ゲンダイヘイキの不思議
「マスター」
何度目だったか、「ゲンダイヘイキ」という金属製魔導ゴーレムを好んで使う異世界転生勇者が現れたと記憶しています。そのゴーレムの攻撃手段の多くは、筒の中に尖らせた鉛の弾丸を入れ、火薬で爆破して高速射出するという、理解に苦しむ程効率の悪い攻撃機構に頼っておりました。
「マスター!」
もっとも、異世界転生勇者が使うと当然のように魔王様の魔法結界を貫通してくる上に、こちらで同じ機構を再現したり多少改良を施したところで実用に耐えうる威力が全く出ないのですから不思議です。
例えば、発射するための砲身を伸ばし、口径を巨大化させるだけで殺せるのは精々ゴブリンかオーク程度であるし、砲身の内部空間を魔法により歪曲させるのと同時に特有の磁界を発生させ、電磁誘導によって弾速を極限に至るまで継続的に加速させてみたところで中位魔族の魔法結界をうち破るには不十分であるし、弾丸を鉛からアダマンタイトとヒヒイロカネの合金製へと変更し、貫通力を上げるために先端をより尖らせた物を使用してみても、ようやく上位魔族の魔法結界に僅かな揺らぎを与えられる程度の物にしかなりません。
結論を言ってしまえば、貴重資源の無駄だと判断せざるを得ません。細かな事を抜きにすれば、恐らく異世界転生勇者がよく口にする「レベル」やら「スキル」やら「チート」と呼ばれる干渉力の方が破壊力に寄与していると考えるのが妥当な気がします。
「ねぇ、マスターったら!」
ある程度生産体制を整え、威力や貫通力を対人用に調整した低コスト簡易モデルをゴブリンやオークにでも持たせておけば多少の戦力増強にはなるのかもしれませんが、弱者でしかないあやつらに武器を持たせてもやっぱり弱者のままでしかありませんし、無駄に奴らをのぼせ上がらせても要らぬ魔族間抗争を引き起こす火種になるだけです。
そもそも、精巧な鉛の弾丸一つですら製造するのに結構な手間がかかるのですが、何故か異世界転生勇者が「ゲンダイヘイキ」を使うと数千発銃弾を発砲しようが一切弾切れにならないのですから、実に摩訶不思議で面妖な――。
「もう! いい加減気づきなさいよ!」
「なんじゃ、エロよ。急に殺そうとしてきおってからに」
「さっきからず~~~っと話かけてるんですけど!」
「むむむ、それはすまなんだ」
「ねぇ、マスター、さっきからその鉄筒を見てなんで唸ってたの?」
私の手元に置かれているのは、何度目かの異世界転生勇者がこの世の去り際に残していった聖遺物です。
これを使って私を滅ぼす際に「やれライフリングがどうこうだの」という人間の歴史で言うところの44世紀程前の技術をご教示頂いたものです。温故知新も大切ではありますし、何かしらの技術的見落としがあったのやもしれぬので今でもこの武器は大切に保管してあります。
「ええ、次の異世界転生勇者がコレと同じモノを使ってきた時にどうしましょうかと考えておりましてなぁ」
「ふ~ん、そんなガラクタが私達の脅威になるの?」
エロの奴も無知であるからコレの恐ろしさが分からぬのでしょう。
「お主程度、異世界転生勇者にコレを使われては3秒と持ちはせぬよ」
「ふ、ふん、そんなのあり得るわけないじゃない」
「皆、最初はそう言って滅んでいくのじゃよ。己が負けると微塵も疑っておらぬ」
高位の魔族達はなまじに力が強く、一方で異世界転生勇者は骨董品のような武器を用いているからこそ、軒並み油断してしまうのでしょうな。もっとも、一切の油断がなかったのだとしても勝てぬのですが。
「え? でもこんなのにマスターは負けないでしょ?」
「いや、当時の私は1秒すら持たせる事もできずに負けたぞ? 魔法で空間と認識を歪曲させて分身を作って本体を隠蔽しておき、全力で攻撃を防ぐ為に張っておいた六重結界も一発の弾丸が貫通して終わりじゃ。しかも、被弾した途端に手足が麻痺して全く動かせなくなり、得体の知れぬ致死毒に身体を蝕まれ、魔法も練られなくなってしまった」
「えっ!?」
「だから不思議なのよなぁ、コレを私が使ったとて大した威力は出ぬし、構造を分析してもそうなるのが妥当だと判断せざるを得ないのだが、異世界転生勇者かその仲間が使うと途端に恐ろしい効果を発揮し始める」
引き金を引けば一定速度で一定質量の弾丸を前方に飛ばす。それ以上でもそれ以下でもない構造の武器でしかなく、私が改良を施した複製と同じく時空魔法によって威力向上を図ろうとすれば、砲身がいとも容易く壊れてしまう程に脆い。何故こうも威力が変わるのか、これがわからない。
「う~ん、ほんとなの? それ」
これ以上説明したところでエロにはどうせ分からぬだろうし、私自身も理屈が分かっておらぬ。
「一先ずコレの話題はさておき、何故お主は此処にきておる」
「何故って、むーちゃんは疲れて寝ちゃったし、マスターに次の仕事の内容を聞きに来たんだけど」
「む? そこいらで適当に遊んでおればよかろう」
子供は遊んでいるのが仕事です。魔王様もそう仰ってはむーちゃん様を自由に遊ばせておられますし、他に参考になる育児というものも私は知りません。
