第二の指令船 後編
夜も更け始め、薄っすらと空が青みかかる時刻。
大型艦は作戦開始予定地点の上空へと到達し、そこから三機のストリクスが降下していた。
「こちら三号機、目標予測地点を確認、静音飛行によって標的の操作を開始」
ストリクスの三号機を駆るホスタは、母船である大型艦へ通信を行いつつ、静かに上空を旋回する。
見渡す限りの険しい山々は、山肌を日の出に照らされる。
このまま呑気に遊覧飛行でも楽しみたい景色だが、地上を支配しているのは動きを止めた大量の機械魔物達。
気取られてしまえば、下から豪華なプレゼントが送られるだろう。
『気持ちの悪い光景ね』
「はい、気づかれたらタダではすみませんね」
『無駄口を叩くな、どこに目標が居るのか解らないんだからな』
少し話を行いつつ、三人は捜索に力を入れる。
険しい山々の広がるこの地域で、五十メートル程の巨体がどこに潜んでいるのか。
その恐怖をのみ込み、下へと気を配る。
「……こちら三号機、標的は確認できず、音響センサー、熱源センサー、いずれも反応せず」
『こちら二号機、同じく標的は確認できず』
『初号機、同じく確認できない、センサーの感度を上げてみる』
「了解、こちらもセンサーの感度を上げ、探索を再開する」
センサーの感度を上げたホスタは、少し高度を下げながら捜索を行う。
それでも、見る事の出来るのはただの自然物のみ。
機械魔物の反応を探知できても、情報に有った巨人の姿は無い。
「(どこだ?何処にいる?)」
『ホスタ!高度を下げ過ぎだ!』
「ッ!」
集中しすぎて高度を下げ過ぎたホスタは、ゼフィランサスの忠告を受けてすぐに上昇。
このまま下がっていたら、下の機械魔物に気取られるところだった。
「ふぅ、すみません、ありがとうございます」
『なに、集中しすぎる気持ちもわかる、機械魔物共は見つかるってのに、肝心の巨人は見当たらんからな』
『ホント、何処にいるのかしらね?』
かなり注意深く見ているつもりだったが、目標である巨人は影も形も無い。
目視は勿論だが、センサーにもそれだけ巨大な反応は何処にもない。
いい加減存在その物が疑わしくなってしまい、ホスタは母艦へと通信を繋げる。
「こちら三号機、ターゲットが見当たらない、予測地点の再照合を」
『こちらレーニア、そんな筈無いんだがね……よし、もう一度計算してみよう』
「お願いします」
一応母艦の方でも捜索は行っている筈だが、やはり向こうでも見当たらないらしい。
とは言え、下に機械魔物がうじゃうじゃと居るのは事実。
情報共有の為に集まっているのであれば、この近辺に居てもおかしく無い筈だ。
「……これだけの機械魔物が集まっていながら、全く動く気配が有りません、絶対に目標はいる筈です」
一際大きな岩山の付近に滞空する三人は、一度軽いミーティングを始めた。
レーニアの予想ではこの付近との事で、実際見た事も無い位の機械魔物が確認できる。
『ああ、だが、三人でこれだけ注意しても見つからないとは』
『いっそ攻撃してみる?炙りだせるかもしれないわ』
「止してください、流石にあの数三人で対処は……ん?」
サイサリスのジョークとも言えるような言葉をため息交じりに応えていると、一瞬だが何かがセンサーに反応した気がした。
気になったので、急いでゼフィランサスへ報告する。
「少尉、センサーに何か反応が」
『何だと?何かいるのか?』
「……大気中のエーテル濃度急上昇、何か居ます」
気づけば大気中のエーテル濃度が高まっており、三人はすぐに武器を構えた。
三人で円陣を組んで互いの背中をカバーし、改めて索敵を開始。
それでも、大気中のエーテル濃度を上げるような存在は見当たらない。
「どこだ?一体何処に」
『う、ウソ、な、何よ、これ』
震えるサイサリスの声を聴き、ホスタは彼女の向く方へと身体を向けた。
彼女が向いていたのは、集合場所にしていた大きな岩山。
何故彼女が驚いたような声を出していたのか、それは一目で判明する。
「……う、ウソ、ですよね?」
ホスタの目が捉えたのは、巨大な人の顔。
人の顔に似ている岩、そんなオカルトじみたものではなく、現実に人の顔の形をした化け物。
植物だと思っていた物は黒い頭髪となり、岩肌だと思っていた物は血色の悪い人肌となる。
眼球も普通は白い筈の部分は黒く、黒い部分は赤く光る。
悪い並びの歯は、牙や歪な形状の物も多く見える。
