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記憶の箱舟 前編

 敵の指令船が姿を現す少し前。

 リージアの頼みで探知役となっていたフォスキアは、気づけば白い空間の中に居た。


「何処かしら?ここ」


 リージアの言う通りに精神を集中させ、魔力の流れのような物を辿っていた。

 正確には魔力を使用する際に出て来る特殊な波長なのだが、それは魔物達全員から一か所に集まっていた。

 それは海の中に集中しており、そこに触れた途端にここに飛ばされてしまった。


「……成程、肉体じゃなくて、精神か魂だがこっちに来たって事ね」


 自分の身体を改めて観察するフォスキアは、半透明となっている事に気付く。

 服装は何時ものスカートアーマーだが、武器や頭の装置が見られない。

 肉体を形成しているのは、あくまでもフォスキアの記憶。

 という事は、精神や魂のどちらかが強制的に送られたのだろう。


「リージア!誰か!居ないの!?」


 フォスキアの大声は、この何も無い空間に虚しく響くのみ。

 本当に誰も居ないのか、返事は一つも帰ってこない。

 戻り方も解らないうえに、何をすればいいのか解らない。

 少し気がおかしくなりそうだが、フォスキアは適当に歩いて行く。


「何かしらここ……もう、こんな事に成る位予想しなさいよね」


 流石のリージアもこの事態を予想できなかったのか、こうなる可能性は聞かされていない。

 アテも無くさまようフォスキアは、少しイラ立ってきた。


「……ん、何?耳が」


 適当に歩いていると、突然酷い耳鳴りが起きた。

 思わず立ち止まって耳を抑え、目を閉じてしまう程の酷い耳鳴り。

 数十秒程苦しんでいると、徐々にその耳鳴りは収まる。


「……あれ?」


 閉じていた目をゆっくりと開けると、先ほどまで見られなかった黄色い球体を見つけた。

 テニスボール程の大きさの光は、フォスキアの少し前で浮いていた。


「何かしら?これ、魔石に雰囲気が似てるけど」


 球体はフォスキアの事を呼んでいるかのように発光しており、恐る恐る手を伸ばす。

 危険物に触れるように指先で突き、安全である事を確認。

 魔力を感じるが、特にダメージも感じなかったので普通に触れてみる。


『タスケテ』

「ッ!?」


 聞こえて来た声は、直接脳に語り掛けて来たなんて生易しい物では無かった。

 響いたのは脳内だけではなく、全身の細胞に響いているようだ。

 思わず手を引っ込めたが、フォスキアは逃げようとしない。

 少し距離を取ってしまったが、球体から感じたのは声だけでは無い事に気付いている。


「(……今の、リージア?)」


 本当に一瞬だったが、ロングヘアーバージョンのリージアが見えた気がした。

 ついでに悲しさまでもが伝わっており、言うなれば楽しかった過去を思い出して嘆いているようだった。

 里を追われたばかりの頃の自分と重ねたフォスキアは、もう一度球体に触れる。


「ウッ!アアアア、アガ!!」


 強めに触れた瞬間、全身に電流が走ったようになる。

 電気が発生している訳ではなく、魔物達に使われていた波長を無理矢理受信されているようだ。

 それが電流のような働きを行い、感電と似た現象を引き起こしている。

 数秒程苦しむフォスキアは、鼻血を流しながら白目を向いてしまう。


「リー、ちゃ」


 倒れ込むフォスキアは球体から伝わって来た哀しみに影響され、大粒の涙を流す。

 球体から感じたのは、ただの哀しみでは無かった。


 一緒に居てあげられなかった。

 約束を守れなかった。

 守る事が出来なかった。


 そんな後悔に苛まれた、ヒビ割れた記憶。

 まるで数あるガラスの破片の中に映し出された、断片的な物だった。

 不完全で一部始終とさえ言えない程不鮮明だったが、伝わって来た思いだけは確かな物。

 悔しくて、悲しくて、罪悪感に押しつぶされそうな後悔。

 その感応を得たフォスキアの胸へと、球体は入り込んだ。

 同時に、フォスキアの居た白い空間は燃え始める。

 空間は爆炎に包まれた事で、フォスキアは放り出される。


 ――――――


 爆音と銃声が鳴り響き、人々の悲鳴までもが聞こえて来る。

 阿鼻叫喚の中で、フォスキアは目を覚ます。


「……ん?あれ?……みゃっ!?」

「あら、起きてくれたのね!?キャ!」


