七冊目<神様の天秤>
姉が死んだ。突然のことだった。
2か月前―
「行ってきまーす。」
私の姉、皇スイはいつも通り大学へ出かけた。
「お姉ちゃん!ちょっと待ってよー。」
私こと、皇レンは高校生になっても姉が大好きで、途中まで一緒に登校するのが日課だった。
「もー、レンったら。高校生なんだし、私と学校に通うなんてやめたら?シスコンなんて言われちゃうわよ?」
「いいのよ別に。名前のせいで男かと思ったとか散々からかわれてきたんだから、今更シスコンだの言われても別に気にしないわ。私にとって、お姉ちゃんと途中まで学校に通うのが毎朝の楽しみなんだから。」
「ふふ。それなら姉冥利につきるわね。」
スイは優しい。そして美人だ。腰まで伸びた黒髪は艶々で、きれいに切り揃えられている。まるでどこかのお嬢様のようだった。対して私は髪質こそにているものの、ショートカットで寝ぐせも直していないからボサボサだ。これでは本当に男と間違われても仕方ないと思えてくる。
「ねえレン。もう少しおしゃれをする気はないの?名前はどうあれ、おしゃれすれば誰も男の子と間違うことなんてないわよ?あ!そうだわ!今度の日曜、一緒にお買い物にいきましょう!私が服を選んであげるわ!」
「えー……おしゃれなんていいよ。まあでも、お姉ちゃんが選んでくれるなら……行こうかな……」
「やったあ!決まりね!じゃあ私こっちだから。日曜に予定入れちゃだめだからね?」
「わかってるよ。」
満面の笑顔で手を振るスイ。まさかこれが、最期の別れになるなんて思いもしなかった。
学校が終わると、私は携帯電話に電源を入れた。学校では使用禁止だからだ。すると電源を入れると同時に母から電話がかかってきた。
「もしもし?どうしたの?」
「レン?今どこ?!」
電話越しの母の声は何やら焦っているようだった。
「えっと、今学校終わったところだけど……どうしたの?」
「そう……だったら今からお父さんに迎えに行ってもらうから学校から出ちゃだめよ?」
「ちょっと!なんでよ!」
「……」
事情を聞こうと母を問い詰める。母は何も言わない。
「もしもし?ねえったら!」
「スイが……」
「え……」
急に窓から強い風が吹きつけた。そのせいか、私は母の言ったことを聞き取ることができなかった。
「ごめん。なんて言ったの?」
いや、嘘だ。本当は聞こえてもいるし、理解もしていた。ただ信じたくないという私の心が、聞こえていなかったと反射的に言ってしまったのだ。
「スイが刺されたの。」
私は携帯電話を床に落とし、呆然と窓の外を眺めていた。
しばらくして、父が迎えに来た。呆然と立ち尽くす私を歩くように促し、家まで送ってくれた。
「お母さんは今病院にいるんだ。お父さんも今からそっちに向かうから、レンは家にいてくれ。誰が来ても玄関の扉は開けてはいけないよ。じゃあ行ってくるから。」
「……お姉ちゃんは?生きてるよね?大丈夫だよね?」
「病院の先生たちが頑張ってくれている。きっと神様はスイを助けてくださる。だから信じて待っていなさい。」
そう言うと父は病院へ出かけて行った。
「神様……」
そういえばよく、スイは神様の話をしていたっけ。
「ねえレン。私ね、神様って絶対いると思うのよ。」
私は中学生の頃、少しぐれていた。反抗期というやつなのか、大好きなスイのことさえも拒絶していた時期だった。そんな時によくスイは神様の話をした。
「うるさいな。神なんているわけないじゃん。それとも何?神様はいるから行いを正せとかいうわけ?」
「神様はいるわ。いい行いを続けていけば、見ていてくださる神様はその分、私たちに幸せをくれるわ。だからレン。少しずつでいいから、お母さんやお父さんに怒ったりするのをやめてみない?」
「はあ。聞いて損した。馬鹿馬鹿しいったらありゃしない。」
「あ!レン!待って!」
スポーツも勉強もできて、美人で人当たりもいい優等生には、できないことが多い劣等生の気持ちなんてわからない。そう決めつけてスイを拒んでいた。
