解するだけで精一杯だった。頭の中が大忙しなのにも関わらず、葉月さんは涼しい顔で話をどんどん進めてしまう。
「あ、あの!思考が追いつかなくて、少し待ってもらってもいいですか?」
「もちろんだ。質問にも答えるぞ」
「え、えっと、どうして死んだ女の子は、子供たちを殺そうとするんですか?」
「殺してはいないよ。少女は苦しい思いをする子供たちの救世主になっているんだ。信じていた親に裏切られた子、親がポイ捨てをしていたので、真似をしたら一家の恥だと暴力を振るわれた子、生まれてこなければよかったと言われた子……傷つき、大人になることを拒んだ子供たちだ。彼らを少女は死という夢の世界へと誘っているのだ。辛いことのない、子供のままでいられる場所へ」
気持ちはわかる。僕も、さっきの両親の言葉や日常生活が辛いし、息苦しい。楽になれるならなりたい。でも、死んでしまったら元も子もないのではないだろうか。
「そもそも、少女は誰なんですか?飛び降り自殺をした子だと言っていましたが……」
「では、少女のことを話そう。彼女は、生まれつき体が弱く、ほとんど病院で過ごしてきた。だが、5歳の誕生日の日。初めて両親からプレゼントをもらったそうだ。紫色に光り輝く、綺麗なペンダントだったという。5歳で、初めてのプレゼントという時点で違和感はあるが、治療などで渡さなかったと考えれば納得ができないわけではない。少女はとても喜んで、大事にした。しかし、念願の退院の日。両親が迎えに来るとワクワクしていた少女の元に現れたのは、知らない女の人。その人は、児童養護施設の職員だった」
「え?プレゼントをもらったって……」
「少女の両親は、彼女の治療費が膨大だからと、行方を眩ませていた。だから、一度も見舞いになど来たことがないんだ。プレゼントも、看護婦が気の毒に思ってあげたもの。少女は迎えに来ない、どこにいるのかもわからない両親という虚像を待ち続けたんだ」
やっぱり大人は勝手だ。純粋な気持ちも踏み躙って自分のことばかり。僕たち子供は、大人がいなければ生きていけないのに。不平等だ。
「少女は絶望するのと同時に、自分と同じ思いをする子供がいることを施設で知る。すると、救世主にならないとと言って、施設の二階から飛び降りて自殺。それ以降、大人に辛い思いさせられた子供の元に現れては死を促し、それを救いとするようになったという。姿は大人には見えないし、階段やベランダから飛び降りた子供が生きていたことも、寸前で止められたこともないから、大人には真実がわからないんだ」
条件は満たしている。でも、僕の下には……
「僕の所には来たことがないです。僕も、女の子と同じ気持ちなのに、迎えに来ないんです。僕は、本当は大人になりたいんでしょうか?」
「なりたいんじゃないか?大人になって、生きたまま、子供を幸せにしてやるといい。これを大切に持っていれば、それも不可能ではないだろう」
葉月さんは、カウンターに紫色のペンダントを出した。綺麗なのだが、ヒビが入っているし、少し赤黒い色も付いている。
「これは、少女が死ぬまでつけていたものだ。飛び降りた際にヒビが入ってしまったが、もう一度落とさない限りは大丈夫だ」
「え……ということは、紫じゃない色は……」
「血の跡だな」
「……」
急に寒くなった。お守りをくれるかのように、曰く付きのペンダントを渡してきた葉月さんも、少し怖かった。
「確かに、血の跡が残っているものだが、君を呪ったりしたくて渡しているのではない。これは少女の純粋な子供たちを救いたいという願いが込められた、理想の虚像ペンダントというものだ」
「理想の虚像?」
「少女の理想は、毎日両親が見舞いに来て、退院の日には、喜んで迎えに来る。抱きしめて、生まれてきてくれてありがとうと言ってもらうことだった。では、君の理想は?虚像でしかないが、温かい気持ちにはなれるかもしれないぞ」
「僕は……」
気がつくと、あれほど恐れていたペンダントを握りしめていた。頬には、生温かい雫が伝う。
「僕は、そうですね。できて当たり前と思わずに褒めてほしいです。やっぱり、頑張ったら、結果はどうあれ、褒めてほしいじゃないですか。頑張ったねって抱きしめてほしいです。それと、僕を商品のように扱わないでほしいです。2人が愛してくれたら、きっと、2人の価値を下げることなんてないはずだから。普通に生きたい……うぅ……」
嗚咽を止められなくなってしまった。思いが溢れてくる。こんな人生じゃなかったら、両親を愛し、大人を恨まなかったのに。悔しい。
「そうか。普通にか。これが最も難しいことかもしれないな。誰もが1人1人違う普通を持っているからな」