 フォスキアが目を覚ました途端、ヘリコニアの飛行によって強いGが襲い掛かる。

 飛行ユニットを装着するヘリコニアは、フォスキアと大剣を一緒に運びながら大量の攻撃を回避し続けていた。

 惨状に気付き、完全に目を覚ましたフォスキアは周囲を見渡す。


「な、何よ、これ、ギャ!」


 ヘリコニアの回避行動のせいで、ジェットコースターに揺られながら辺りを見る気分だ。

 それでも、大体の事は視認できる。

 先ほどまで居なかった巨大な鳥型の艦より、無数の銃弾やビーム砲に加えてミサイルが射出されている。

 町へ向けての艦砲射撃が繰り出され、魔物だけとは比較にならない被害が出ている。

 しかもその船からは、艦載されている魔物達が次々と出撃している。

 見るからに暴走状態と言える状態だ。


「よいしょっと」

「きゃ」


 辺りを視認していると、着陸したヘリコニアはフォスキアを少し雑に下ろした。

 それと同時に、ヘリコニアは腰に接続していたライフルを構える。

 敵から鹵獲した四丁の内の一つで、向かってくる魔物達を迎撃。

 本来は射撃なんて行わないという事も有って、しっかりと狙っても二回に一回は外れてしまう。


「目が覚めたんなら、リージアちゃん達の援護に行って!傭兵の皆が危ないから!!」

「わ、分かったわ、で、でも貴女は」

「私は空から行くから!面白くない結果だけは防ぐわよ!」


 真面目なヘリコニアを見て、フォスキアは事態の深刻さを察した。

 背中のサブアームで保持していた大剣を返却してもらい、フォスキアは魔物を蹴散らしながら進む。

 地上を駆ける彼女を見送ったヘリコニアは、ライフルをしまってチェーンソーを取りだす。


「……な、何かしら、この感じ」


 魔物を切り裂きながら爆炎に包まれる町を走るフォスキアは、身体の異常に気付く。

 だが、悪い感じではない。

 むしろ以前よりも体が軽く、敵の放って来る銃弾やビームがよく見える。


「でも、僥倖ね!」


 命中しそうな射撃は全て回避、もしくは大剣によって弾く。

 敵の攻撃の軌道やタイミング等、全てが手に取るようにわかる。


「見えて来た!」


 風の如く戦場をかけるフォスキアは、視界に捉えた傭兵達の救助に向かう。

 魔物の数は、見る限りでは十七体。

 補充しておいたチャクラム一枚を取りだし、魔力を注入。

 緑色の光をおびたチャクラムを投げつけ、危機的な状況の傭兵達を救出する。


「フン!!」


 チャクラムの効かなさそうな魔物には、自慢の大剣を振り下ろす。

 リージアの秘密道具のおかげで、相手の防御は中和。

 切断していた太刀の時とは違って、叩き潰すような形で魔物を無力化する。


「エルフィリアか!」

「ええ、良いから伏せていなさい!!」


 和風の甲冑に身を包む青年と、白い髪をツインテールにした少女。

 二人はフォスキアに言われた通り、頭を守る様に伏せる。

 彼らの安全を確認するなり、フォスキアは大剣を握り締める力を更に強める。

 向かってくる三体のオーク型に対し、空間さえ切り裂きそうな一撃を放つ。


「フルア!!」


 大きく横に振るわれたその巨大な一撃は、三体を一気に吹き飛ばした。

 上半身を失った三体のオークは、黒い噴水へと姿を変える。

 大剣を振り抜いた隙を狙ってくるリザードマンも居たが、それは緑に光るチャクラムで排除された。

 物理的な法則を完全に無視した動きを見せたチャクラムは、そのままフォスキアの手へと戻って来る。


「大丈夫?」

「かたじけない」

「人間に助けられる何て」

「……あら?」


 立ち上がり、頭を下げる武者姿の青年の隣に座る少女にフォスキアは目を向けた。

 武者姿の青年は最近進出している島国の剣士だが、今ではそれ程珍しくはない。

 白髪の少女の方は、どう見てもリージアと同様のアンドロイドだ。


「……何が有ったのよ」

「な、何を言っている、あの巨大な軍艦のせいで我々の陣形は崩壊し、仲間も全て散り散りとなってしまったのではないか」

「チ、これならアイツらの作戦に乗るんじゃなかった」

「……文句を言うヒマがあるなら、その豆鉄砲構えなさい」


 大剣を再び構えたフォスキアは、まだ倒しきれていない魔物達に警戒を示す。

 彼女に続き、青年とアンドロイドの少女も戦闘態勢に入った。

 少女はE兵器ではなく、通常のリニアライフルを魔物達へと向ける。

 弾丸はエーテルを練り込んだ強化弾なので、多少は効果がある。


