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現れる船影 前編

 オメガ達が友軍と合流した翌日。

 明日の魔物襲撃に備えた準備を進め、気づけば太陽が高い場所に位地している。

 表面だけの明るさを取り戻したギルドの外では、オメガ達のアーマードパックの改修作業に勤しんでいた。

 装備するのは戦闘用の物ではなく、電子戦向けの装備。

 換装作業を行う為の設備は双方共に破損していたので、仕方なく手作業で行っている。


「ライラック!それあんま雑にはこばないでよね!」

「仕方ねぇだろ!道がそこら中ガタガタなんだよ!」


 アーマードパック用の高性能レーダーを運ぶのは、デルタの生き残りであるライラック。

 円形の板のような外観だが、色々とデリケートな装備。

 一応ヴァーベナと二人で運んでいるが、ガタガタの道の上では何度か危ないと思う場面が多い。

 飛行ユニットの燃料の備蓄が心もとないので、飛べないのが物凄く不便だ。

 上で改修作業を続けるブライトは、気が気でなかった。


「気を付けろよサルビア、実弾入ってるからな」

「分かっている、ベゴニア」


 もう一機の方も、戦闘用の武装を外していた。

 輸送の際に色々と取り付けたので、わざわざ取り外す羽目になっている。

 ガンマの面々も協力し、作戦へ備えていく。


「できるだけ直したけど、こんな物で良かったかしら?」

「ああ、駆動系が悲鳴を上げていたからな、後は技量で何とかするさ」

「ですが、いくら軽量化の為とは言え、装甲を取り付けないというのは」


 その一方で、ヘリコニアはゼフィランサスの高機動機の修理を行っていた。

 機動性はリージア達の物と比較にならないが、パーツのほとんどは共通の規格。

 修理用のパーツを使い、悲鳴を上げていた部分の修復が可能だ。

 ただし、機動性の確保のために、一部フレームがむき出しになっている。

 その事には、一緒に居たスイセンも不安げだった。


「一般の機体の装甲では、重すぎて私には合わないからな、それに、E兵器を相手にしては、電磁装甲も紙屑同然だ、有っても無くても変わらん」

「全く」

「あらあら、やっぱり貴女もリージアちゃんと同じで面白い戦い方ね~」


 ゼフィランサスの発言には、何時も一緒に居るスイセンもため息をついた。

 確かに彼女は昔から軽量機体を駆り、高速戦闘を行う事を得意としている。

 ガンマのリーダーに選ばれたのも、総合的な被弾数が圧倒的に少ないというのも起因していた。

 つまり、当たらなければどうという事は無い、と言うのを地で行く人だ。


「それじゃぁ、私はこれでねぇ、ホスタちゃんとレールキャノンの改修をするように、リージアちゃんに頼まれてるのよ~」

「そうか、頼む」


 リージアに頼まれた任務を行うべく、ヘリコニアは砲撃モデルのアーマードパックの方へと向かう。

 彼女を見送った二人は、機体の調整を開始する。


 ――――――


 近代兵器の現地改修を続けるアンドロイド少女達を他所に、傭兵達はギルド周辺の守りを固めていた。

 一番重要な装備である二機のアーマードパックを配置し、最後はここで守りを固める予定だ。

 土嚢やガラクタを積み上げる事で、気休め程度の遮蔽物を作っている。


「やれやれ、見慣れはしたが、相変わらず何をしているのかさっぱりだ」

「私は考えても無駄って割り切ってるわよ(てか、改めて見ると、誰がだれだか)」


 傭兵達の準備の手伝いをしていたフォスキアは、一緒に居るヴォルフと興味本位で彼女達の作業を見ていた。

 しかし、何をしているのか理解しきれていない。

 だが、彼女達の駆る武装が強力と言うのは、今までの戦いで身に染みている。


「ま、それが良いか、だが、その頭についているのは何だ?」

「私も良く解んないんだけど、明日の作戦に必要だから、今の内に慣れておいてって渡されたの」


 ヴォルフが気になったのは、今のフォスキアの頭に取りつけられている装置。

 大きめのヘッドホンのような見かけで、リージアが夜なべして作ったもう一つの秘密道具だ。

 ヘリコニアがいい仕事をしてくれたおかげで、フォスキアの頭にジャストフィットしている。

 おかげでちょっと頭を揺らした程度では、位置がずれたりする事は無い。