そんなある日。私は当時仲良くしていたぐれた連中ばかりのグループから突然、無視されるようになった。
「んだよ……」
初めのうちは気に入らなくてイライラしていたが、それにも飽きた私はふと、真面目に生きてみようと思った。ろくでもない奴らがいるグループからなんの苦労もなく抜けられたのだ。これはチャンスなのではないだろうか。ぐれた私からは考えられないような発想だった。
それから私は真面目に授業を受け、普通になった。それ以来、スイへの劣等感もなくなったし両親にあたることもなくなっていった。
「ねえレン。私が前にした話、覚えてる?」
「神様の話?」
「そうそう!覚えていてくれたの?!」
「別にそういうわけじゃ……」
「ふふ。照れない照れない。私ね、思ったの。レンがあの怖いグループから抜けられたのは神様のお陰だって。レンって反抗はしていたけど、あの人たちみたいに本当に悪いことはしなかったじゃない?だからきっと、神様がレンをあのグループからぬけさせてくれたのよ!」
「つまり、私はぐれていたけど、悪い行いをしていなかったから助かったって言いたいの?」
「そう!やっぱり神様はいるんだわ。」
「じゃあスイは、神様が見ているから毎日頑張っているの?」
「ええ。私が頑張ったら、神様は私だけじゃなくて家族にも幸せをくださるんじゃないかって思っているの。だから、いくらでも頑張れるわ。」
「じゃあ、私がこうなれたのは私のお陰じゃなくてスイのお陰だね。」
「え?」
「だって、スイが頑張ってくれたから私、幸せをもらうことができたよ。ありがとう。」
「レン……ふふ。どういたしまして。」
スイは照れながら、嬉しそうに笑った。あの時の表情は今でも覚えている。
それなのに……
「あれ?私寝ちゃってた?」
私は、自室の勉強机に突っ伏して寝ていたみたいだ。
「って、今何時?!」
慌てて目覚まし時計を見る。だが帰ってから15分ほどしかたっていなかった。夢を見ていたせいか、朝まで寝てしまった気分だった。
「まだそんなに経ってなかった。でも、お父さんとお母さん遅いな……」
私は両親の帰りを待ちながらスイの無事を祈っていた。
両親が帰宅したのはずいぶんと遅い時間だった。
「お父さんお母さんお帰り!お姉ちゃんは?」
「……」
「え……ねえ、何とか言ってよ。お姉ちゃんは大丈夫なんだよね?入院してしばらくしたら帰ってくるんだよね?」
「……」
両親の沈黙は答えも同然だった。きっと姉は……
「お姉ちゃんは……帰ってこないの?」
「……っ」
両親は涙を流す。
「そんな……」
いい行いを続けてきたスイ。だがスイは、誰かに刺され、死んでしまった。神様はスイを見捨てたのだ。日頃の行いなど関係なかった。神様はスイを助けてくれなかった。
「なんで……」
怒り交じりの涙がこぼれる。私は神を恨んだ。いや、ここは犯人を恨むべきなのだろうが、夢をみたせいか、神のほうが許せなかった。
私の家はスイが死んでから数日経っても、お通夜のように暗いままだった。気のせいか、部屋の電気も薄暗く見える。
「行ってきます。」
私の声が玄関に虚しく響いた。両親は私の声など聞こえていないようだった。私はしばらく学校を休んでいたが、気分を入れ替えるためにも学校に行くことにした。
「はあ……」
足取りが重い。いつもなら、スイが一緒の通学路はなぜか知らないところみたいだった。
「お姉ちゃん……日曜の約束……破らないでよ……」
スイと別れる二股の道。スイと約束をした道。気分を入れ替えるどころか、あの日のことがフラッシュバックしてくる。涙が止まらない。
「うぅ……」
私は思わずしゃがみ込んでしまった。
「お姉ちゃん……私、お姉ちゃんがいないと寂しい……」
「いつまで泣いているつもりなのかな?」
「え……」
私は誰かに話しかけられたため、顔を上げる。すると、目の前に本がぎっしり詰まった本棚が一面に広がった。しゃがみ込んだ道はなく、どこかの建物の中にいたのだった。
「なんで?ここ、どこ……?」
「ここは伝承者の館。ようこそ選ばれし者、皇レンよ。私は伝承者、葉月史乃。」