その顔の持ち主は、地響きと共にその身体を露わにしていく。
「そ、そ、そんな、ここ、こ、こんな、事って」
珍しく怖気づくホスタは、ゆっくりと後方へ下がる。
目の前の存在のせいで、地上だけでなく、空気さえ震える。
正に巨人、いや、そんな言葉でさえ生ぬるい。
今三人の居る場所は上空三百メートル程なうえに、現れた顔もストリクスより大きい。
全長も報告より遥かに大きく、完全に物理法則を冒涜している。
どう見ても母艦より質量を有しており、生物の域を超えている。
「(保護色に加えて、体温の任意調整?遺伝子操作何て生易しいものじゃないだろ)」
目と鼻の先に居た筈の目標がセンサーで捉えられなかった理由。
アルゴと思われる巨人には、任意で体温を調整させる能力や、保護色を体表に浮き上がらせる事の出来る能力が有る。
フォスキアからの報告では、グレートタイタンにそんななステルス能力は無い。
となれば、行われているのは生半可な遺伝子操作ではない。
「(いや、今はそんな事を考えている場合じゃない!!)」
『い、一旦距離取るぞ!』
『言われなくても!』
考えを振り払ったホスタ達は、どんどん上へと上がる顔を前から距離を放す。
存在を気取られた事は明白であるが、それよりも相手の事を母艦へ報告する必要がある。
『こちら初号機!優先排除対象アルゴを確認!繰り返す、アルゴを確認!ただし、体長は情報の十倍以上!』
「クソ、情報と全然違う!体長は十倍以上ある!」
『ストリクス隊!無事!?』
「隊長!何なんですかコイツ!体長五百メートルは有りますよ!」
『分からない!でも、とにかく気を付けて!こんなの想定外どころじゃない!』
腹を立てながら旋回するホスタへと、母艦から通信が送られて来た。
流石のリージアもこんな敵は予想していなかったらしく、かなり焦っているのが伝わる。
彼女の忠告通り巨人が襲い掛かる前に逃げようとした瞬間、大気が更に振動する。
『ギュアアアア!!』
「ッ!」
『何!?』
『クソ!』
ノイズのかかった巨人の咆哮は、三人の義体さえも痺れさせる。
音響センサーが使い物にならなくなる程規格外の声量のせいで、近くに有った山の一部が崩れ落ちている。
大声に怯む三人へ、巨人はその手を振りかぶる。
『おい、あの野郎ビンタする気だぞ!』
「回避します!」
『もう!最悪!』
初速から音の壁を突き破った巨人の手は、一気にホスタ達へと襲い掛かる。
ストリクスの強みである機動性を最大限に活かし、三人は散らばっていく。
巨人にとってはハエか何かを叩き落とす感覚で振るわれ、その手は空を斬り裂く。
たったそれだけなのに、手の軌跡その物が斬撃を発生させた。
「ウソ!が!」
斬撃は爆発を引き起こし、更に腕を振った事による衝撃波が三人に襲い掛かる。
まるで乱気流に襲われているかのような感覚になりながらも、三人は何とか機体を制御する。
自分の身体を動かす感覚で四肢を操作し、スラスターで何とかバランスを取る。
『マズいな、これ』
「隊長!撤退の許可をお願いします!」
『……いや、逃げられるような相手じゃないし、出し惜しみしている場合じゃないね』
『ちょ、ちょっと、こんな化け物倒せる手立てあるの!?』
『このデカさは予想外だけど、打つ手は全部打つ!』
『とはいえ、こんな大質量の奴をどうやって』
『バンカーバスターEを使用する、すぐに距離を取って』
「りょ、了解!」
航空支援が来ると知り、ホスタ達はすぐに巨人から離れる。
バンカーバスターは、地下施設を破壊する為に用いられる重く巨大な爆弾。
二トン以上の爆薬を空から降下させ、その重量と運動エネルギーによって攻撃する。
リージアが使用しようとしているのは、それをエーテルで強化した物。
しかもただ爆弾を落とすのではなく、艦載されているレールキャノンで撃ちだす方式だ。
『発射まで、3、2、1……発射』
リージアの通信を耳にした三人は、すぐに爆発に備えた姿勢を取った。
その瞬間、上空より雷の如く攻撃が何度か降り注ぐ。
高い質量と電磁加速による砲撃は、アルゴへ次々と命中。
そのまま体内を突き進み、その数秒後。
巨人の身体の中で砲弾は立て続けに炸裂し、爆炎に飲み込まれた巨人の肉片が辺りに散乱する。
『ギュアアアア!!』
「ッ!凄い」
『どうなった!?』
怖いもの見たさでその場にとどまる三人の視界に、徐々に巨人の姿が映り込む。