「じゃあ! 手始めに付近の人間の国に住んでる人間全部皆殺しにしてくるわね!」
「いや、それは止めいと言っておるだろ!」
「え? もう30人くらい殺しちゃったけど……」
……やはりエロの奴はまた再教育しておくべきかもしれぬ。これだから召喚しっぱなしは怖いのだ。
「前々から再三言っておるあろう、我々の原動力は怠惰で傲慢で暴食で強欲な人間による憤怒と憎悪と嫉妬と色欲に狂って絶望した心であると、殺し尽くしては全く意味がないではないか」
「じゃあ、殺す事しかできない私は、一体何をすればいいのよ……」
「じゃから、むーちゃん様がやってるみたいにその辺で遊んでおればよいじゃろう?」
「分かった」
と言うとエロの奴とくれば魔導書の入った本棚の中身をひっくり返すわ、貴重な聖遺物を壊して回るわで研究室を無茶苦茶にしてしまう。
「これ、何故私の邪魔をする」
「何って、好きなように遊んでるだけだし」
エロの奴、不貞腐れたように膨れっ面をぷいっと背けおる。
「エロよ、これが一体どれだけ貴重な物かわかっておるのか?」
異世界転生勇者が作り出した聖遺物の原本は一度破損してしまえばもう二度と手に入らない。私が再現した複製とは製造工程が根本的に違うので、同じ見た目、同じ物質で構成されてあったとしてもそれは全くの別物である。
「ただのガラクタでしょ? これ」
そう言うとエロの奴は手につまんでいた聖遺物を雑にゴミ箱の中に投げ捨ててしまう。
「ふざけるでないわ!」
「な、なによ……だってマスターが言ったんでしょ、好きに遊んでいいって、だから私は言われた通り好きに遊んでるだけ」
エロのやつとくれば白々しい事ばかりいいおる。こやつは部屋を滅茶苦茶にする際にも全然楽しんで遊んでなどおらぬではないか。
「エロよ……、私が相当頭にきているのを分かっててワザとやっておるじゃろ」
「そ、そうよ、それがどうしたって言うのよ」
このように確信犯めいた事まで言い出す始末である。こうなっては仕方がない。
「今すぐこの部屋から出ていくか、召喚解除後に再教育を受けるか、どちらかを選ぶがいい」
「どっちもいや……」
「何が嫌なのじゃ、勝手な事ばかり言いおってからに」
「だったら、マスターは私にもやれる事を教えてよ!」
「じゃからお主にはむーちゃん様の遊び相手になるように頼んだのじゃろう? 終わったのなら休むなり前に作ってやったてれびげーむとやらで好きに遊んでおればよかろう」
とある異世界転生勇者が現れた際に人間共に広めた娯楽の一つが、てれびげーむという物だ。
特定の時空間を切り取って圧縮しておき、てれびという箱型の触媒の中で追体験するという代物である。言伝に聞いて魔法で再現しただけなので厳密には違うモノが出来ている可能性もあるのだが、オークやゴブリン達辺りからもハーレム気分が味わえると好評だったりするので左程問題ではない。
「……やっぱり、むーちゃんと同じでマスターは私の事要らない子だと思ってるんだ」
「ぬぬ、何を意味の分からぬことを……」
「もう知らない! マスターのばーかばーか、死んじゃえ!」
幾百幾千もの死が一斉に迫るのを感じる。空間と認識を歪曲させていても点ではなく面で殺しに来られては流石に被害をズラしきるのにも難儀する。
「ぬぅぅぅ!」
安全装置が突破された時点で遅延発動するように予め組まれていた時間凍結式結界と未来時空移送を起動し、今より数秒先の未来にも存在するであろう私達にも死を押し付け、時間を停止させている合間に同時平行で逸らし合わせることで対処する。
「はぁ……死なずには済んだが、やはりお主の召喚は……」
既に、永遠なる闇は研究室から逃げ出してしまっていた。短時間で何重にも行使した時空魔法により多くの魔力と安全装置も消費してしまっており、まだ奥の手を複数残しているとはいえ、結界の再構築もせぬまま永遠なる闇を追うのではそれなりに危険も伴う。
「全く……何が気に食わないというのか、困った奴じゃよ。むーちゃん様がおられる手前では廃棄するわけにもいかぬし」
少しばかし精神年齢をむーちゃん様に合わせすぎたのやもしれぬが、こうも強い殺意を向けられるのは想定外であった。今もなお、先送りした分も含めて数十にも重なる死を連続的に送り付けられているのだが。
「まぁよい。今はそんな事よりも【ステータスオープン】の方が重要じゃ」
泥水でも啜って一息をつき、死をいなしつつ、落ちている冊子を拾い、荒らされた本棚などを元に戻していく。別にこんな事せずとも、設定してある時間軸までロールバックすれば一瞬で終わるのだが、えらく魔力はくうし、何よりも一度過ぎ去ってしまった時を戻すのはあまり好かぬ。
実の所、永遠なる闇chanのステータスオープンをする話のはずだったのに、その前に喧嘩別れしてしまうのは想定外である。
創造主から「もう仕事しなくていいよ君」と言われた被造物の気持ちを考えてみよう。しかもバリバリ戦闘特化だから張り切って能力を使おうとした矢先、その能力も使うなと怒られてしまう始末。悲しい。