「えっと……」
葉月史乃と名乗った少女は、図書館の受付の人みたいに座っており、スイにも負けないくらい美人だった。だが、わからないことも多いし、黒髪ストレートの綺麗な髪はスイを思い出させるため辛いし、色々なことがごちゃ混ぜになって上手く言葉にならなかった。
「今の君には、何を説明しても話になりそうにないから細かいことは省くけれど、簡単に言えばここは異世界みたいなものだ。異世界転移とでもいえばいいかな。」
「異世界……」
最近、異世界ものの本を読んでいるから、馴染みがあると言えば馴染みはあるが、現実味は全くなかった。まさか自分が異世界にくることになるとは。
「じゃ、じゃあ私は死んだの?本とかでは事故に遭って死んで異世界に行くって展開が結構多いけど……」
「君は死んでいないよ。友達の家にいくような感じで異世界に来てもらっているだけだよ。そもそも死んでしまっていたら転移とは言わず転生と言っているよ。」
「ああ……そうか……」
また言葉を失ってしまった。こんなに私はコミュニケーションのとれない人間だったかな。
「さて、話は変わるけれど、君、こんな話は聞いたことあるかい?」
「え?」
「この世界には大きな天秤が存在しているんだ。こんな感じのね。」
そう言って史乃は理科の授業で使ったことのある小さな天秤を出してきた。
「普通はこんな感じで釣り合っている。だが世界の天秤は……」
史乃は釣り合っている天秤の片方から分銅をとった。ガシャンと大きな音を立て、天秤は傾いた。
「世界の天秤は傾いているっていうの?」
「そう。例えば皇スイの死。彼女は確か刑務所に入りたい通り魔に偶然出会ってしまい殺されたんだったね。さてこれは偶然か。あるいは起こるべくして起こった事件か。」
「起こるべくして起こったわけないじゃない!お姉ちゃんは日頃から正しい行いを心掛けていた!いい行いを続けていれば、幸せになれるって!神様は必ず見ていてくれるからって!それなのに……それなのに神はお姉ちゃんを見捨てた!刺されたのが偶然だったとしても、命は助かるべきでしょ!?神が殺したのも同然だわ!」
うまく言葉が出なかったことが嘘のように私は史乃に神への怒りをぶつけていた。
「神は見守ってはいるが、助けてくれる存在ではないよ。言うなれば傍観者だ。」
「なによ。お姉ちゃんのやってきたことが無駄だったっていうの?」
「そうではないが、本人に聞いた方が早そうだ。はいこれ。君にあげるよ。」
「なにこれ……」
カウンターに出されたのは一枚のチケットと結婚指輪でも入っていそうな小さな箱。
「このチケットは神への謁見ができるチケットだ。そして、もう一つ。箱を開けてみてくれたまえ。」
史乃に促され箱を開ける。
「な……」
箱の中身は指輪ではなく、先ほど天秤の上に乗っていた分銅より一回りくらい小さい分銅が入っていた。
「こんなオシャレな箱に分銅って……どういうセンスよ。」
「その分銅は、神の分銅といって、世界の天秤を正す道具だよ。」
「は?世界の天秤は大きいってさっき言ってたのに、こんなに小さい分銅でいいの?」
「まあな。その分銅は特殊だから。とりあえず君には、神に会って分銅を届けてもらいたい。その際、神に言いたいことを言ってくるがいい。先ほど私に言ったみたいにね。」
史乃は意地悪な笑みを浮かべた。私が怒ったことを根に持っているのかもしれない。
「関係ないのに怒ってごめんなさい。」
「別に怒ってはいないよ。ただ、私に言うべき言葉ではないと思っただけだよ。」
「そう。それで、神に会うにはどこに行ったらいいの?チケットだけもらってもどうしようもないわ。」
「大丈夫だ。道案内は彼女にしてもらう。」
「え?」
気が付くと史乃の隣に中学生くらいの白いワンピースを着た少女が立っていた。彼女も史乃に似て綺麗な黒い髪だ。
「彼女は二宮ニイナだ。私はこの館から動くことができないから、どこかへ行くときは彼女に頼んでいるんだ。じゃあ、選ばれし者のことは任せたよ。」
「承りました。史乃様。」