巨人の身体は爆発によってかろうじて人の形を留めているが、かなり歪な物となっている。
それでもまだ生きているらしく、うなり声が雷鳴のように響いている。
『ギ、ギギ、ギュヲガアアアア!!』
「クソ、まだ生きて」
『化け物めが』
『なんて物を作ってくれたのよ』
ノイズがかった咆哮が響くと同時に、巨人の身体は再生を開始。
二又に分かれていた上半身は結合していき、徐々に元の形へと戻って行く。
主砲を除けば、この攻撃は母艦最大の一撃。
それさえ効かないと、三人へ無慈悲に伝えている。
『そんな、何なのコイツ』
「隊長、残りのバンカーバスターは?」
『生憎さっきので全部、そもそもポンポン撃つ物でもないからね』
『……ちょっと、アンタ等何と戦ってるのよ』
『ちょ、フォスキア、起きて大丈夫なの?』
『エルフィリア!どういう事だ!?体長五十メートル程度の話じゃないのか!?』
驚く彼女達の元へ、病室を抜け出してきたフォスキアが通信に入り込んで来た。
不満を爆発させるゼフィランサスの言葉を耳にする彼女の息を飲む音を耳にしつつ、三人は巨人から距離を置く。
『……コイツ、多分グレートタイタンじゃ、ないわッ!……何時にもまして、耳鳴りが』
『ちょっと、無茶しないでよ?』
「それで、どういう事ですか?」
『……か、確証は、無いんだけど、おとぎ話に出て来るレベルの奴、かも、しれないわ』
やはり耳鳴りが辛いのか、言葉は全て途切れ途切れとなってしまっている。
そんな状態の身体を引きずりながらも、フォスキアは三人に何とか敵の情報を教えようと通信を続ける。
かなり辛そうな息遣いが聞こえて来るので、むしろ心配になってしまう。
『……たしか、巨神カイザー・タイタン、タイタン族の、頂点』
「名前は分かりました、倒し方などは分かりますか?」
『……ごめんなさい、ソイツは本来、実在する筈の無い、神話上の存在、明確には言えないけど、やっぱり、共通しているのは魔石の破壊よ』
『とにかく、さっきのバンカーバスター以上の攻撃が必要だね』
『何をする気なの!?あれ以上って!』
『ちょっと時間がかかる、十五分、いや、十分だけ何とか耐えて!』
「た、隊長!」
『十分経ったら、そいつから距離を取って!』
撤退を拒否したリージアは、すぐに通信を切断。
徐々に機械魔物達まで飛び上がっており、三人は本格的に逃げ道を塞がれる。
こうなってしまえば、もうリージアを信じるしかない。
そう考えたホスタは二丁のライフルを構え、ドローン八機を展開する。
「……」
『ほ、ホスタ、アンタまさか』
「やりますよ!」
『嘘でしょ!』
『どのみちやらなければ死ぬ!』
『ちょっと!……ああもう!やればいいんでしょ!やれば!!』
アルゴから距離をとるホスタ達は、周辺の機械魔物達を集中的に撃破していく。
見た事の有る個体から、初見の機械魔物達を相手に次々引き金を引く。
もちろん大本命であるアルゴからの攻撃を鬱陶しく思いながら回避しつつ、細かい連中の相手をしなければならない。
『今回難易度高過ぎでしょ!あんなデカブツ相手にしながら、この人数で耐えろ何て!』
『アルゴが攻撃態勢に入った、さっさと避けろ!』
『チ、了解』
「了解!」
ゼフィランサスの言う通り、アルゴから拳が繰り出されようとしていた。
その通達を聞き入れた二人は、急いで回避行動をとる。
ルート上の敵を排除しながら。
『ギュルアッ!!』
「ッ!」
アルゴの鉄拳は空気を殴り飛ばし、突き飛ばされた空気は砲撃となって近くの岩山を破壊。
攻撃の引き戻しとして周辺に乱気流が発生し、ホスタ達の自由を奪う。
「グ、相変わらず何て攻撃、ウワ!!」
『ホスタ!』
バランスを強引に戻すホスタに、一体の機械魔物が襲来。
その魔物は、一言で言うのなら空飛ぶ巨大ザメ。
ストリクスさえ呑み込めてしまいそうな大きな口で下半身に食らいつき、コックピットに巨大で鋭利な牙を突き立てる。
ストリクスを呑み込めそうな体格で戦闘機以上の速度と機動性を発揮しながら、ホスタの事を連れまわす。
『何でサメ何かが空飛んでんのよ!?』
「チ、B級映画で、有りがちな化け物が!」
不規則に揺られながらも、ホスタは右手のライフルを構える。
ギリギリ銃身の入るスペースが有ったので、銃口を頭部に押し当てた。
「これで!」
何度も引き金を引き、エーテル弾を射出する。
「コイツ!
