伝承者の策略<黒煙編>
「ねえねえ史乃!黒って罪の色って聞いたことない?あるよね? 」
「え?私は死の色って聞いたことあるけど? 」
「どっちも正解だよ! 」
どういうことよ。
私、葉月史乃は、毎回のことながら、黒板の話す言葉の意味を読み取るのに苦労していた。
「それがどうしたのよ。選ばれし者に関係あるの? 」
「まあね!今回はこれ! 」
黒板がそういうと、いつの間にか、私の手元に本が置かれていた。
タイトルは『黒煙』
昔、とある家族に1人の子供が生まれた。しかし、想像していた以上に、手のかかる子供の世話は、両親にとって大きなストレスになっていった。
両親は、このストレスを爆発させる先が欲しくなり、子供をある程度大きくなるまで育て、自分達がこんなに大変だったと思い知らせてやろうと思った。
その後、子供は5歳になると、ストレスの吐口として、酷い暴力を毎日受け続けた。それでも、両親が苦しんできたとか、お前は失敗作だからと言うため、子供は反抗することも、助けを求めることもしなかったという。やがて両親は、暴力を振るうことに飽きたと言うと、庭で子供を火炙りにして殺した。熱いや痛いと泣き叫ぶ子供を、笑って見ていたらしい。まるで、面白いものを見るように。
子供が黒焦げになると、そこから、異様なまでに黒煙が上がり家を丸ごと包み込んだ。両親は、黒煙から、子供の恨みや憎しみ、苦しみ、痛みが全て一気に伝わってきて、恐怖した。辺りが見えないくらいの黒煙から逃れたくて、必死に出口を探したが、見つけられず、そのまま両親は死んだという。
「うわーん!ナビちゃん感動しちゃったー! 」
「え!?どこに!?胸糞悪いだけじゃないの!」
「両親のしたことを考えるとそうだけど、子供は最後まで助けを求めなかったんだよ?それなのに、火で炙られたとき初めて自分が悪いんじゃないってわかったんだよ?そして、一矢報いた。感動! 」
「まあ、そう言われるとね」
黒板の感想はさておき、今回の伝えるための道具を見てみよう。
箱を開けると、黒焦げのカードらしきものと、木でできた丸い玉が、7つ入っていた。
丸い玉は、どうやら悲鳴の煙玉というもので、伝承が忘れられてしまう前に、集められるだけの黒煙を集めたものらしい。だが、もう一つの黒焦げカードは何かは不明だ。説明もないが、とあるカードを使うと、伝承は忘れられないだろうとだけかいてあった。
「ねえ黒板。とあるカードってなに?こんな焦げたカードが何かの意味を表すの? 」
「うーん、こればかりは、ナビちゃんが正解を言わないとだめかな。これじゃ何のカードかわからないもんね!よし!大サービス!ナビちゃん正解言いまーす!それは、臓器提供意思表示カードだよ!脳死、及び心臓が停止した死後、臓器を提供しますっていう自身の意思を示したカード!誰でも手に入れることは可能だし、記入して持っておくだけで、もしもの時に本人の意思を確認せずとも知ることができるよ! 」
「焦げていて何て書いてあるかはわからないけれど、どうしてこのカードなの?というか、どうして黒焦げ? 」
「恐らく、5歳にして、臓器を提供しようとおもっていたんだろうね。持っていたけど、自分の体と共に焼かれてしまったってところかな! 」
「黒板には、どうして臓器提供意思表示カードだって、わかったの? 」
「それはナビちゃんが優秀だから!というのは半分冗談で、まあ、ナビちゃん独自の目というか、人間では見えないものが見えたりするって感じかな!だから、答えをあっさり言ったってわけ! 」
「そうなんだ。でも、このカードを選ばれし者に書いてもらうってこと? 」
「そうだね!」
「というか、選ばれし者ってどんな人なの?今回は随分もったいつけるじゃない」
「別に、もったいつけてるわけじゃないよ!えーと、選ばれし者の名前糸杉果楠。中学3年生の男の子。だけど、親に暴力を振るわれ、こき使われで、疲れちゃった彼は、なんと現在死ぬ準備をしているところだよ! 」
「ちょっと!大変じゃないの!今すぐ呼びなさいよ!」
「いやー、そうしたいのは山々なんだけど、糸杉果楠は今家の中で鎖に繋がれているんだよね。だから、両親がいなくなるのを見計らって2号ちゃんに連れて来てもらわないとダメなんだよ」
「どうしてそんなことに……」
「助けを求めたら、父親にバレて、監禁されたらしい。あ!その時の映像見る?糸杉果楠の父親、全然似合わないカッコしてるから! 」
黒板は、警察の人、教員らしき人、そして糸杉果楠が映った映像を見せて来た。糸杉果楠の父親は、ん?これだろうか?
