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見えざる館の伝承者    作者: 花咲マーチ
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伝承者の策略<最強のdeleet編>

「史乃ー!次の選ばれし者が見つかったよー!」

いつも通り選ばれし者が見つかったと黒板が騒ぎ始めた。以前のように余計なことを考えないようにしようと心に決め、無表情で黒板の呼びかけに応じる。

「そう。で、どの人?」

「おや?何かちょっと雰囲気変わった?というか余計なことを考えなくなった?」

「……」

鋭い。黒板のくせに生意気だ。折角心を入れ替えて頑張ろうというのにテンションを下げてくる奴だ。

「別に。で、どの人なの?」

「うーん。まあ、いいか。えっと、今回の選ばれし者はこの人。名前は須賀糸(すがいと)。国王の側近かつ友達だよ。」

「国王の友達で側近って何よ。」

「ここの国王は平民だったにも関わらず実力で王の地位まで上り詰めたすごい人だよ!名前は睡蓮壱(すいれんいち)。それからなんと、金持ちだけが得する国からどんな人にも平等な国にした張本人!」

「へえ。すごいじゃない。」

素直にすごいと思った。王の子供でもない人間が王になることも大変なのだろうが、世直しもしっかりやってのけるのもすごい。まあ、国とか王とかよくわからないのだが。

「でも、最近は好き放題しているみたいだよ。」

「好き放題?」

「うん。王っていう立場を利用して、今実験しようとしているみたい。」

「実験ってなんの?」

「国一つ滅ぼす実験。」

「はあ?」

世直しをしてみせた王が今度は国を一つ滅ぼす実験をしたいなど理解不能だ。

「目的を果たしちゃって、何していいかわからないみたいだよ!で、国一つ滅ぼす実験をしようってなったみたい。」

「いやいや。何していいかわからないから国を滅ぼそうってどんな発想よ。ありえないでしょ。」

「あり得るから言ってるんだよ。人間って何考えてんのかわからないよね。」

信じがたい話だが、黒板が嘘をつくメリットが見当たらない。ということは本当のことだろう。これまでも嘘を言ったことはなかったし。

「とりあえず伝承(ほん)に目を通すわね。今回は、最強のdeleetか。えっと、これは世界に7つしか存在しない断罪道具の一つ。名をdeleteという。って、断罪道具ですって?!」

断罪道具。世界に7つ存在し、使用者の命と引き換えに使うことが一度だけ許された危険な道具。この館でも黒板の許可なしでは入ることができない部屋に保管されている。その道具が伝えるための道具だなんて……。

「ねえ黒板。断罪道具も他の伝えるための道具と同じで必ず使わないといけないの?」

「断罪道具は例外。内容をしっかり伝えれば断罪道具を使わなくても構わないよ。ただし、その方法を使うなら、断罪道具の存在は伏せておくこと。この道具は命と引き換えとはいえ、かなり危険だし喉から手が出るほど欲しい人間が多いからね。使うとなれば使用者は死ぬし、伝承が伝わったとしても断罪道具の存在は伏せられたままになるよ。だから選ばれし者次第って感じかな。」

「なるほどね。」

「でも、今回は積極的に助言させてもらうけど、使うことになると思うけど。」

「どうして?」

「王がこのまま変わる気がしないから。そうなれば使うしかないと思うんだよね。」

「珍しいわね。あんたが助言だなんて。」

「断罪道具の伝え方は慎重にしてもらわないといけないからだよ。一歩間違えれば関係ない人を巻き込むことになりかねないから。」

「そういうことね。」

黒板の助言を頭に置きつつ伝承を読み進めた。


『delete』

これは小さなボタンの形をしており、昔飢えに苦しんで国民同士が殺しあった結果、見ていられないとその国の王が作り出し滅ぼした結果生まれた断罪道具だという。飢えの原因は不明だが王も飢えに耐えつつ何とかしようとしていたようだ。

「最も国民を愛した王か……愛ゆえに滅ぼす決断をするなんてね。」

「民を愛したからこそ、殺しあう姿を見るのはかなり辛かったみたいだね。」

「ねえ黒板。断罪道具は選ばれし者次第で使わなくてもいいんだよね?」

「ん?そうだけど?」

「なら、睡蓮壱が国を滅ぼす実験を行わない、もしくは選ばれし者の須賀糸が睡蓮壱を止められたなら使わない。無理だったなら使うっていうのはどう?」

「構わないけど、たぶん使うことになるよ。」

「え?」

「睡蓮壱は明日隣国に実験を行うために隣国に進軍する。これは決定事項で須賀糸は知らない事実。」

「なっ……」

結局選択の余地すらないなんて。いや、とりあえず側近である須賀糸に今の話をして出方を見るくらいはできるか。

「たとえ使うことなっても構わない。使わない方向でやれるだけやってみるわ。」

「わかった。なら、史乃を見守ろうかな。だけど、断罪道具の存在が危うくなったら強制的に手を出させてもらうよ。」

「それでいいわ。」

私は睡蓮壱と須賀糸の、人の心というものにかけてみようと思った。


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