「多くは望まないのに、人生って難しいですね」
「悟るには早いだろう。君の普通を貫くために、生きてみせてくれ」
「はい……すみません。見苦しいところを……」
「別に?泣いている様は、見苦しいものではないだろう。次のステージに上がるための準備だと私は思っている。だから謝ることでない」
「はい……」
僕を肯定してるわけじゃない。葉月さんの考えが、僕を肯定してくれているだけ。でも、とても胸が熱くなった。
「本当にもらっていいんですか?」
「もちろんだ。曰く付きだと言って捨てないようにな」
「大丈夫です。葉月さんからもらった大切なものですから。初めは怖かったけど、もう平気です。肌身離さず持っていますね」
「ああ。
「それじゃあ、僕はこれで」
そろそろ時間だと言われ、名残惜しくもお別れになってしまった。帰りたくない足を引き摺りながら、図書館の扉を開けた。木でできた扉なのに、鉄でできているかのように冷たく、重かった。
扉の向こうは、なぜか家の玄関へと続いていた。だが、1度目に帰った時に比べ、静まり返っている。電気もついていない。
「ただいま……」
リビングの扉を開け、電気をつける。真ん中に置かれたテーブルの上に何か置いてあることに気がついた。
「なにこれ……」
目にした物は、広告の裏に書かれた手紙と、1万円札。手紙には、
『空へ
お父さんと仲直り旅行に行ってきます♫
適当にこのお金で何か食べてね』
建設し直していた砂の城は、建て直すのをやめ、一気に破壊した。その時、誰かに囁かれた。
「ねえ、私と一緒に、永遠に子供でいようよ。それも愛される幸せな子供よ。私はベランダで待っているからね」
姿は見えない。それでも誰なのかはわかる。葉月さんからもらったペンダントの持ち主だ。僕は、この紙切れ1枚で、大人になることを完全に拒み、大人を恨んでしまったようだ。
「葉月さん……あなたとの約束は、守れそうにないです……」
そう言ってペンダントを見つめた。雨のような雫が、赤黒い色を洗い流すようだった。
ベランダに出ると、痛みかけた茶髪に、ピンク色のパジャマを着た少女が立っていた。
「これは君のでしょ?」
少女にペンダントを見せる。前髪が長く、瞳を見ることは叶わなかったが、口がかすかに震えていた。
「やっぱりそうなんだ」
「それを持っているってことは、私が何をしてきたのかを知っているんでしょう?」
「でも、君なりの救済なんでしょ。別に、僕が何かを言う権利はないよ」
「時を止めて、幸せな偽物の世界に連れて行く。幸せでも偽物なの。生まれ変われたなら、もっといい人生が送れるかもしれない可能性を奪っているの。自覚はあるの。だけど、放っておけないの」
「わかっているつもりだよ。だからさ、僕も連れて行ってよ。偽物の幸せな世界に」
「本気なの?全部知っているのに?」
「うん。僕は、ここに来る前に、素敵な人に会ったんだ。このペンダントを、くれた人なんだけど。その人の言葉で、僕は頑張ってみようと思ったんだ。でもさ、両親が残した紙切れの手紙に心が動いてしまったんだ。結局、僕は両親を切り捨てられないんだ。1人で生きる強さもない。両親の鳥籠の中で、飼い殺しにされたとしても、僕は逃げられないんだ。勇気が、強さがないから。そんな人生なら、偽物でもいい。1度でも幸せだって言ってみたいんだ」
「そう。とても辛かったのね。わかったわ。一緒にいきましょう」
「うん」
体が宙に浮き、ベランダの塀の上まで誘う。そしてそのまま空を飛んだ。しかし、翼のない僕の体は、そのまま地上に落下した。ガラスの割れる音共に生温かい感触を感じた。血だと思うが、不思議と痛みはなかった。
意識が遠ざっていく刹那、割れたペンダントからプロジェクターで投影されたかのような映像が見えた。両親が僕の頭を撫でている映像。とても幸せそうだった。
「虚像……理想の……」
視界が真っ暗になった。死ぬというのに、心が晴れやかで、温かかった。
「速報です。ベランダから、またも子供が転落事故に遭いました。亡くなったのは、仙木空君、小学4年生です。空君は、1人で留守番をしていた所、何らかの理由でベランダにでて、転落したと思われます。えー、空君の遺体の側には割れたペンダントがあり、そこから映像が投影されていたようです。映像には、家庭内での虐待と思われる様子や、学校の友達と笑顔で遊ぶ姿が映っており、空君や亡くなった他の子供たちが登場しているとのことで、警察が調べを進めています」
図書館から現世のテレビを色のない瞳で眺めるのは、葉月史乃。
「結局、私は君にとってなんだったんだろうな」
熱の冷めないニュースを消すと、おもむろにテレビのリモコンを床に投げ捨てた。




