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現れる船影 後編

 翌日。

 朝日の照らすタラッサの町にて、日の出と共に魔物の襲撃は再開した。

 いきなりミサイルの雨が降り注ぐというご挨拶を経て、次々と前衛の部隊が姿を現した。

 その後、魔物達は何時もと違う動きを見せる。

 リージア達が来る前であれば、人間を執拗に見つけ出しては殺そうとするという物だった。

 しかし、今回は全ての個体が一直線に同じ方向へと向かっている。


「(……成程、フォスキアの雇い主の予定通りか)」


 瓦礫の陰から魔物の進軍する様子を観察していたヴォルフは、ニヤリと笑みを浮かべた。

 つい先ほどまで半信半疑だったが、現在はリージアの作戦に乗り気だ。

 何しろ、何時もならば見つかっているような隠れ方をしているというのに、機械化された魔物達は彼らに見向きもせずに進んでいる。

 それなりの進軍速度を叩き出す魔物達の数は、ざっと見て小隊規模。

 質も担保しており、ミノタウロスやオーガまで見受けられる。

 これから始まる作戦を前に、待機中の傭兵達は鼓動を早める。


「(予定のポイントまで、後、3、2、1)今だ!!」


 予定のポイントへと魔物達がたどり着いた途端、進軍ルートは爆散。

 予め魔法使いの面々が仕掛けていた魔法が発動し、その場にいた魔物の一部は爆発に巻き込まれる。


「第二陣!続けて放て!!」


 ヴォルフの叫び声に呼応し、追撃の魔法が降り注ぐ。

 稲妻や光の槍等が降り注いでいき、魔物達へダメージを与えていく。

 数体程撃破に成功するが、健在の魔物の数の方が多い。

 それを確認するなり、隠れていた傭兵達は一斉に姿を現す。


「行くぞ貴様らぁぁぁ!!」

「手のかかる女共を手助けしてやるぞ!!」

「これ以上アイツらに手柄を取られてたまるか!!」


 ヴォルフの掛け声と共に、傭兵達は武器を持って弱った魔物達へと突き進む。

 まだダメージが回復していない魔物達は、デタラメな迎撃を開始。

 全く傭兵達の居ない方は勿論、居る場所に撃ってもロクに命中しない。

 しかも先の魔法のせいで、幾らか装備が破損しており攻撃力は著しく低下している。

 おかげでヴォルフ達は容易に接近を行い、爆発に巻き込まれた魔物達を始末して行く。


「オラオラ!今までよく好き勝手やってくれたな!今度はこっちの番だ!!」

「見たか!人間様の方が強ぇんだよ!!」


 似たような戦術は行ったが、ここまであっさり決まった事は無い。

 何しろ、相手は何時も隠れている傭兵達を恐るべき精度で発見する。

 爆破はガンマ達に任せていても、迅速に駆けつけられる場所に居る事は出来なかった。

 仮に駆けつけても、傷はすっかり治ってしまう頃だ。

 今までの分を返すかのように、傭兵達は魔物を葬って行く。


「頭ぁ!魔物共の傷が治って来たぜ!!」

「問題無い!各隊後退!魔法部隊!両側面より攻撃を加えろ!」


 魔物達の傷が治って行く報告を受けたヴォルフは、まだ隠れていた魔法使いの面々に指示を下した。

 彼の叫びと共に、傭兵達は牽制を交えて後退を開始。

 魔物達を側面から挟むように展開していた魔法使い達は、瓦礫から飛び出る。

 予め用意しておいた遠距離魔法を発動し、魔物達の横腹を粉砕した。


「良いぞ!第二隊!続けて攻撃しろ!!」


 魔法の雨を受けて再び表面の剥げた魔物達へと、突如出現した別動隊が突撃。

 体力の温存のためにヴォルフ達は下がり、追撃は彼らに任せる。


 ――――――


 その頃。

 別のルートでもヴォルフ達の方に居た魔物達のように、同じ方角へと向かう魔物を相手にする者達が居た。