「しっかし、酷い状況ね」

「ああ、あのデカブツの攻撃のせいだ、しかし、攻撃の効果は見られる、多少だが、奴らの統率に乱れを感じる」

「統率が乱れても、状況悪化しちゃ意味ないわよ!!」

「文句言ってる場合!?」


 リージアの作戦のおかげで、魔物達の統率能力は低下。

 一気に勝負を決めようとしたのだが、統率が無くなったせいなのか残りの魔物も全て排出されてしまった。

 どうやら全体的に異常が起きているらしく、艦の砲撃もヤケクソに見える。

 アンドロイド少女はその事に腹を立てていると、上から魔物達の悲鳴が鳴り響く。


「う、上だ!!」

「何!?」


 青年が上の事に気付いた瞬間、大量の魔物達が血しぶきを上げながら落下してくる。

 上に乗る少女の持つハルバードによって、落下と共に全て潰された。


「り、リージア!」


 落ちて来たのは、妙に真剣な顔になったリージア。

 彼女は地面に突き刺さったハルバードの柄に掴まったまま、ライフルを構える。

 ポールダンスのように柔軟に体を動かし、リージアは周囲に射撃を開始。

 銃撃さえも回避しつつ、リージアは正確に敵の事を貫いて行く。

 残っていた周囲の魔物は全て始末され、後からヘリコニアも駆け付けて来る。


「あら、リージアちゃん無事だったのね」

「ヘリコニア、良かった、フォスキアも無事みたいでなにより……」


 地面からハルバードを引き抜いたリージアは、ヘリコニアとフォスキアの無事に笑みをこぼした。

 しかし、フォスキアの事を見た瞬間、その笑みは消えた。

 向けられる視線に、少し顔を赤くしてしまう。


「な、何?」

「……髪切った?」

「なんでこの状況で切るのよ」

「いや、何か雰囲気が……」

「そんな事より、どうしてくれんのよ!?この状況!!」

「……なんだ、サイサリスか」


 不可解な事を言うリージアに頭に来たのか、サイサリスは激高しながら食い掛った。

 やはりリージアの事は信用しておらず、胸倉を掴みながら敵意が宿った目を向けて来る。

 実際この事態は、リージアの作戦のせいで起きているのだ。

 信用の無い奴が立てた作戦でこうなっているのだから、怒りも仕方ないかもしれない。


「隊長も他の隊員も、あの化け物のせいで合流も難しい、兵器も爆撃でほとんど死んでる、全部アンタのせいよ!!」

「……私の目的は、あくまでもあれをこっちの物にする事、レーニアとブライトがまだ無事みたいだし、作戦の続行は可能だよ」

「相手はヤマアラシみたいな戦艦よ、どうやって」

「ホスタ君が明けた穴から内部に潜入して、二人の作ってくれた端末を接続すればシステムを乗っ取れる」

「誰が行くのよ!?私はゴメンよ!!」

「誰も貴女に期待はしてないよ、まぁ私一人でも無理だけど」


 掴まれている腕を振り払ったリージアは、改めて敵艦の方を向く。

 まるで銃弾の巣と呼べるような弾幕を形成しており、敵の接近を阻んでいる。

 とは言え、まるで意味の無い方にも撃っており、本当に何か問題が起きているのだろう。

 そんな敵艦を前にして、リージアはレーザー通信を開始する。


「モミザ、聞こえる?そっちの調子はどう?」

『リージアか!?ゼフィランサスと傭兵共と合流したが、ちょっと敵の数が多い!』


 パートナーとしてモミザを連れて行きたかったが、やはり向こうも大変らしい。

 銃撃や爆撃の音が響き渡っており、悲鳴までもが聞こえて来る。

 どうやらゼフィランサスも一緒の様だが、それでも状況は芳しくないようだ。


「何とかならない?私一人じゃちょっとね」

『クソ、確かにそうだな、どうにかしたいが手が回らない……おい!誰が撃たれた!?』

「……ゴメン、そっちはそっちで何とか対処して、予定通りギルドの方に」

『ちょっと待て!お前一人でいくk』


 謝りつつ無線を途中で切ったリージアは、ホスタの方へと通信を繋げる。

 この状況では期待できないが、敵艦に接近できる能力を持っているのはもう彼女だけだ。


「こちらリージア、ホスタ君、ちょっと手伝ってほしい事が有るんだけど、大丈夫?」

『こちらホスタ、すみません、ヴォルフさんと合流できたのですが、負傷者が多すぎて、救助の為に離れるのは』

「あ~、分かった、ゴメン、とりあえずヴォルフさんと一緒に負傷者の救助に当たって、一人でも多く犠牲者を減らして、ギルドの方に必要な物資は全部搬入してあるから、好きに使って」

