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第二の指令船 前編

 しばらくして。

 リージアはキャンプに到着するなり、ヴァーベナにフォスキアの診断を頼んだ。

 丁度引き上げたばかりのヴァーベナだったが、急患のフォスキアを見るなりすぐに診断をしてくれた。


「で、どうだった?」

「え、えっと……」


 フォスキアを寝かせるガンシップの中の医務室にて、リージアはカルテを見るヴァーベナに訊ねた。

 真剣な表情を浮かべるリージアを前に、ヴァーベナはホホを人差し指でポリポリかく。


「い、今解る範囲では、特に問題無し、ですね」

「……」


 ベッドの上で安静にしているフォスキアを横目に、ヴァーベナは気まずそうに答えた。

 診断結果に一日以上かかる物もあるのでまだ何とも言えないが、今の所では問題はない。

 何か見落としが無いかと、ヴァーベナは過去のカルテと照らし合わせだす。


「い、一応、基地の方では、放射能による異常が無いかと何度か診断をしていたのですが、やはり数値に問題は有りません……し、強いて言うのでしたら、その、肝臓の数値が少し改善した位でしょうか?」

「……まさか、禁酒のストレスで、何て事無いよね?」

「た、確かに、耳鳴りと頭痛、それにめまい、これらはストレス障害でも見られますが、エルフィリアさんにはアルコールを抜いた際の禁断症状が無いので、その可能性は低いかと」