「(でも、これ着けてると、テレパシーが緩和されるのよね、ま、そうでなくても飲みたい物は飲みたいけど)」


 しかも頭の道具を付けてから、一方的に拾われていたテレパシーは緩和されていた。

 おかげで酒に頼らずとも、頭痛に悩まされる事も無い。

 できれば作戦が終わっても、しばらく貸してほしいと思える位楽だ。

 それでも単純に飲みたくなるので、フォスキアは少し酒を傾ける。


「しかし、お前の雇い主が言う作戦、成功する保証は有るのか?」

「あ~、見つけるのは良いらしいんだけど、その後の事は敵の戦闘力次第、らしいわ」

「何だ?その曖昧な答えは」


 リージア達の立てた作戦、特に鹵獲の方は万全な状態であれば確実に成功する。

 ただし、今はお互い補給も無く物資も乏しい。

 お世辞にも万全とは言えないので、破壊作戦へとプランを変更しなければならなくなる。


「まぁでも、明日には解決する事は約束するらしいわ」

「そうでなくては困る、いい加減に終わらせなくては、国同士の緊張も日増しに強く成ってきている」

「でしょうね、明らかに人の手が加わっている魔物だもの、個人で用意できる代物でもないし、どこかの国が作り出したと考えるのが自然よね」


 今回の件で国家間の溝はかなり深まっており、いい加減終わらせなければかなりマズイ。

 この世界の戦争で魔物を使役する事は少なくなく、武装まで施されていれば国の関与は確実に疑われる。

 しかも数をそろえているのだから、なおさら個人の団体による実行とは考えにくい。


「てか、この国の連中、軍隊の一つもよこしてくれないの?町一つ消えてるのよ」

「どうやら各地でも新種の魔物が出現していてそれどころではないようだ、一か月程前に来た伝令兵の知らせだ」

「……え」


 さりげなく伝えられた重要な情報を前にして、フォスキアは目を丸めた。

 嫌な予感を過ぎってしまうが、流石にここ以外で同じ事が起きている事は考えたくない。

 後でリージアに相談を持ち掛ける事にするとして、フォスキアは酒を少し飲んだ。


「それで、お前の雇い主の姿が見えないが、どこに居るんだ?」

「ああ、何か、敵が持ってた武器を使えるようにするから、人の居ない場所に行ってるわ」

「そうか、アイツも準備を頑張っているなら、こちらもそれに応えなければな」


 リージアの頑張りを聞いたヴォルフは、魔法使い数名が集まる場所に視線を移す。

 彼らが囲っているのは、一発のレールキャノンの砲弾。

 残された唯一のエーテル対応の弾であり、確実に作戦を決める為に改良を頼まれていた。

 複数の魔法陣が書き込まれ、強化が進められている。


 ――――――


 その頃、町はずれにて。

 誰も人が居ない事を確認したリージアは、鹵獲したライフルを構えていた。

 廃材で適当に作った目標へ目掛け、引き金を引いて行く。

 敵のアーマーや使えなくなった宇宙艇の装甲を的にしていたが、全て放たれたビームによって貫かれる。


「……威力は申し分ないけど、何か癖がある」

「銃本体への文句は受け付けてないよ、セキュリティ解除するのに精一杯だったんだからね」


 硝煙のたつライフルを改めて観察するリージアは、発射に一秒未満のラグがある事に不満が有った。

 まるで火縄銃でも撃っているかのように、引き金を引いても発射に時間がかかる。

 本当に一瞬のラグだが、実弾とは違う使い心地には不満がある。

 E兵器関連の知識の無いレーニアからしてみれば、そんな不満は解消のしようが無い。


「わかってるよ、多分私の調整ミスか、ライフルその物の設計に不備が有るかも」


 左肘から延びるコードを外したリージアは、ライフルの安全装置を作動。

 他にも鹵獲したライフルの並ぶブルーシートの上に並べた。

 リザードマンの使っていたライフルから銃剣を外した物が、合計で四丁。

 ナノマシンによる分解を免れ、ロックを解除できたのはこれだけだった。

 それより、レーニアはリージアのセリフにひっかかりを覚えた。


「……アンタ、エーテル射出式のライフル使った事あるのかい?」

「……まぁ、何度か」


 リージアの発言は、完璧なエーテル式のライフルを使用した事が有るようだった。

 と言うか、忙しすぎて結局聞けなかったが、リージアはお手製のE兵器を作っている。

