図書館 地下室にて
薄暗い地下室、そこはロウソクが一本しかないので周りはよく見えないが一人の男、ファウストは壁一面を埋め尽くした薬品棚を前に椅子に腰掛けていた。
「おや、誰か来たみたいだね」
ファウストではない違う声が響いた。
「あぁ、来たね。赤毛で赤目だどこの生まれだろう」
どうやら複数いるようだ。
それにファウストが静かに口を開いた。
「それは生まれつきではない。あいつが自分で変えたのだ」
「ほう、親からもらった体を自ら崩すとは、不届き千万だな」
「周りに犬や猫が山ほどいるな。手品師か?」
「あいつは昔から動物には好かれる方だからな。ところでアンや子供たちの方は?」
「子供たちはまだ船の中だ直に終わりそうだがな。なんなら今どのあたりの場面か言おうかファウスト?」
からかうような声に周りからも思わず吹き出す声が聞こえた。
ファウストは苛立たしげに、
「戯言はいい。アンの方はどうなんだ?」
「彼女の方にもまだ誰も行ってないな。向こうは探す気があるのか?」
「ん? ファウスト、遺跡の方に赤毛の女が向かっているよ。何やらイライラしてるようけどね」
「それはグロリアだろう。おそらく遺跡にたどり着いたのは偶然だろうな。相変わらず方向音痴だな、今彼女に近づいたらただじゃ済まんぞ。」
「クックだろうね、昼間に裏町のチンピラが数人やられちゃってるよ。しかもそこで港までの道を聞いていたのに、随分寄り道が好きなようだね」
まるで一部始終をすぐ近くで見ていたかのような口ぶりだ。
「あいつは昔から研究してる時も何かと脱線していたな・・・」
「どうしたファウスト、CERNでの日々が懐かしいか?」
その声はからかい半分、真剣なところもあった。
「今更あの組織を抜けたことに未練は無い。もうあそこは変わってしまった。」
「その台詞を創設者が吐くとは、まだ未練がある証拠だな」
「そうだ、なにせお前が300年前、数人の友と始めた研究グループがここまで発展したのだから。ファウスト、
我々にくだらん意地は張るな。こっちはお前より多くのものを見てきた」
もはやからかう声はなくなり、重い空気が広がる。
ファウストは椅子から立ち上がり、出口へ進み始めた。
「お前たちは多くのものを見てきたのは事実だ。しかしそれでもこの世ではちっぽけな存在なのに変わりは無い」
「ハッ、貴様ら人間に言われたらおしまいだな。貴様の今は我らのおかげだというのに」
「くだらん話はここまでだ。引き続きあいつらの監視を頼む」
「・・・ファウスト、言うまでもないだろうが貴様は・・・」
「分かってる。そこまで老いぼれておらん」
そう言ってファウストは地下室から出ていった。
出て行く寸前に、廊下の明かりで薬品棚の中が一瞬見えた。棚の中には丸型フラスコがびっしり並んでいた。




