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巨神 前編

 ホスタ達が時間稼ぎを開始した頃。

 リージア達を乗せた母艦は、戦闘空域から離脱していた。


「おい!ホスタ達を置いて何してんだ!?」

「決まってるでしょ、あの化け物殺すの!」


 操縦桿を握るリージアは、横から来るモミザの叱責をスルーしながら艦を動かす。

 大戦中に何度か動かした事が有ってかなり手慣れているが、艦橋に居るメンバーはリージアの行動を理解できずにいた。

 全員にシートベルトの着用などを指示し、すぐにこの行動に移ったのだ。


「俺には尻尾巻いて逃げてるように、しか……」

「ちょ、モミザ?何で急に黙るのよ」

「……」


 艦のルートを改めて確認したモミザは、黙ってシートベルトを限界まで締めた。

 そんなモミザの姿を見るなり、この場に居る少女達は妙な不安に襲われだす。


「怖い!怖い!何その絶叫マシーン乗った時みたいな顔!」

「あら~、なんだかとっても楽しそうね~」

「絶対そんな事言ってる場合じゃない!!」


 恐怖に顔を引きつらせるフォスキアやブライトは勿論、妙に楽しそうなヘリコニアもシートベルトを締める。

 フルスロットルで直進する母艦は激しく揺れており、安全運転何てドブに捨てている。

 機内の気圧も急速に変化しており、生身のフォスキアは余計に気分を害してしまう。


「あともうちょっと!」


 そのリージアの叫びが艦内に木霊すると、正面のモニターは雲を突き破り、成層圏さえ突破した事を表示する。

 曇り一つない満点の星空と言う、こんな状況でなければうっとりしてしまう光景。

 そんな綺麗な光景が映ったのは、ほんの一分程度。

 母艦はリージアの操作でドリフトを始め、物凄い勢いで向きを変える。


「ちょ、アンタまさかと思うけど!」

「レーニア!エーテルフィールド、艦首前方に集中展開ッ!!」

「ッ、ああもう!やっぱりそう言う事かい!」


 そう言ったリージアは艦の向きを微調整しつつ、もう一度フルスロットルで艦を進める。

 後方のメインブースターが焼き切れる勢いでエーテルを噴射し、三百メートルは有るこの大型艦を押す。

 リージアの目論見に気付いたレーニアは、言われた通りにフィールドを展開。

 同時に、前方のモニターは赤く染まりだす。


「けど、こんな速度で突っ込んだら燃え尽きるよ!!」

「フィールド張ってれば大丈夫!このまま減速せずに突っ込む!」


 巨大なこの艦を覆う程のフィールドによって、多少の熱はシャットアウトしているが、艦内の温度はどんどん上昇している。

 ここまで来たフォスキアは、ようやくリージアのやりたかった事が判明した。


「ね、ねぇちょっと!まさかと思うけど!バカな事しようとしてないわよね!!」

「そのまさか!!」

「バカだ、ホントバカだ、コイツ」

「モミザ!レーニア!全砲門!近接装填!」

「あいよ!」

「たく、人使い荒いね!!」


 燃え盛る母艦は、隕石の如く勢いで大気を駆ける。

 向かう先はもちろん、先ほどホスタ達を置いて来た戦域。

 たどり着く前に指示を受けた二人は、揺れ動く艦内で火器管制を終了させる。


「かつて先人は、大型の戦艦を弩級艦と呼称した」

「急に何!?」

「だが、これが、コイツが!この攻撃方法こそが!本当の弩弓戦艦ってね!!」

『うるせぇんだよ!クソアマアアア!!』


 ヘリコニアを除く全員からのツッコミをガン無視したリージア、操舵による微調整でアルゴへの突入ルートへ入る。


「こちらリージア!ストリクス隊!即座に退避!」

『了解!』

『りょ、了解した!』

『ちょ、何してんのよ!アンタ等!!?』


 展開していた機械魔物達を轢き飛ばしながらアルゴの巨体に接近しつつ、リージアはホスタ達へ退避を命令。

 艦の接近に気付いたアルゴは艦を受け止めようとしているが、リージアは気にせずにブースターを吹かせる。


「総員衝撃に備え!!」


 伸ばされていたアルゴの両腕と防御フィールドを破壊し、そのまま胸部へと艦首を突っ込んだ。