「アイツの予想通りだ、魔物達はあのエルフに向かっているな……狙いを付けろ!」


 ガンマとデルタの混成チームも、別ルートから襲撃してくる魔物に備えている。

 リージアの予想通り、一直線にフォスキアの元へ向かう魔物達に狙いを定めた。


「(サイクロプス級が二体、オーガ級一体、こいつ等は私がやるか)」


 こちらの方にも大型の魔物が確認されており、現在の装備では対処は難しそうだった。

 E兵器型の大剣を構えたゼフィランサスは、三体の大型の魔物をターゲットにする。

 砲撃型はホスタが使用しているので、現状一番火力が高いのはゼフィランサスの機体だけだ。


「……よし」


 砲撃型をリージア達に取られたが、彼女達には調査チームの作ったE兵器所持している。

 エーテルを込めた砲弾やロケット等を持ってきており、最初の砲撃の準備を始める。

 近接武器として剣や斧も持ってきているが、先ずは敵の弱体化を狙う。


「放てぇ!!」


 ゼフィランサスの掛け声と共に、砲撃が開始される。

 次々と放たれた砲撃によって、機械魔物達は爆炎に巻き込まれた。

 エーテルによって攻撃力をあげた攻撃でも、完全に倒しきる事はできない。

 その事は承知である彼女達は、遠距離武器を捨てる。


「大型は私がやる!お前達は細かいのをやれ!!」

『了解!』

「(何で私達がアイツらの露払い何て)」


 ゼフィランサスに続く彼女達は、調査チームの開発したブレードや斧を構える。

 実体剣しかないが、彼女達には十分だ。


「ウヲオオオ!!」

「ヴルァァァ!!」


 修復によって軽快に動けるようになった機体のおかげで、ゼフィランサスは瞬時に敵の懐へと入り込んだ。

 サイクロプスの懐に入り込むと共に、専用に作られた大剣を振り抜く。

 刃と接触した相手の装甲は、刃の特性によって表面の守りは中和。

 遠心力と重量から生まれる威力によって、その奥の防御も打ち破る。

 あらゆる部分が強化された筈のサイクロプスの身体は、一撃で引き裂かれた。


「(ここまではアイツの予定通り、後は敵の指令船を発見できれば)」


 サイサリスのように、リージアの立てた作戦に不満を抱く者もいる。

 しかし、ゼフィランサスはそうでは無かった。

 リージアの作った装置は、敵の指令船を発見できる代わりに敵を引き寄せてしまう。

 なので、探知が完了するまで彼女達が防衛戦を繰り広げる必要がある。

 彼女の言葉通り、魔物達は探知器の方へと群がって行こうとしている。


「隊長!本当にこんなのでいいんですか!?」

「今はアイツらを信頼するしかない!これは司令船を探知されない様にする防衛反応らしいからな!」


 文句を言ってきたサイサリスに、ゼフィランサスはリザードマンを殴り飛ばしながら反論した。

 大盾と剣を駆るサイサリスは、本来なら苦手な近接戦を繰り出しながら魔物を撃破。

 その途中で、小さく舌打ちをする。


「アイツらの事よ、どうせ陰でビクビク震えているわ」

「そう言う事は、上を観察してから言う事だ!!」


 もう一体のサイクロプスを撃破しながら、ゼフィランサスは上を向く事をお勧めした。

 空中はリージア達の担当区域となっており、空中戦を行えるように強化された魔物達との戦闘が行われている。

 その光景は、まるで戦闘機どうしの撃ち合い。

 飛行ユニットの真価、空中での柔軟な戦闘が輝いており、文字通り血の雨が降っている。


「……」


 リージア達の戦闘を前に、サイサリスは言葉を失った。

 そもそもリージア達を信用していない彼女は、折角調整されたライフルの貸与も断っている。

 どうせ大した働きもできないと見下していたが、彼女達は勇猛果敢に戦っている。

 しかも、アルファやベータにも引けを取らない戦い方だ。