 しかもリージアはもう隠す気があまりないのか、あっさり認めた。

 ついでに背中の装置も取り外し、目の前に持って来る。


「アンタ、もう隠す気無いだろ?」

「まぁね、どうせ向こう着いたら話す事だし」

「……」


 アグラをかいて座ったリージアは、持って来た麻袋に手を伸ばす。

 少し自分の方へ寄せると、もう片方の手に持っていた装置のスイッチを押した。

 円形の装置は中央が解放されるが、特に何も出て来る事は無い。


「それが手品の正体かい?」

「そ、エーテル・リアクター、この魔石を分解してエーテルを取りだし、E兵器の弾なんかに変えるの」


 説明のついでにリージアは麻袋の中から魔石を取りだし、装置の中へと埋め込んだ。

 装置は魔石の魔力を取りだし始めた事で、駆動音を響かせる。


「ほう、という事は、あの魔物達にも使われているのかい?」

「そ、まぁ、私のより出来は良いと思うよ、これの発電量何てリアクター駆動させる程度が精々だから、私達の動力としてはか細いよ」

「本来はどれ位の発電が可能なんだい?」

「そうだね、これ位のサイズで作れる一番効率がいい奴だと、戦闘さえしなければ私達を丸一年動かせるくらいかな?」

「以前のジェネレーターより効率良いじゃないかい」


 リージアが作ったのはE兵器の動力でも有るのだが、所詮この数日であつらえた劣化版。

 エーテルを効率よく取りだし、ライフルのエネルギーとしては扱える。

 代わりに発電機能の部分は手を抜いたので、リージア達の動力としては心もとない。

 もっとしっかり作れる時間さえ有れば、大戦時に採用されていたジェネレーターよりもいい物が作れた。


「まぁでも、今はE兵器対策ができれば良いからね、ライフルとハルバードにエーテルを送れればいいよ」

「そう言えば、アンタとモミザの武器って、例の秘密道具は使わないのかい?」

「うん、グリップの中に入ってるから」

「……」


 背中に装置を戻したリージアの話を聞くレーニアは、オメガチームに配属される前の事を思い出した。

 彼女とブライトがオメガに来る理由となったのは、軍や政府の機密情報への不正アクセス。

 当然そんな事をすれば、即解体処分を受ける事に成る。

 しかし、リージアと司令官の根回しによって解体だけは免れている。

 あらゆるネットワークの利用権限はく奪と、一部記憶の改ざんと言う処罰で済んでいた。

 今の作戦では、その権限を特例として返還されている。


「(そう言えば、以前軍の機密にアクセスした時……)」


 捕まった時に記憶を弄られたので、何を見たのかあまり思い出せない。

 だがおぼろげながら、軍の機密を除いた際にみたデータの一部が僅かにせり出してくる。

 現在採用されているモデルは、複数の種類が存在する。

 そのどれにも該当しないモデルが、かなり深い部分のサーバーに見つかった。


「なぁ、リージア」

「何?」

「モデルAS、軍の機密にアクセスした時にそんなのが有るってのを、見た気がするんだが、今回の件と何か関係有るのかい?」


 冷や汗をかきながら、レーニアは硬直したリージアを見つめる。

 心臓なんて物が有れば、緊張でとんでもない心拍数を叩き出していたかもしれない。

 何しろASと言う単語が出て来た瞬間、リージアは見た事の無い眼をしていた。

 下手をしたら殺されかねないような気配だったので、思わず身構えてしまう。

 戦ったところで、勝ち目はないが。


「ううん、無いよ」


 と、明らかな作り笑いを浮かべながら言い放った。


「ウソつけ!明らかに関係あるだろ!てかアンタ!どこまで知ってんだい!?」

「さぁて、全部のライフルの試験が終わったし、そろそろ皆の所に戻ろっか」

「オイイイ!アンタ誤魔化し方だんだん雑になってないかい!!?」


 色々雑な誤魔化し方によって荷物をまとめたリージアは、そそくさと撤収を開始してしまう。

 置いて行かれる前に私物を片付けたレーニアは、急いで町へ戻って行くリージアを追いかける。


 ――――――


 その日の夜。

 かがり火の僅かな灯りによって照らされる残骸の町にて。

 襲撃に備えてアーマードパックの最終調整作業が続いており、傭兵達は交代で見張りを行っている、

 陽が昇る前に作業を終わらせるべく、アンドロイド達はせっせと動く。