二宮ニイナと名乗る少女は史乃に一礼すると、向きを変え私の元に歩いてきた。
「初めまして。二宮ニイナと申します。これより、神の元へ案内させていただきます。」
「あ、初めまして。皇レンです。こちらこそ、よろしくお願いします。」
無表情で機械的に話すニイナ。失礼だが、ロボットに見えるなと思ってしまった。
ニイナと共に館の扉を開けて出ると、一面真っ白な霧に覆われているかのように周りのものが何も見えなかった。
「ね、ねえ。こんなに真っ白なところ歩いていて、どこかわかるの?」
「もちろんです。史乃様から頂いた情報によればあと数百メートル歩いた先に大きな門があるそうです。そこを抜けると霧が晴れ、神のいるところにたどり着くことができます。ですから、ご心配には及びません。あ、あれですね。」
淡々とニイナが説明している間に、大きな門が見えてきた。
「本当に大丈夫だった……」
半ば信じていなかったが、史乃の言うこともニイナの言うことも本当のようだった。
「着きました。ではレン様。史乃様より頂いたチケットを門の南京錠に入れてください。」
「南京錠って、鍵で開けるものじゃないの?」
「神の門は、鍵穴ではなく、チケットを差し込む形になっています。鍵穴では再現されてしまう心配があるらしく、特殊な謁見チケットを南京錠に差し込むシステムになったそうですよ。」
「再現って……こんなところ普通来れないでしょ……」
私は少し呆れ気味で返事をすると、言われた通り南京錠にチケットを差し込んだ。すると、南京錠が砂になって消え、門が自動的に開いた。
「行きましょう。」
驚くような光景ばかりなのに、ニイナは一つも驚くようすはなかった。さっさと歩いて行ってしまうニイナの後を慌てて追いかけた。
門の先をしばらく進むと、漫画で見たことのある王様が玉座に座っている部屋みたいな空間に変わっていった。そして、
「人の子の謁見とはな。伝承者の差し金か?」
玉座に偉そうに座る女性が声をかけてきた。白い髪にキリッと吊り上がった赤い瞳。まるでメドゥーサだ。
「お察しの通り伝承者、葉月史乃様の使いで参りました。」
「ふん。一体何のようだ?」
「世界の天秤が保管されている部屋に案内していただけませんか?」
「!?」
ニイナが天秤の話を持ち出すと、神は偉そうな表情から一気に青ざめた表情に変わった。
「な、なぜだ……?」
「ご自身がよく事情は把握されているかと。」
「っ!か、帰れ!世界の天秤を人の子などに見せるものか!」
「そうですか。では、勝手に見させていただきます。行きましょうレン様。」
そう言ってニイナは、ポケットから小さな瓶を取り出し、私とニイナを囲うようにそれで円を描いた。
「行き先は世界の天秤。」
ニイナがそう唱えると、地面が光り輝いた。あまりの眩しさに目を閉じると、体が地面から浮き上がった感覚がした。だが目を開けることはできず、閉じたままでいると、
「もう眩しくありません。目を開けて大丈夫です。」
とニイナに声をかけられた。恐る恐る目を開くと、玉座から、銀河にでも来たかのような場所に大きな天秤が一つ置いてある空間にやってきた。巨大な天秤はガタンガタンと大きな音を立てながら左右に揺れている。
「なにこれ……」
「これが、史乃様のおっしゃっていた、世界の天秤です。御覧の通り釣り合っていません。」
「確かに……」
「ちょ、ちょっと!人間の分際で神の許可なくこの部屋に入るなんて万死に値するわよ!」
玉座にいた神は急いで私たちを追ってきたようだ。
「この天秤について説明していただけますか?」
「説明なんてないわよ!いいから出て行って!」
断固として天秤について話そうとしない神。私はいい加減イライラしてきた。
「ああもう!帰れ帰れってうるさいわね!あんた本当に神様なわけ?人間が納得のいく回答もできないのに神なんて名乗らないでほしいわね。全く。こんなのが神だなんて、お姉ちゃんもガッカリするわね。」
「何よ偉そうに!大体、この天秤が釣り合わなくなったのだって人間のせいなんだから!」