しかし、複数発命中したエーテル弾は屈折。
フォスキアの施した風魔法のおかげで貫通力が上がっている筈なのだが、サメの持つウロコに阻まれてしまう。
『グヲウ!』
「ウ!」
だがダメージが無かった訳ではなく、攻撃で顔の一部がはげたサメはホスタの事を投げ捨てた。
「ガハ!」
投げ捨てられた先にいたもう一頭のサメ型と衝突し、ホスタは再び吹き飛ばされる。
『しっかりしろ!』
「ッ、すみません、助かりました」
『二人共退きなさい!』
二度飛ばされたホスタは、ゼフィランサスによってキャッチされた。
その後すぐにかかって来たサイサリスの通信に従い、即座にその場から退避。
すると、上空より飛来して来たミサイル群により、近くを泳いでいたサメ二頭は爆炎に包まれた。
「はぁ、はぁ、あのサメ型、どうやらウロコに軽い偏光障壁の効果が有るようです、しかも、かなり固い」
『……そのようだな、それに、あれも遺伝子操作されたタイプの様だな、資料とも合致する』
ホスタがサメと衝突した部分を見ると、まるでヤスリをかけたような傷ができていた。
軽量化の為に装甲は薄く軽くなっているとは言え、ちょっとやそっとでは傷つかない強度を誇っている。
タイラントタイプの資料にも合致する物が有るので、遺伝子操作で大気中でも活動できるようにしたのだろう。
それを傷つけた事に驚いていると、サイサリスも二人と合流する。
『サメ如きにどんな改造施してんのよ』
「サメだからですよ、遺伝子操作で頭が二つ以上になっていようが下半身タコになっていようが空飛んでいようが、なんの不思議も有りません」
『アンタの中でサメって一体何なのよ』
『……ホスタ、お前、そう言う映画とか見ない感じじゃなかったか?』
「ええ、確かにそうでしたが、少しでも隊長に近づきたくて、何本か……一時間があんなに長く感じたのは初めてです」
『アンタ、そろそろ気持ち悪いわよ』
『はぁ……休憩時間は終わりだ、構えろ』
サメ談義で盛り上がっていると、彼女達の周囲をサメ型が前衛となって包囲し、その外周をその他の機械魔物が包囲。
下からも対空砲火が放たれ、とても静止している状況ではなくなる。
『散開!』
「(相手は偏光障壁持ち、なら)」
ゼフィランサスの掛け声と共に、三人は散る。
攻撃を回避するホスタは、右手の装備をレールガンに切り替えた。
四方八方からの攻撃を回避しつつ、厄介なサメ型へ引き金を引く。
「これなら!」
『グッ!!』
エーテルを纏ったレールガンの弾頭は、サメの強靭な肌を貫通。
巨大な風穴を形成したサメは、上空より落下していく。
『私だって!』
通信越しに聞こえて来たサイサリスの掛け声と共に、彼女の機体の装甲が展開。
内部には大量のミサイルが内蔵されており、何発か残しながら一気に放出され、サメたちを追い立てる。
偏光障壁持ち用に搭載された武器達も振る舞い、三人は機械魔物達を撃ち落としていく。
「何とか持ちこたえますよ!隊長たちが来るまで!!」
リージアが何かをしてくれると信じ、三人は敵と弾幕の嵐の中で戦い続ける。