「ねえ、もしかして、このスーツ着てる人のこと? 」
「そうそう!どう見てもおろしたてなのに、いつもスーツ着てる人みたいな扱われ方してさ!しかも、似合ってないよね! 」
「待って。この段階で呼べなかったわけ? 」
「無理だよー。糸杉果楠は、教員といるか、父親といるか、ナビちゃんが見つけた時には1人でいる時間なんてなかったんだよ。だから無理だった」
「そう。じゃあ、仕方ないわね。それじゃあ、糸杉果楠は、黒板の言った方法で連れてきてもらうわ。後は、そうね。煙玉よね。これって、黒煙を起こすために使うのよね?繋がれている彼には使えないってことじゃないの? 」
これを町中に撒けば伝わるシステムだろう。だが、黒板は、意外な答えを出した。
「多分違う。史乃の言うのが答えなら、カードはいらないわけだよね? 」
「まあ……」
「ってことは!煙玉は、どこに行くのが正解? 」
「どこって……まさか!臓器?! 」
黒板がにやりと笑った気がした。
「臓器に煙玉ってどういうことなの? 」
「そもそも、煙玉って言っているけど、別に煙を起こしたいわけじゃないんだよ。最初に言ったよね。黒は死の色、罪の色。つまり、死に近づいている人と罪人がいるということを知らせるために、黒煙という形になったから、ただ黒煙を起こすことが正解ではないんだよ。あー!今日のナビちゃん親切すぎて素敵! 」
「なるほど……そういうことなのね。確かに今日の黒板は、賞賛に値するわ」
「え、素直に褒められるとそれはそれで気味悪いよ」
「いちいち鬱陶しいわね。えっと、じゃあ、前回のペナンスの宝石みたいに、飲んで貰うには……量が多いか。親切な黒板、何とかならないの? 」
「しょうがないなー。薬品室に行くと、何でも液状化するくせに元の形は留めておくハイパー薬があるよ!」
「すごい薬ね……」
「これを使って溶かして、注射器で投与すれば、煙玉の形を保ったまま、それぞれの臓器に配置される。そして、提供された人が生きている限り、伝承を伝え続けるってこと!もちろん、その人が死んでも、伝承は多くの人たちに伝わっているから問題ない! 」
「なるほど。人の命を救うこともして、伝承も伝えられる。糸杉果楠を救えないのは残念だけど」
「まあ、1人を犠牲にするか、複数を犠牲にするかの違いだよね!ナビちゃんなら、迷いなく1人を切り捨てるかな!犠牲は少ないに越したことはないし、全員助けるっていう綺麗事も好きじゃないからね! 」
黒板ならやりかねない。私も綺麗事が好きなわけではない。しかし、被害者を犠牲にするというところに引っかかっているのだ。口に出しては言わないけれど。私の力では全員助けて、かつ伝承を伝えるなんて高度なことは思いつかない。
本当の気持ちは、飲み込んだ。これは、私が、黒板とは違う人間である証だ。どうせ論破されることもわかってるし。割り切れない、面倒な感情も悪くはないだろう。
薬品室に行くと、わかっていたかのように、小さな瓶と注射器がテーブルの上に置かれていた。
私は2つを手に取ると、戦場に向かう戦士のような面持ちで部屋を出た。
私は死を強要する。臓器を提供することを強要する。最悪だろう。恨まれるかもしれない。でもたまには、選ばれし者たちの恨みを受け止めるのもいいだろう。伝承を伝えてもらうためには、ちょうどいい対価だと思った。