 ヴァーベナの診断を受けてから、フォスキアは飲酒量を減らしている。

 周りがアンドロイドばかりで、脳の働きを低下させる必要が無いというのも有る。

 それでも、数値が改善する位には飲酒量は減っていた。

 そのストレスでという事は無いと、できれば考えたい。


「そ、それ以外で、三つの症状で関連する物とすれば、メニエール病、自律神経失調症が考えられますが、現状ではなんとも言えません」

「自律神経失調症は、問診じゃないと解らないもんね、でも……あ、脳波はどう?」

「の、脳波ですか?えっと……」


 色々と病気の候補を上げられたが、リージアは一つだけ疑問が浮かんだ。

 脳波の異常を示唆され、ヴァーベナはカルテを調べ出す。

 過去に何度かその診察も行っているが、今回は行っていないのでデータは無い。


「え、えっと、今回はしませんでしたが、一応前回の診断では、エルフの方としては通常でしたね」

「じゃぁ、ちょっと調べてみましょうか」

「ッ、フォスキア、起きてたの?」

「こんな近くで話されるとね」


 二人の話に聞き耳をたてていたフォスキアは、上体だけを起こして話に参加した。

 見たところの症状も大分和らいでおり、異常は感じない。


「今回調べてないなら、調べるしかないでしょ?最近、私も自分の身体がおかしいとは思ってたし」

「うん、最近ちょっと変だよね」

「……で、では、脳波の方を診断してみましょうか、ただ、私の義体を使いますので簡易的な物になりますが」


 そう言ったヴァーベナは、持っていたカバンの中から義体への追加装備を取りだす。

 医療型アンドロイドという事も有って、彼女の義体には診察用のオプションがいくつも用意されている。

 その中には脳波を診断する為の物も入っており、目的の手袋を装着する。


「では、失礼します」

「え、ええ」

「深呼吸して、リラックスしてね」

「……」


 機器の動作を確認したヴァーベナは、フォスキアの頭に両手を乗せる。

 彼女の義体に使われている機器は専用の物と比べれば簡易的な物であるが、時間さえかければ十分な結果を出せる。


「……あ」

「どうしたの?」

「え、えっと」


 少し時間をかけて計測した結果、ヴァーベナは困惑した表情を浮かべてしまう。

 やはり簡易的な診断方法では解らない事だったのか不安になるが、表情を見る限りではもっと深い物を感じる。


「……確かに、脳波が乱れていますね、いえ、乱れている、と言うより、変質?なにこれ」

「ちょ、一人で楽しんでないで、私にも共有してよ」

「あ、すみません」


 何時ものおどおどとした喋り方さえ崩れた事が気になり、リージアはヴァーベナと情報の共有を始める。

 その瞬間、リージアも目を丸めてしまう。

 リージアも生物学に精通しているという事も有って、多少の事で動揺しない自信は有った。

 そんな予想さえかき消すような事態が、フォスキアの脳に起きていた。


「……これって」

「な、何よ?そんなに変なの?」

「メッチャ変」

「はい、確かに、おかしい、ですね」


 二人に見えている物が解らないフォスキアには何のことかと言った所だが、二人は言葉を失ってしまっている。

 いつの間にかヴァーベナの手はフォスキアの頭から離れ、すぐに診断結果をカルテにまとめだす。

 医者の魂に火が付いたかのようなその姿に目を奪われながらも、フォスキアはリージアの方を向く。


「ね、ねぇリージア、どういう」

「……何というかね、人間の物とは、ちょっと違くって」

「この脳波の動き、いや、電気信号や神経細胞の働きその物が違う?でも、これって」


 リージアとフォスキアのすぐ近くで今の情報をまとめるヴァーベナは、かなり早口でブツブツと独り言をつぶやく。

 彼女の言う事は、リージアも解っている。

 一応生物学に興味があるので、こう言った事も多少は理解できる。

 そして、ヴァーベナもリージアと同じ考えにたどり着く。


「……何というか、私達アンドロイドに近い感じだね、エーテル……魔力をより正確に、より精密に制御するようになってる、何か心当たりはない?」

「……そう言えば、魔法の威力がやたら上がってたわね」


 直近の心当たりと言えば、魔法の威力が向上しているという事。

 魔力の制御能力が向上しているというのであれば、その分魔法の質も上がる。

 だが問題はそこではなく、現在のようになった原因だ。


「それも気になるけど、やっぱり原因だね、多分、機械魔物の返り血なんかが作用してるんだと思う」

「え、でも、その程度じゃ問題無いって」

「いや、それはあくまでも、普通の魔物達の話、フォスキアの場合はかなり特殊だから、私の予想が外れてたって事も捨てきれないよ」

「……」


 リージア考える一番の原因は、機械魔物達との戦いによる影響。

 彼らの体内にあるナノマシンが、フォスキアの体内の微生物に何らかの作用をもたらしている可能性が有る。

 フォスキアは特異な体の持ち主なので、リージアの予想が必ずしも当たっているとは限らない。


「アイツ等のナノマシンも、元は魔物達と共生している微生物と同じ、それがフォスキアの悪魔の能力で変な風に取り込まれて、脳に影響を及ぼしてる、今思いついたのはこの位かな?」

「そうなると、私では専門外ですので、治す事は」

「うん、私も、正直治すとなると、自信は無いよ」

「……そう、でも、シャックスの能力で取り込まれたんなら、案外時間が解決してくれるかもしれないわ、何とか適応したりして」

「それでいい方向に進むと良いんだけど」


 治療不可能と言う結論にたどり着いてしまい暗い表情を浮かべる二人を前にして、フォスキアは苦い笑みを浮かべながら解決案を口にした。

 と言っても、とても解決したと言えるのか疑問が残る。

 リージアの予想通りであった場合、今の脳に体が適応したらどうなるか分からない。


「……あ、あの、よ、余計に話を暗くするようで、その、申し訳ありませんが……何時症状が出るか分からないのであれば、次の戦いに参加する事は、医者として見過ごす訳には」

