第11話 いつかのメリージンギスカン
さとちゃんからの電話はいつも急だ。
「あやぴ?再来週そっち行くんだけど、夜ご飯でも行かない?」
小学校からの親友、聡子。彼女を「親友」という肩書きで呼ぶのは、なぜかこそばゆい。小学校の頃からそう。けど彼女こそが「親友」だろう。
出会ったのは小三。彩が転校した先でいつの間にか仲が良くなっていたのが聡子。けれど二人が学友だったのはたった三年間。
たった三年。それなのに、それから年に一、二回会う関係が、かれこれ二十五年も続いている。
会えば未だに二人は「あやぴ」と「さとちゃん」。
そういえば、あの時は逆だった。
突然電話したのは彩の方だった。
「さとちゃん、来週そっち行っていい?」
おいしいジンギスカンが食べたいの。
聡子はその頃札幌に住んでいたから、飛行機のチケットさえ買えれば、彩はすぐに北海道に行けた。社会人になりたての彩にとって、飛行機の往復チケットだって、決して安くはなかったけど、その時はどうしても聡子に会いたかったのだ。
唯一の心配は雪。欠航だってありうる。けれど飛行機は必ず飛ぶ気がしていた。自信があった。会いたい時、必ずさとちゃんに会える、根拠のないそんな自信。
札幌は寒いと思っていた。実際寒かった。けれど迎えにきた聡子の服装は思ったよりも軽装で、スノーブーツまで履いて行った彩は少しばかり滑稽だった。
「雪に刺さるから全然ヒールで平気だよ」
なるほど、道産子女子のなんとタフなことか。
肝心のジンギスカン。
女二人、生ビールジョッキで乾杯。肉の焼ける音。帽子みたいな形の、変な形のプレートの下の方に、野菜を敷く。もやしと玉ねぎが、上の方で焼いた肉のタレと油が下で受け止める。肉の脂への愛情、こんなの誰が思いついたのか。こんにゃくを入れるのもなんだか好き。こんにゃくが好き。
「で?あやぴ彼氏とでも別れたわけ?」
冗談交じりにさとちゃんが聞く。
「うん」
「はっ!?いつ!?」
「んー、六月くらいだったかな」
「何それ!なんで言わないの!半年も前じゃん」
「うん、言いそびれちゃって」
ジュウジュウと、そんな話に割り込むように、肉は鳴る。食べ頃の匂い。
「あーもう!あやぴはいつもそうなんだからっ!ほら飲んで!食べよう」
さとちゃんの手の甲に、赤い傷跡。
ニットの下から、痩せこけた鎖骨がのぞく。
彩と聡子は、たぶん互いにこのジンギスカンの野菜。こっそり泣いた涙の受け皿。
二人は少しだけクセのある、ラム肉。
そんなわけのわからないことを考えながら、ビールを流し込む。この苦さをうまいと思うほどには、大人になった。
「来週はもうクリスマスなのにさぁ!なんでこんないい女二人、彼氏いないのかねぇ!」
さとちゃんはヤケクソになってラムを焼く。
「こうなったら今夜はジンパよ!ジンパ!!」
「ジンパって何?」
「ジンギスカンパーティ!!」
彩は吹き出す。
「こっちではそう言うのよ!」
さとちゃんもつられて笑う。
あれから十五年。そんなさとちゃんが、再来週会いに来てくれる。
今度は、何を食べようか。