 その直後に、全員の身体が潰れてしまいそうな程の衝撃が全員に襲い掛かる。

 慣性によって身体は締め付けられ、艦のあらゆる場所から様々な悲鳴が鳴り響く。


『グギュルアアアアア!!』


 ノイズのかかった悲鳴を上げるアルゴの腹は、艦首が突き刺さった事で大穴が開けられる。

 どうやらフィールドなどの影響で衝撃が弱まったらしくまだ生きており、打撃を加えようと抵抗を開始する。

 しかし、その備えは既に行っている。


『ギ、ギアアアア!』

「ッ……撃て!砲身が焼き切れるまで撃ちまくれ!!」

「無茶しやがって!」


 衝突のダメージから復帰したレーニアとモミザは、各自が担当する火器を操作。

 使用可能な砲台は全て使用し、ゼロ距離から張れるだけの弾幕斉射を開始。

 機銃の銃弾は気休め程度にアルゴに傷をつけ、大口径のエーテル弾や強化弾が巨体をほじくる。

 その間にリージアは艦を操縦し、逆噴射によってアルゴの腹から艦首を引き抜く。

 腹に大穴を開けたアルゴは、仰向けに倒れ込む。


「どうだ!?」


 リージアの叫びと同時に、大回りに放たれた大量のミサイル群が倒れていくアルゴへと降り注ぐ。

 アルゴはミサイルの爆炎に包まれていき、未だに放たれている砲撃が追撃を行う。

 次々と肉片を辺りにまき散らし、その巨体は地面へと設置する。

 周辺の木々や岩に突風が吹き荒れ、機械魔物も何体か踏みつぶされる。

 震災レベルの地震が起こっているだろうが、そんな事より相手の安否の方が気になる。


『グギ、ギュヲオオオ!!』

「失敗してんじゃねぇか!」

「クソ!なんて物作ってんだ、あのゴミ共!」


 下がりながら様子を見ていると、ノイズのかかった雄叫びと共に巨人は動きだした。

 肘から先しかない腕を使い、ぎこちない動き方で上体だけを起こす。

 その辺の山に手を駆けながら母艦を睨みつける巨人の顔に、赤い閃光が集まり始める。


「え、エーテル濃度、急上昇!」

「この反応は……クソ!フィールド最大展開!回避間に合わない!」

「もうやってるよ!」

「ストリクス隊!貴女達は下がって!」


 ブライトの声に反応していたレーニアは、即座にフィールドを展開。

 母艦の捉えたデータによれば、これは以前セイントウォールを撃ち破った攻撃。

 どうやら完全に怒らせてしまったらしく、鋭い眼は母艦だけを捉えている。


「衝撃に備えて!」

「何かそればっか!」


 フォスキアの文句は置いておき、リージア達は衝撃への備えを強める。

 それと同時に、口内からビーム砲を母艦へ放つ。

 そのブレスはフィールドを破壊し、弱まったエーテル弾が母艦の巨体へ命中。

 母艦は大きく吹き飛ばされ、艦内は激しく揺れる。

 艦橋内では被弾を知らせる警報が響き渡り、リージアも操縦桿から手を放してしまう。


「あ!しまった!クソ、バランスが!」


 慌てて操縦かんを握り締めるリージアだったが、既に遅かった。

 山岳地帯から追い出された母艦はバランスを失い、空を舞っていく。

 数分近く洗濯機の中に叩きこまれた気分を味わっていると、母艦は地上へ激突。

 もはやトラックにはねられた方がマシとおもえるような衝撃が、ブリッジ内の全員へと襲い掛かる。


「……あんのチンカス共……マジ許さねぇ!」


 前のコンソールがへこむ位強くぶっ叩いたリージアは、鬼の形相になりながら起き上がる。

 ベルトをとったリージアは、周囲を見渡す。


「(……皆、一応無事か、フォスキアも)」


 とんでもない衝撃だったが、何とか全員生存していた。

 フォスキアの無事な事にも安堵したリージアは、頭をさするモミザの方へ視線を向ける。


「……で、お次は何だ?」

「……主砲を用意して、私は、ホスタ君たちを助けに行く」

「大丈夫か?人間三人の支援がないと、チャージにニ十分以上かかるぞ」

「大丈夫、まぁ質量不足は有るけど、耐えて見せる」


 不安要素を提示しながら心配するモミザを横目に、リージアは艦橋から出て行く。

 怒りを背負うリージアを見送ったモミザは、早速主砲の用意を行う為に双子に声をかける。