「え」

「……確かに、ヴァーベナの言う通りだね、残念だけど、今は安静にしていた方が良いよ、薬で抑え込めるとも限らないし」


 ヴァーベナの医者としての提案に、リージアも頷くしかない。

 次は以前よりも激戦が予想されるだけに、不安定なフォスキアを前線に出す訳にはいかないのだ。

 しかも微生物やナノマシンが影響だというのであれば、薬が効くかもわからない。


「(……あ、あはは、そうだよね、こんな不安定な状態じゃ)」


 二人の言葉に、フォスキアは毛布を両手で握り締めた。

 リージアの力になりたいと、この戦いに参加したというのに、ここに来て戦力外通告。

 しかも、昔から忌み嫌う体の特性が原因となっている。

 最近はリージアとの距離を縮めるキッカケなった事から悪くないと思っていたが、また憎たらしくなってしまう。


「ふぉ、フォスキア?大丈夫?」

「え?あ……」


 リージアに声をかけられ、フォスキアは自分の目から涙が零れていた事に気付いた。

 頭では受け入れていたつもりだったが、心は悔しくて仕方がないらしい。

 戦闘に参加できない事より、リージアの隣に居られない事が悲しくおもえてしまう。

 次の戦いはリージア達にとって重要な局面、そこで力になれない何て悲しいにも程がある。


「ティッシュ、使う?」

「うん、ありがと」


 涙声でお礼を言いながら、フォスキアはティッシュで涙をぬぐう。

 いっそ自分の身体の毒も拭いさりたいが、そんな美味しい話は無い。

 悲しさで胸を痛め続けていると、リージアは自分の胸にフォスキアの顔を埋めだす。


「……ごめん、力になれなくて」

「いいよ、貴女には生きていて欲しいから」

「(……気まずい)」


 リージアに慰められるフォスキアは、悔しさと嬉しさの交じり合う笑みを浮かべた。

 完全に蚊帳の外にだされてしまったヴァーベナの事は、すっかり忘れて。


 ――――――


 しばらくして。

 フォスキアは病室で休ませておき、リージア達は会議を始めていた。

 先ず町に出向いた者同士で情報を交換し合い、状況を整理しつつ、話し合いに本腰を入れる。


「さてと、フォスキアがダウンしちゃったので、今回は私達だけで対処します、先ず町で手に入れた情報をまとめると、今回の相手は遺伝子操作で生み出されたグレートタイタン、個体名は『アルゴ』、しかも以前の戦いで外装は剥がされている、ただし、周囲には護衛のタイラントモデルが鎮座している、けど、スパンはおよそ三日、今回も三日程と仮定して残り二日だね」


