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見えざる館の伝承者    作者: 花咲マーチ
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伝承者の策略<Remember me編>

「ねえ史乃!ペットってモノだと思う? 」

「何よ急に……あ」

 黒板のこの手の質問は、選ばれし者が見つかり、尚且つ私にヒントを与えるための問いだ。

「そうね。わからないけど、前にてるてる坊主の話をしたじゃない?それを思うと、モノっていうのもどうなのかしら?人間の言葉は話せないけど、自分の意思で動くし。モノではないと思うわ」

「そっかそっか!史乃は以前の話も覚えていて偉いよ! 」

「当然よ。それで?今回はどんな人にどんな伝承を伝えればいいのかしら? 」

「うんうん!そうこなくちゃ!今回は、翠鈴音(みどりすずね)。今年から社会人になった女の子。大手の会社で頑張ろうと()()()()()()()()()だよ! 」

 黒板に映った1人の女の子。シワひとつないスーツを着ていた。

「表向きってなによ。映像ではしっかりしているように見えるわ」

「外面ってやつ!実際は、愛犬の面倒を人に押し付けるような最低の人間だよ! 」

 何も悪びれることなく発言する黒板。確かに、愛犬の面倒を見ているか見ていないかなんて、外部の人間が知ることはできない。恐るべき外面。

「翠鈴音は、犬を飼っているの? 」

「そうだよ!スミって名前!でも、かなり高齢で、歩くこともほとんどできないし、目も見えない。体の内部、特に膵臓かな。それらが悪い犬だよ!当然、若い時は元気いっぱいだったみたいだけど」

「世話がかかりそうね。それで翠鈴音は面倒を見るのをやめてしまったのかしら? 」

「元気な時は見ていたみたいだよ!でも、元気がなくなって、今みたいな状態になってからは、母親に世話を押し付けているみたい!だからかなー?悪夢を見るのは」

 黒板の明るい声色は、一気に明るさを失った。知らない人が聞いたらゾッとしそうなギャップだが、わかっている私からしたらどうということはない。これは、伝承に関わる重大なキーワードなのだ。まあ、私も最近気がついたのだが。


「悪夢? 」

「うん!毎晩毎晩、遊んでーとか名前を呼んでーとか言われるんだって!呼びかけてくる正体は飼い犬だけど、面倒を見ていないせいで、飼い犬の顔も忘れちゃったみたいだね!怖くなって毎朝起きるみたいだよ! 」

 顔忘れるほど放っておくなんて、どんな飼い主だよ。

「じゃあ、翠鈴音が、スミをきちんと見たら、悪夢はなくなるわけ? 」

「手遅れかも!だって、スミは、気づいてくれない飼い主に怒りを覚えちゃって、膵臓に呪いみたいなものをかけてしまったからね!悪夢と腹痛、睡眠不足による頭痛で、翠鈴音の体調は最悪みたいだよ! 」

「呪いってどうやってかけるのよ」

「わからないけど、気が付かないなら痛みを共有しようってことかな! 」

「なるほどね。でも、伝承とつながるの?それ」

「もっちろん!関係ないわけないよ!読めばわかるよ! 」

 そう言われ、(でんしょう)のページを順番にめくった。


 内容はこうだった。

 

 昔、仲のいい夫婦がいた。しかし、妻が病気になり、家事や仕事ができなくなった途端、離婚してしまう。両親に先立たれていた妻は、夫も失い1人なってしまい、間も無く亡くなってしまう。夫は、妻と別れ新しい妻との生活を楽しんでいたが、突然元妻と同じようになってしまうと、新しい妻は呆気なく捨ててしまう。夫は死ぬ間際、元妻から同じ苦しみを分けてあげないとと言う妻をみたらしい。

 だが、夫は、妻が病気なる前から浮気をしており、妻はそれに気がついていたが、気づいていないふりをしていた。そして、呪いをかけるように、毎日の食事に自分の血液をバレない程度に入れていたという。

 この伝承を伝えるには、付属のカプセルにペナンスの宝石と同じ価値のものを入れ、痛みを分けたい者に飲ませることが必要である。


「人って、血液飲んでもいいの? 」

「ダメなんじゃない?それだけで、別の病気になりそう」

「だよね。というか、ペナンスの宝石って何?伝承の伝え方まで丁寧に書いてあるくせに、肝心のことが書いてないじゃない」

 いつもは、伝えるための道具についての説明はあるが、どう使うかまで書かれていたことはない。だからいつも試行錯誤しているのだが。

「ペナンスは、英語で、過ちに対する償いとしての自己処罰って意味だよ。その宝石ってこと。で、それがどこにあるかというと、スミの背中にあるんだよ」

「背中? 」

 黒板は、映っている映像を切り替え、スミだけを映した。背中には、丸くて赤い何かがついていた。

「あれがペナンスの宝石なの?どう見てもあれは怪我か何かじゃないの? 」

「普通に見たらね。でも、中身は違うよ。と言っても血の塊なのは否定しないけど、あれを本についていたカプセルに入れることで、宝石になるよ」

「それで、翠鈴音に、飲んでもらえばいいってわけね。これ飲んだら翠鈴音はどうなるの?もう膵臓の痛みは共有されているんだよね? 」

「膵臓は、ペナンスの宝石の力じゃないから関係ないよ。そもそもペナンスの宝石は、痛みの共有じゃない。痛みを引き受けることなんだよ。つまり、スミの悪い部分をランダムに引き受けるっていうのが、ペナンスの宝石本来の力」

「ってことは、スミの悪い部分を引き受けた翠鈴音の体調が悪くなって、スミは元気になるってこと? 」

「そうだよ。翠鈴音は、何の痛みを引き受けるかは知らないけど、これまでの生活は送れないだろうね。あ!それから、ペナンスの宝石は、体内から死ぬまでなくなることはないから、少しでも反省していないと宝石がみなせば、所有者を殺すから! 」

「爆弾を体内に埋め込むみたいね…… 」

「まあ、人間が反省するには、それくらいしないとダメなのかもねー」

 言いたくはないが、そうなのかもしれない。誰だって爆弾を爆発させたくはないだろう。ましてや、自分の体内にある爆弾なんて。

「もう呼ぶ?特に準備ってのも必要なさそうだし」

「そうね。この本を残した人は随分と親切なのね。まあ、物騒な物であるのは変わらないけど」

「まあね!じゃあ選ばれし者のご登場! 」

 モニター越しに、苦しそうに地面に座り込む翠鈴音。スミだってそれくらい痛いんだって、伝わるといいな。

 ペットだって、人間と同じで生きてるんだから。



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