「レーニア、ブライト、無事か?」

「何とかね、ちょっとひっかかりは有ったけど、話は聞かせてもらったよ」

「この前必死になって止めた奴でしょ?任せて、こっちでも調整する」

「ああ、頼む」


 主砲の用意を任された双子は、さっそく作業を開始。

 ブライトは艦の状態を確認し始め、レーニアは主砲の用意を開始。

 砲台やフィールドに使う分に至るまで、主砲へとエーテルを回していく。


「マズイね、さっきの衝撃で照準システムがダウンしているよ」

「クソ」

『モミザ!主砲の調子はどう!?』

「どうやら照準システムがダウンしてるらしい、その上、チャージも時間がかかるぞ」

『成程……照準は考えがある、それと、チャージの方も解決しそう、勝利の女神が僅かにこっちに味方してくれたよ』

「何だと?」


 嬉しそうに話すリージアからの通信を受け取ったモミザは、首を傾げた。

 そんな彼女へと、リージアは新しい作戦の提案を開始する。


 ――――――


 リージア達が新しい作戦の用意を開始した頃。


「グ……隊長!皆さん!」


 ブレスの余波で岩山に叩きつけられたホスタは、町の方へと飛ばされる大型艦を目にしていた。

 五十キロ以上離れた場所の目標を破壊する威力だけあって、至近距離からの威力は途方もない。

 大型艦さえあのざまとなってしまえば、自力でこの戦域から脱出しなければならない。

 機体に付着する石を掃い、ホスタは通信を開始。


「……少尉!サイサリス!無事ですか!?」

『な、何とか、な』

『こっちも、どうにかね』

「良かった、直ちにこの戦域から離脱しましょう!先ずは皆さんと合流を!」

『そうした方が良いな、丁度奴のブレスや特攻のおかげで、機械魔物の大半が吹き飛んだ』


 二人の安否を確認したホスタは、周囲を見渡す。

 確かに空を覆う程居た筈の機械魔物やタイラントは焼失しており、脱出するのであればさっきよりはマシな状況だ。

 さっきのブレスがもう一度放たれる前に、ホスタ達は逃げようと飛び上がる。


『各機散開!高度を低く保ちつつ、目一杯飛ばせ!!』

「了解!」

『了解!』


 飛び上がった三機はゼフィランサスの指示通り、一定状の間隔を取りながら低空飛行で逃げ出す。

 アルゴはまだ傷が治っていないらしく、上手く立ち上がれていない。

 極力射線に入らないよう低空飛行をこころがけ、岩山などを遮蔽物にしながら逃げる。


『後方のエーテル濃度、急上昇!』

「ブレス来ます!貧乏くじは……」


 ブレスの前兆を確認したサイサリスの知らせを聞き、ホスタはセンサーを確認する。

 ある程度の射線であれば、エーテルを計測する特殊なセンサーで確認する事は出来る。

 そのセンサーに目を配らせつつ障害物を回避していくと、ホスタは目を見開く。


「私か!」


 予想される目標は自分である事を確認したホスタは、急いでコースを変換。

 その一秒後。

 後方から極太の真っ赤なエーテル弾が飛来し、近くの岩を全て貫く。

 スレスレで回避したホスタは、その衝撃波で少しバランスを崩す。


「グ!……またエーテル濃度急上昇!?連発とか反則だろ!」


 巨人は上半身だけを起こした状態でブレスを連発し、山岳地帯を穴だらけにしていく。

 前兆だけは把握できるうえに、ストリクスの機動性のおかげで全て回避に成功する。


「ッ、何とかなっているが、これで引き出しは全部か?」


 何度か回避し続けていると、ホスタに妙な胸騒ぎが襲い掛かった。

 ブレスは確かに強力だが、これだけしかできないとも考えにくい。

 その悪い予感は、すぐに的中する。


「(何だ?奴は何をして……)」


 先ほど同様、エーテル濃度が急速に上昇。

 次に誰が狙われるのか様子を見ていると、今度は誰にも狙いを定めていない。


「何?」


 センサーの測定通り、赤いエーテルは誰も居ない場所へ撃ち込まれた。

 加えて、今回放たれたエーテルの弾速は異様に襲い。

 先ほどまでは文字通り光速レベルの速さだったというのに、今度は砲弾程度の速度。

 しかもそのエーテルは、ホスタ達の上空で一瞬静止する。