「(何で、あんな怠け者共が、あんな動きを)」


 魔石をはめ込まれた近接武器へと、サイサリスは視線を落とした。

 リージア達の物より簡易的な物であっても、使いこなすにはそれなりに手間取った。

 これまでとはまるで異なる武器の特性故に、癖が強かった。

 そんな武器を持っていながら、リージアは魔物を殺す事無く無力化している。


 ――――――


 サイサリスが劣等感を抱いている間に、リージアは次々襲い掛かるリザードマンを退けていた。

 それも探知を行えるまでの間、時間稼ぎを行いながらである。


「(次は五体)」


 向かってくるリザードマンに対し、リージアはハルバードとエーテル・ライフルで応戦。

 正面の敵の装備をハルバードで破壊して蹴りを入れる。

 続け様に背面撃ちで後方の個体の腕部を打ち抜く。

 死角からの銃撃を回避しつつ、更に別個体の腕を切り落とす。

 最後に射撃を行ってきた個体へブースターを吹かし、強烈な蹴りを繰り出した。


「所詮はパチモンか」


 そんな毒を吐きながら、リージアは更に鋭い眼を応援の敵へと向ける。

 今度はハーピーを改造したモデルで、機銃とミサイルによる攻撃が繰り出されてくる。

 改造されたハーピー三体からの飽和攻撃だったが、リージアは臆する事無く接近。

 針の間に糸を通すかの如く、攻撃の隙間をかいくぐっていく。


「脳死の弾なんて」


 回避と共に照準を済ませ、引き金を引く。

 純粋なエーテルによる射撃であっても、やはり相手の防御は機能する。

 しかし数発撃ちこむ事によって、先ずは一体を撃ち落とした。

 地上へと落ちて行く個体を横目に、間合いに入り込んだリージアはハルバードを振るう。


「次から次へと、アイツらは何時も、私をイラ立たせる」


 血しぶきを上げながら落ちていくハーピー達を横目に、リージアはハルバードに着いた血を振り払った。

 内側来るイライラを抑え込みつつ、リージアは周辺を注意深く観察する。

 他の空域でもモミザが単機で抑え込んでおり、地上でも激しい戦いが繰り広げられている。

 リージアも例外ではなく、魔物達は基本的に武器を無力化しただけで戦えない訳ではない。

 多くは素手による戦いを選び、絶え間なく襲い掛かって来る。


「……ん」


 攻撃を回避していると、レーニアからのレーザー通信が入る。

 すると、先ほどまで浮かべていた暗い顔は、ウソのように明るくなった。


「はいは~い!こちらリージアちゃん!どうかした?」

『取り込み中すまないね、アンタがフォスキアに付けた、逆探知装置みたいなの、進行率が百パーセントに達したよ』

「それは朗報!後はこっちの指示通りにやって!」


 敵の攻撃を軽々と避けながら、リージアはレーニアへと指示を下していく。


 ――――――


 傭兵ギルドの陰にて。

 電子線特化型に換装されたアーマードパックを駆るレーニアとブライトは、リージアの指示通りに作業を進めていた。


「(本当にこんなので敵の指令船が見つかるのかね?)」


 宇宙艇からケーブルを引っ張ってきているので動力に問題は無いが、やはりこの方法で指令船を発見できるかという事が心配だった。

 レーニアとブライトの乗る機体は専用のケーブルを使い、座禅を組んで集中するフォスキアの装置へと繋がっている。

 こんな方法で見つかるのか怪しい所ではあるが、今はコレにかけるしかない。


「(アイツの話だと)」


 レーニアは作戦を展開する前に聞かされた事を思い出す。

『アイツらは高いエーテル環境下でも統率を取らせるために、脳波を用いた通信を行ってる、だからテレパシーを使えるフォスキアなら、私達がこの装置を使うよりも確実に探り当てられるよ』