 全員の前で、リージアは今回の目標の情報をまとめた。

 先ほどスパンの長さに驚いたが、今となっては嬉しい情報だ。

 今回はリージア達の側から仕掛け、有人区画への被害を抑える事ができる。

 戦場となる自然環境の破壊はこの際置いておく。


「それでレーニア、目標の位地は分かった?」

『ああ、砲撃角度から位地をあらかた算出してみると、町から七十キロ程の場所に山岳地帯が有った、標高百メートル超えの山もチラホラ見えるからね、目標は恐らくそこだ』

「七十か(そこの山で高さを稼げば、壁に狙撃が行えるか)」


 大型艦で情報をまとめていたレーニアは、リージア達に目標の予測地点を通達した。

 射線の先には、五十メートル級の巨人でも姿を隠す事ができる山岳地帯が存在する。

 手元に有るアルゴのカタログによると、身長はライルの言っていた物と同じ。

 しかしその身長で、数十キロ先の王都への狙撃は不可能。

 高めの山に登っていれば、狙撃可能な距離を稼げる。


「それで、今回はどうする?奇襲を仕掛けるか?」

「そだね、でも、入手できたデータは破損が激しくて、外観以外の詳細は分からないのが問題なんだよね」

「そうだったな」


 基地に撃ちこまれた反応弾のせいか、指令船であるアルゴのデータは外観以外破損していた。

 修復を試みたが、結局ライルが教えてくれた事位しかわかっていない。

 とは言え、有益な情報が彼女達に持たされている。


「まぁ幸いなのはライル達が鎧を破壊したって事だけど……レーニア、相手の戦力は解る?」

『あ~、その事なんだが、試しにその山岳地帯の空中写真を撮ってみたんだよ』

「……それで?」

『優先目標は確認できなかったよ、護衛のタイラントモデルや、他の機械魔物は何十体と確認できたから、さっき言った山岳地帯で間違いはないよ』

「そっか……」


 今回は奇襲が可能なので、できれば遠距離からの艦砲で片づけたかった。

 だが写真を使い、目標の詳細場所を割り出す事は出来ない。

 色々と懸念される問題があるので、できればこの路線は捨てられない。


「よし、ストリクス隊、今回は貴女達に目標の捜索を行ってもらうよ、そんで、発見したらそのまま陽動と牽制に移行、頃合いを見て艦砲射撃を行って一気に殲滅する」

「最前線に出るのは私達だけか」

「そ、E兵器の可能性は無限だからね、タイラントとして遺伝子操されてるみたいだし、変な自己進化でもされたらたまんないからね、幸いこの辺りにはひと気も無いから、艦からの砲撃で一気に勝負をつけよう」

「そうか」


 相手は戦闘データを使い、戦術などの精度を高める特性がある。

 しかも今回は大型艦の時よりも長い時間戦闘データをかき集め、更には素体として魔物が用いられている。

 遺伝子操作までされているとなると、下手をすれば調査チームも予想していない進化を遂げている危険もある。

 そんな危険な情報を聞かされ、サイサリスは手を上げる。


「あのさ、ちょっと良い?」

「はい、サイサリスちゃん」

「ちゃんは止めて」

「うへ」

「それは置いといて、何で今回私達三人だけなのよ、相手は自己進化してるかもしれないって言うのに、死んで来いって言うんなら、アタシはパスさせてもらうわよ」

「ヘリコニア達の機体だと、空中では機動力が減る、ガンシップも火力は有っても機動性は低い、だったら少数精鋭で前に出れて、高い機動性で逃げられるストリクスが一番だからね、でも大丈夫、問題が起きても解決できる引き出しはいくらでも有るから、何が有っても絶対三人を助けるよ」

「……そうして、ここまで来て、見捨てられた何てたまんない」


 サイサリスからの不満に、リージアは冷や汗をかきながら対策を打ち明けた。

 本当に自己進化何てことをしていたら、ストリクスでも逃げられない可能性だって出て来るのだ。

 ならば変に時間をかけて倒すより、大火力の艦砲で早急に始末する事が得策と判断した。


「しかし、何故今回は三日もスパンが有るんでしょう?」

「う~ん、私もよく解らないけど、もしかしたら、距離かもね」

「距離ですか?」

「そ、あの子達は高濃度のエーテル内でもやり取りを行えるように、フォスキア同様テレパシーを使ってる、でも有効範囲は無限じゃなくて、範囲は限定されてる、だから撤退と情報の共有、そして再度の進軍で三日の時間がかかるんじゃないかな?」


 ホスタからの質問に、リージアは不確定の考えを告げた。

 何しろこういった運用は、リージア達も想定していない。

 なので、あくまでも予想を言うしか無かった。


「ありがとうございます、では、早速出撃を」

「今から行く気なの?」

「善は急げです」

「う~ん、焦る気持ちもわかるけど……せめて、フォスキアから色々注意点を聞いて、装備を整えてからね、でも、撤退はすぐに行うよ、ここに長居して国からの干渉が有っても面倒なだけだし」


 数秒悩んだ末に、リージアはホスタの提案をのんだ。

 アンジェラ達には口止めをお願いしたが、それでもここは王都、彼女達以外の誰かが国へ報告していてもおかしくはない。

 できる限り政治に関わりたくないリージアとしても、ここは早めに発っておきたかった。


「……よし、先ずは母艦に帰投、その後、ストリクスの装備を整え、タイタンへの偵察を行い、集めた情報を元に、作戦を開始するよ!」


 リージアの発言と共に、隊員達は敬礼を行った。

 その後、彼女達は撤収作業を開始。

 広げていた物資を回収し、今度は迷い人が居ないか入念にチェックして飛び立った。



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