「ッ!」


 次の瞬間、空中で静止したエーテルの塊は四方八方へ爆散。

 無数のエーテルの雨となって降り注ぎ、三人へと襲い掛かって来る。


『何だと!?』

『何よこれ!?』


 息を飲みながらも、三人は攻撃の雨を回避し続ける。

 なんともイヤらしい事に、ヘビのように蛇行する物や直線的に来るもの、更に軽くホーミングしてくるものが不規則に襲い掛かるので回避するにも骨が折れる。

 威力は周りの岩山さえ貫く程であるので、当たれば無事では済まないだろう。


「クソ、ふざけた事を!」

『キャ!』

「ッ!サイサリス!グア!」


 ゼフィランサスは何とか回避に成功していたが、ホスタとサイサリスの機体は被弾してしまう。

 ホスタは片腕に命中し、ライフルと共に喪失。

 サイサリスは片翼を喪い、バランスを大きく崩した彼女の機体の機動力は低下。

 そんな彼女に向けて、本命とも言えるブレスが用意される。


『逃げるぞ!』

『あ!』

『間に合えぇぇ!!』


 サイサリスの機体を抱え、刃物の類を全てパージしたゼフィランサスは、翼を羽ばたかせるように動かして全力で射線上から退避。

 彼女に合わせ、サイサリスも手持ちの火器を捨てる。

 それでも、一手遅れてしまう。


『グアアアアア!』

「少尉!サイサリス!」


 被弾したゼフィランサスの機体は、脚部と翼の半分近くが消失。

 両方共飛行や姿勢制御には欠かせない部分である為、彼女の機体は落下してしまう。


『クッソ!』

「待っててください!すぐに行きます!」

『来るな!お前だけでも行け!』

「ですが!」


 ホスタが迷っている間に、アルゴは次のブレスの用意が整う。

 せめてもう一丁のライフルが有れば、ここからの狙撃で気を引けたかもしれない。

 だが、もはやそのライフルも使う腕も無く、一丁では攻撃は届かない。

 置いて逃げるしかない状況に立たされたが、ホスタは一瞬の迷いと共に二人の元へ駆けつける。


「クソ!」

『馬鹿野郎!』


 涙を浮かべながら行動するホスタを置いて、無情にもブレスの発射準備は整う。

 巨人の口からブレスが繰り出されるその瞬間、ホスタの近くを何かが横切る。

 その事に気付く前に、巨人の顔の向きはゼフィランサス達から上へと大きく逸れる。


「何だ?」


 ブレスは天へと放たれ、雲を斬り裂いて行く。

 巨人の不可思議な動きは続き、今度は勝手によろけ、何かを振り払う動作をする。

 そんな姿を横目に、ホスタは二人の元へ到着する。


「何が起きて」

『ホスタ君!皆!無事!?』

「隊長!?」


 急に聞こえて来たリージアの声に、ホスタは望遠カメラを起動して目を凝らす。

 アルゴが大きすぎて分かり辛いが、確かに青い光が身体中をチョコマカ移動している。

 もっと目を凝らすと、変異をしたリージアがハルバードを持って攻撃する姿を目にした。


「やれるんですか!?」

『はっきり言って無理!質量が違いすぎる!でもまだ策は有る、指令書を送るから、貴女は一足先に母艦に戻って!二人の迎えはその時にでも頼んで!』

「……」

『行けホスタ、アイツがああ言うって事は、勝算が有る筈だ』


 ホスタに行くように促すゼフィランサスは、コックピットから姿を現す。

 エーテルを使用しない通常の飛行ユニットを纏い、ライフルと剣を携えている。

 非常用の装備であるが、いずれもE兵器として改造されている。


『行きなさいよ、英雄様からのご指名なんだから』

「……では、せめてこれを」


 二人共逃げられるような状態ではなく、この場で生き延びる事が精々だろう。

 生存率を少しでも上げる為に、ホスタは残っていたレールガンとライフルを投げ渡した。

 使用不能となった背中の両方の翼をパージしたサイサリスは、ホスタからのプレゼントを受け取った。


『ありがと(また借りか)』

「では、生きてくださいよ」


 何としてでも三人を助ける為に、ホスタは全速力で母艦へと飛んでいった。



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