 という事だった。

 電波が届きにくくなるこの状況なので、脳波による通信を行っていると言われても良く解らない。

 フォスキアがテレパシーを使える事は隠しておきたかったので、この部分を伝えられたのはオメガのメンバーだけ。

 伝えられた本人たちからすれば、不安を助長させる種にしかならなかった。


「何て疑ってたが……凄いな、本当に座標を割りだせたよ!」

『お姉!かなりピンポイントだよ!』

「ああ、データをホスタに送信する!!」


 作戦通り、二人は割り出した座標をホスタへと送信した。

 後の事はホスタに任せておき、レーニア達は現状の対処に当たる。


「終わったよ!ヘリコニア!」

『は~い、フォスキアちゃんは私に任せて~』


 リージアの予想通り、フォスキアは鼻血を流して倒れ込んでしまった。

 かなり脳に負荷がかかる事は予想できていたので、ヘリコニアを護衛兼看護師として配置していた。


 ――――――


 同時刻。

 送信されてきた座標データを受け取ったホスタは、砲撃モデルのアーマードパックを起動させる。

 被っていた偽装用のシートを剥がし、一気に飛び上がる。


「座標確認!」


 この機体には、先日破壊された機体と宇宙艇のブースターが無理矢理搭載されている。

 それらを扱いつつ、ホスタは座標を目視できる高度まで上昇。

 目標を狙うのに最適なポイントまで上がり、取って置きの代物を構える。


「距離は約五千、でも、これなら!!」


 構えたのはヘリコニアやその他アンドロイド達と、無理矢理改造した兵器。

 この砲撃型の背中にマウントされていた二門のレールキャノンを直列につなぎ、砲身の長さと蓄電量を向上。

 レールガン系の兵器の威力を向上させる条件をそろわせ、射程距離も伸ばした代物だ。

 現地改修品だが、ホスタにとっては気休めのテストだけで十分だ。


「照準誤差修正、エネルギー出力臨界、目標予測……」


 狙撃兵として長い事活躍していたが、今までで最長の狙撃距離。

 しかも目標は座標しか分からないので、目を瞑って的を狙うのと同じ。

 座標にも誤差が有るかもしれないと考えると、妙な緊張が湧き出る。

 一般的な艦艇であっても、ここから見れば豆粒だ。

 仮に目標が見えていたとしても、狙うのは難しい。


「(でも、軍曹のおかげで、かなりピンポイント、これなら)」


 探知されている事は、敵艦も気付いている可能性が有る。

 今居る場所から移動されるより早く、撃たなければならない。

 そんな不安もプレッシャーとしてのしかかるが、問題はない。


「外しはしない」


 引き金を引くと共に、レールキャノンの弾頭は射出された。

 襲い掛かる反動をブースターで相殺するが、残り少なかった燃料は全て食いつくされた。

 同時に砲身は焼き切れてしまい、スパークと共に自壊する。

 当然の現象を前にして、ホスタは現地改修させた装備全てを放棄。

 自前のスラスターだけで宙に浮き、結果を見届ける。


「……」


 ――――――


 射出された砲弾は、海中をとんでもないスピードで進んでいた。

 槍のように細長い砲弾に三つの魔法陣が展開し、発射と共に二つの魔法が発動する。

 後方の魔法陣によって、砲弾は更に加速。

 先端部分の魔法陣は、風を吹き上げる事で海水をかき分けていく。

 多少の水の抵抗のせいで速度は徐々に落ちるが、ほとんど誤差のような物。

 砲弾は水深九百メートルへと到達し、そこに潜伏していた敵の司令船に命中。

 三つ目の魔法陣が発動し、砲弾は爆散する。


 ――――――


「やったか」


 爆発によって海水が高く噴き上がり、ホスタへ命中を告げた。

 命中しなければ爆発しない設定だったので、それは確実だ。

 だが、ホスタは険しい表情を浮かべた。


「……仕留めきれていない」


 魔物達が暴れ回っている様子を見て、ホスタは表情を歪めた。

 攻撃は命中したが、どうやら完全破壊まで至らなかったようだ。

 しかも、海面に徐々に黒い影が広がっている。


「あ、あれは……ッ!」


 敵艦らしき物が姿を現すが、呑気に見物している余裕は無かった。

 空中で静止するホスタの目に映り込んだのは、赤く太いビーム。

 海水を蒸発させながら放たれた光の槍は、空を貫いていく。

 呆気に取られるホスタは、出現した敵艦に目を奪われる。


「……」

「……ありがと、ホスタ君」

「……軍曹?」


 ホスタに話しかけたのは、ハルバードを握り締めるリージア。

 話しかけて来るのは良いが、血の滴るハルバードを握るリージアを前にして委縮してしまう。

 今のリージアの目は、殺意と憎悪だけに支配されているかのように黒く鋭い。


「あれは、一体」


 二人が目にしたのは、黒を基準とした全長三百メートルと言う巨大な艦艇。

 SFアニメのように上下が曖昧な形状をしており、複数の砲台や機銃等が見られる。

 船体の一部は焼け焦げて吹き飛んでおり、そこはホスタが破壊した部分だろう。

 印象としては、巨大な鳥のような物だ。

 先の攻撃は船体下部に有る巨大な砲らしく、大量の蒸気をまいている。

 今はそんな事よりも、リージアの様子が気になった。

 ホスタ達のよく目にする宇宙船とは大きくかけ離れたデザインだが、リージアの怒りの理由が分からない。


「……E兵器運用型強襲揚陸艦ヴァルキリー、その姉妹艦か」

「え?」


 リージアの呟いた言葉に、ホスタは反応した。

 揚陸艦という事等は、リージアが知っていてもおかしくない。

 しかし、姉妹艦という事はすぐに解る物ではない筈だ。

 分かったという事は、目の前の艦を以前一度見た事が有るという事だ。

 それも気になるが、今のリージアはホスタですら恐怖する程の怒りを発している。

 下手をすれば、握り締めているハルバードが握りつぶされそうだ。


「……アイツらはどれだけ私達を侮辱すれば、気が済むんだ」


 今まで聞いた事の無い位ドスの効いた声が、リージアの口から放たれた。




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