『了解』

「はぁ……」


 可能性全てが潰れてしまい、リージアは大きめにため息をついた。

 ハッキングを行うには、敵艦に入り込んで端末を接続させる必要がある。

 リージア一人で出来なくないが、安全の面を考慮すると護衛に一人欲しかった。

 だが、問題はそれだけでは無い。


「おっとぉ、もっとヤバい状況になっちゃったよ」


 リージアの視界に映るのは、出現と同時に放たれた船体下部の巨大砲台。

 大きさはかなりの物で、長さだけでも船体の半分は有る。

 口径もかなり大きく、他の砲台の比ではない。

 それが再度展開し、砲門に光が宿る。


「な、何よ、あれ」

「あ、明らかにヤバい奴じゃない?」

「そ、あれ撃たれたら作戦失敗どころか、町は私達諸共蒸発するね、破壊したら船の方にもダメージ行くだろうから迂闊に攻撃できないし」


 朗らかに説明するリージアだが、明らかにそんな事をしている余裕は無い。

 何故そんな事を知っているのかはこの際置いておき、サイサリスはリージアへ食い掛る。


「何呑気に言ってんのよ!これで私達は終わりじゃない!」

「大丈夫、さっき発射して再装填の後だから、発射にはまだ二十分以上かかるね、それまでに制御を奪えばいい」


 笑みを浮かべるリージアは、ハルバードを構え直す。

 何とも楽観的な考えだが、リージアには自信があるようだ。


「ヘリコニア、サイサリス、貴女達はお侍さんと一緒にギルドの方に行って、双子の防衛に回って、結構ヤバくなるだろうから」

「心得た」

「ちょ、何で私がアンタの命令なんかに」

「はいはい、仲良く行きましょうね~」

「あ、コラ!」


 反発したサイサリス以外は、素直に仲間の救援に向かった。

 かなり不服だったのだが、ヘリコニアに無理矢理連行されていく。

 焼けた町を奔走する彼女達を見送ったリージアは、残されたフォスキアの方へと目を向ける。


「フォスキア」

「何?」

「……飛べる?」


 今はもう、残された最後の仲間に頼るしかない。

 空を飛ぶことができて、一定の戦闘力を確保できる。

 それは、もうフォスキアしか居ない。

 協力を求めたリージアだったが、フォスキアは少しうつむいた。


「……もしかして、実戦経験は」

「あ、有るには、有るわ、でも、その……」

「……そうだよね」


 やはり感情の整理がつき切れていないのか、変身に少し拒否反応を示した。

 傭兵達しか居ないとは言え、ここには多くの人目も有る事には事実。

 諦めたリージアは、補助翼の動作をもう一度確認。

 ハルバードとライフルを構え、スラスターを吹かせる。


「貴女も防衛に回って、私一人で行くから」

「待って!」

「……」


 フォスキアは、人の身長程度まで飛び上がったリージアを引き留めた。

 多くの冷や汗を流す彼女は、大剣を握り締める。

 大きく深呼吸をし、不規則に動く心臓を抑え込む。

 落ち着いた精神を利用し、全身に力を込めだす。

 フォスキアの身に着ける装備全てに光が宿り、鎧や服にも変異が現れる。


「え」

「……さぁ、行きましょう」

「いや、さりげなく装備まで変異してるんだけど、何それ?」

「私の装備のほとんどは、シャックスの素材から作られているのよ、こっちが変身すれば、装備も反応して合わせてくれるのよ」


 今回のフォスキアの変身は装備まで巻き込んでいるせいか、以前よりもスタイリッシュな気がする。

 展開された鎧は可動域も広がり、より戦闘と飛行に向いた姿へと変わっている。

 生えている羽も、以前よりも金属質な質感になっている。


「成程、便利だね」

「ええ、さぁ、行きましょう!」

「はいは~いっと!」


 フォスキアと共に飛び上がったリージアは、敵の戦艦へと猛進する。

 主砲を発射される前に、敵艦の制御を奪うべく。



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