「はあ!?どういうことよ!」
初めはメドゥーサのようで怖かったけれど、今は年下と喧嘩している感覚になっていた。
「この天秤は、昔は釣り合っていたの。釣り合っているってことは皆が平等にやりたいことができて、何でも願いが叶う幸せな世界ってこと。各々が望んだものを手にすることができる平和な世界。だけど人間たちはそんな世界を退屈だといったわ。だから私は神の分銅を一つ捨てたの。そしたら、こんなガタガタな天秤になった。当然、釣り合っていないんだから、幸せな人間と不幸な人間が現れた。だけど、不幸な人間は努力することを覚えた。逆に幸せな人間はより高みを目指そうと努力した。つまり、釣り合っていない天秤にしたことで人間たちは努力することを覚えたの。だから結果的に私は正しいことをしたってわけ。」
天秤のことを隠そうとしていた割には随分と開き直るのが早い神。しかし私は納得などできなかった。
「正しい?そんなわけないじゃない!天秤が傾いているから、お姉ちゃんは通り魔なんかに刺されたんじゃない!あんたのせいで、何も悪いことをしていない人間が死んでるのよ!それの何が正しいのよ!」
「正しいの!あなたの姉が通り魔に刺されたのは単純に運が悪かっただけ!私のせいじゃない!」
神は自分を正当化しようとしていた。私も負けないように言い続けた。だが、話は平行線で無意味な言い合いだと悟ると、怒りが静まり、やがて呆れへと変わっていった。
「はあ。力がある奴ってどうして自分が間違っていないって思うのかしらね。もういいわ。あなたと話していても時間の無駄だもの。これを使えば、天秤は元に戻るのよね。」
私は箱から神の分銅を取り出した。
「な!それは私が捨てたはずの……!」
「あなたが捨てた分銅は、史乃様が大切に保管なさっていましたよ。」
「くっ!どこまでも私の邪魔を!ちょっとそこの人間!それを使う意味を理解しているの?!」
「なによ。元に戻されたくなくて言い訳する気?」
「違うわよ!神の分銅を使うってことは、使用者の住んでいる地域をリメイクするってこと。それで、リメイクするってことはリメイク前に死んだ人間の記憶は生きている人間から消去されるのよ?!」
「……」
リメイク前の記憶が消える。つまり、私の中からスイの存在が消えるということ。本当にそれでいいの?今更天秤を直したってスイが帰ってくるわけでもないのに。ならリメイクなんてしなくてもいいんじゃないの?
「レン様。使うかはあなたの意思にお任せします。ただ、悔いのない決断をしてくださいませ。」
そう言うとニイナは黙り込んでしまった。神も私の動きをうかがっているようだった。
「お姉ちゃん……」
スイなら?スイならどうするだろうか?わからない。だけど、スイは、みんなが幸せになることを望んでいた。私や両親の幸せを望んでくれた。そんなスイならきっと、こうするだろう。
「ニイナちゃん。私、神の分銅を使うわ。」
「ちょ!正気なの!?」
「かしこまりました。選ばれし者が神の分銅を使用すると宣言いたしました。これより、世界の天秤を正します。」
私の手の中にあった分銅はそれを合図に光り輝き、大きな天秤に吸い込まれていった。すると、ガタガタと音を立てていた天秤はきれいに釣り合い、静かになった。
「選ばれし者が神の分銅を使用したため、今後、勝手に分銅を捨てることはできません。」
「わかっているわよ。ふん。後悔してもしらないんだから。」
「わかっているわ。後悔なんてしない。そうでしょ?お姉ちゃん。」
私は急な眠気に襲われその場に倒れこんでしまった。その後の記憶はない。
「ん……」
ジリジリと部屋中に鳴り響く目覚まし時計の音。もう朝のようだ。
「ちょっとレン!いつまで寝ているの!」
「はあい……」
母の声にだらしなく返事をする。季節は春。私は高校一年生になる。第一志望校に見事合格し、これから入学式だ。
「さてと、華々しい高校デビューといきますか。」
私は長く切りそろえらえた自慢の黒髪をヘアブラシで丁寧に整えた。




