伝承者の策略<神様の天秤編>
今日は、館内がとても静かだ。黒板もハイテンションで騒いだりしないし、選ばれし者もまだ見つかっていない。だが、静かだというのに気持ちが落ち着かない。これが嵐の前の静けさというやつなのだろうか?
そんなことを考えていると、突然館の扉が勢いよく開いた。
ーバンッ!!
扉が壊れそうな音がした後、白髪の女の子が姿を現した。
「伝承者はいるかしら?」
いかにも高飛車なお嬢様という感じの女の子。私は思わず小さな声で黒板に尋ねた。
「ちょっと!あれ誰なの?選ばれし者?」
「違うよ。あれは神様。」
「神様って、あの神様?」
「どの神様かは知らないけどそうだよ。」
「なんでここに入れるわけ?私と選ばれし者しか入れないんじゃなかった?」
「神は例外だよ。こちらの存在を認知しているなら、ここに来ることも容易いだろう。」
やけに落ち着いている黒板。意味はよくわからなかったが、神は自由に行きたい場所に行けるらしい。
「とにかく、来てしまったものは仕方がない。史乃。選ばれし者に接するように接して。絶対に怯まないこと。神のペースにのらないこと。」
「わ、わかったわ。」
黒板からのアドバイスを受け、私は神様の前に立った。
「ようこそ、伝承者の館へ。私が伝承者、葉月史乃。歓迎するぞ神よ。」
「あなたが今の伝承者?随分と幼いわね。」
あんただって幼いだろうが!って言ってやろうかと思ったけれど、とりあえず我慢した。
「要件はなんだ?神であろうあなたが、ふらっと立ち寄っただけではあるまい?」
「話が早くて助かるわ。単刀直入に言うけど、次の伝承は伝えないでくれるかしら?」
「伝えることが我が使命。いくら神の頼みでも聞くことは難しい。」
「じゃあこの館ごと破壊しましょうか?あなたが伝承に触れなければ済むことだし。」
予想外すぎる答え。神だから成せる技か。どう対応するのよ!!内心焦っていると、
「失礼ですが神よ。そればできないかと。」
「あんたは?」
「私は伝承者のサポートを任されております人工知能ナビと申します。」
「あっそ。で?なんでできないって言えるの?」
「あなた様が干渉できるのは人間のみ。ここの主である葉月史乃様はすでにお亡くなりになられた身。人間ではないのです。」
「なっ!?」
黒板の聞いたことない落ち着いた声。ギャップには戸惑ったが、発言してもらえて助かった。
「昔とやり方変えたの!?昔は生きた人間を閉じ込めて伝えさせていたじゃない!」
「昔のことは存じあげませんが、時代が変われば変化がつきまとう。仕方のないことです。」
「くっ!」
心底悔しそうな神。その様子は、まるで何かを必死に隠そうとしているようだった。
「神よ。一体何を焦っている?ひょっとして、何かを隠しているわけではないだろうな?」
「ふん!今日のところは帰ってやるわ!覚えてなさい!」
そう言うと神は扉を乱暴に閉めて出て行った。
神が出て行った後も何が起きたのかを理解するのが追い付かず、呆然としていた。
「史乃?もう神様帰ったけど?」
黒板に話しかけらてはっとした。
「あ、うん。ごめん。ぼーっとしてた。」
「見ればわかるけど、これからどうする?選ばれし者はついさっき見つかったよ。」
「そう。ねえ黒板。一つ聞きたいんだけど、神ってなんなの?あんな感じの奴が現世を仕切っているの?」
「うーん。まあ神って一言で言っても色々な神がいるわけ。今回の本を読めばわかると思うけど。」
そういった黒板の近くには、次の本がおかれていた。タイトルは『神様の天秤』
「えーと……」
黒板に促され、一気に読み進める。
まもなくして、本が読み終わった私は黒板に尋ねた。
「この伝承によれば、神は世界の天秤を守っているらしいじゃん。で、この天秤が釣り合っているなら世界は平等で幸せに満ちているってどういうこと?」
あまり意味の分からない内容だった。
「そうだなあ。天秤ってのが何かはわかる?」
「それならわかるわ。」
「じゃあ、それの超巨大バージョンが世界にあった。だけど、人間が増えすぎたせいで神は一人で管理しきれなくなった。そんな時、町ごとに天秤を分散させ、神も分散させることを思いついた神は実行し今に至る。つまり、各町に一つの天秤とそれを守護する神が存在するってこと。今日来た神も一つの天秤を守護する神だよ。」
「てことは、町によって平等かどうかも変わるってこと?」
「そう。神は釣り合った状態を維持するべく人間たちを監視するのが役目。だけど、神の気分次第では、天秤を不釣り合いにすることだって可能なんだよ。」
「まさに神のみぞ知るって感じね。で、なんであの神は焦ってここまで来たのよ。」
「あの神は選ばれし者が住んでいる町の神だよ。そして、あの神は今のところ最も悪質かな。」
「どういうこと?」
「さっきも言ったけど、神の気分次第では天秤を不釣り合いにできる。でも決まりとして、一定期間を過ぎたら釣り合った状態に戻さなければならない。だけどあの神は釣り合わせるために必要なものを捨てたんだ。」
「それって……」
「本に入っていた伝える道具。一つは神に会うための謁見チケット。もう一つは釣り合わせるのに必要な神の分銅。その小さな箱に入っているやつ。」
「じゃあ、ここにある分銅はあの神が捨てたものってこと?」
「そう。伝承自体は始まりの神が残しているけれど、伝える道具は何もなかった。そこで、あいつが捨てた分銅を拾ってきたってわけ。まあ、謁見チケットくらい伝承者ならいくらでも発行できるし。」
「伝承者って神より偉いの?」
「どうだろう?別に偉くはないと思うよ。」
神に軽々しく会える伝承者とは一体なんなのか。疑問に思ったが今は伝える方法を考えよう。伝承者のことは聞いても黒板が答えてくれるとは思えなかった。
「黒板。謁見チケットで選ばれし者と一緒に神に会いに行くってのはどうかしら?」
しばらく黒板の話も踏まえて伝える方法を考えていた。そして思いついたのが一緒に神に会いに行くこと。そこでのやり取りを聞けば選ばれし者にも伝えられると考えたのだ。
「悪くはないけど無理だよ。」
「え?!}
あっさり無理だと言われてしまったが。
「なんでよ!」
「選ばれし者に同行するのはいいけど、史乃はここからでられないよ。その体はあってないようなものなんだよ。ここからでれば魂むき出しの正真正銘の丸裸状態。外部からの刺激で魂が砕けるよ。」
「私ってそんな存在なの……」
逆に怖いよ。
「簡単に言えばそういう感じって話。でも同行させたいって考えなら、2号ちゃんを使えばいい。そのために作ったんだから。」
「あ……」
すっかり彼女に行ってもらう選択肢はなかった。
「でも、2号ちゃんは神に会ってもいいの?人じゃないよ?」
「関係ないよ。謁見チケットがある以上、だれでも会いに行ける。ただ史乃は外の出ることができないだけ。」
「なるほど。じゃあ2号ちゃんに行ってもらうとして、名前どうしようか?」
「え?名前?」
「そう。人間の前で名乗る名前。2号って名前もいいけど、ロボットだとか思われるのもちょっとね。」
「なるほど。」
とはいえ、2号などと安直な名前を付けた自分にネーミングセンスがあるとは思えない。
「うーん……あ!思いついた!二宮ニイナって名前はどうかな?」
「2から離れなよ……まあ人間っぽくなったしいいんじゃない?」
私からしてみれば渾身の名前。確かに2号から連想した名前だが可愛さもあっていいと思う。
「よし。じゃあ2号ちゃん改め、ニイナちゃんに選ばれし者と同行してもらって神に会ってもらう。ここからは私の想像なんだけど、選ばれし者には私から伝承を伝える必要ってない気がするんだよね。」
「なんで?」
「だってあの神、何か隠してるっぽいじゃん。黒板が回収した神の分銅を見たら間違いなく焦ってなんでも勝手に話すと思うのよね。だから神本人から伝承を伝えてもらう。それにこの本、神の存在を美化しすぎていてイマイチなのよね。ここにある本のくせに嘘っぽいっていうか……とにかく、私は今回見守るに徹するわ。」
「なるほど。うん!史乃が考えていることは大体正解だから、それでいこう。じゃあ早速、選ばれし者をここに呼んでもいい?」
「あ、その前に2号ちゃんに学習だけさせておくわ。私が合図したら呼んでくれる?」
「わかったよ。」
そう言うと、私は分身室へと向かった。まさかこの行動が、選ばれし者を呼ぶのに最高なタイミングになるとは思いもしなかった。