 彼らを横目にするリージアは、フォスキアとモミザと焚火を囲っていた。


「いやぁ、お疲れフォスキア、こんなの一日中着けさせちゃって」

「ええ、おかげで何か違和感あるわ」


 隣に座るフォスキア頭に着けていた装置を外して手に取ったリージアは、モミザと共に中に入っているデータの解析を開始。

 変な重量感からは開放されたが、代わりに重心が僅かにおかしかった。

 その違和感と向き合いながら、フォスキアは懐から干し物を取りだす。


「ふふ、何年ぶりかしらね」

「……クラーケンってやつ?」

「ええ、この辺じゃ名物よ、備蓄からちょっと貰ったの」


 ウキウキとしながら、フォスキアはクラーケンを干したものにかぶりつく。

 外観は普通のスルメと変わらないが、細かく刻んだ物だろう。

 やはり硬いのか、少し噛むのに少し苦戦している。

 三十秒程噛んだ後で、フォスキアは隣に置いていた瓶に手を伸ばす。


「あれ?陶器?」

「……プハ、ええ、ちょっと離れた島国で買った奴よ、タマにはこういうので趣向を変えないと飽きちゃうから」

「(ここにも日本みたいな国有るんだ)」


 フォスキアが取りだした陶器製の瓶には、漢字っぽい字が書かれている。

 読めないが、昔の日本を題材にしたアニメ等に出て来た焼酎の瓶と酷似している。

 何時もと趣向の違う酒でも、やはり機嫌よく酔う。


「やれやれ、死ぬ前の晩さんにも酒要求しそうだな、お前」

「そうね、死ぬってわかってるなら、特級のお酒でも飲みたいわね」

「(話すのは良いんだけど、何か空気が重い)」


 フォスキアとリージアを挟む形に座るモミザも、少し不機嫌そうに話しに加わった。

 因みに、二人共ほぼリージアと密着しており、間に居るリージアは二人からの圧に微妙に委縮していた。

 初めて火を囲った時とはまるで違う状況に困惑しながら、リージアは装置の点検を続ける。


「……そう言えば、確か貴女達、食事しないのよね」

「ま、まぁね、必要無いから」

「そうね……じゃぁ、何か食べたい物とか無い?」

「何でそんな事」

「何か憧れてる物とかあってもいいじゃない」


 昔のアクション映画に似たようなシーンが有った事を思い出しながら、リージアは質問の答えを考える。

 今まで食事の事なんて考えた事も無かったので、少し悩んでしまう。


「お前の事だ、どうせチーズバーガーとかだろ?」

「何でよ」

「お前よりコイツの事知ってるからな、昔そんな事言ってたし」

「……う~ん、それも有るけど」


 マウント取りついでにモミザが答えを当てて来たリージアは、確かに昔そんな事を言ったような気がする。

 洋画を見ていると、ちょいちょい食べているシーンが有ったのでその影響だろう。

 もう少し考えこんだリージアは、他に食べたい物を模索する。


「(……お姉ちゃんの)」


 記憶を巡らせていたリージアは、かなり昔の事を思い出した。

 まだ戦闘に参加しておらず、姉妹達で研究者の元で暮らしていた頃。

 一番上の姉は、生活態度の悪い研究者の食事の面倒も見ていた。

 その時に作っていた物で、一番美味しそうと思った物が有る。


「オムライス、かな?」

「……」

「オム、ライス?」

「そ、焼いた鶏肉を混ぜたライスに味付けして炒めた奴に、焼いた卵を乗せた料理、ちょっと美味しそうだなって、何時も思ってた」

「……」


 引っ張り出された記憶に有ったのは、今は亡き姉の作ったオムライス。

 この世界には無いので、フォスキアは想像するしかなかった。

 リージア達の制作者の好物だった、と言うのもあってよく作っていた。

 まだ作られたばかりで意識がはっきりしていなかった頃、食べてみたい、とねだった事も有る。

 しかし。

『今はダメよ、でも、何時か食べれるように成ったら、姉妹の皆で食べましょう、飛び切り美味しいのを作ってあげる』

 と、何時も断られていた。


「(クソ……また昔の事を)」

「(何か、胸が痛い)」


 しかし、リージアの浮かべる優しい笑みに、フォスキアとモミザは胸を痛めていた。

 今のリージアが浮かべているのは、今まで浮かべた事の無い表情だ。

 二人にとっては、良くない顔だった。


「(もしかしてこの子、他に好きな人でも居るのかしら?)」


 他に想う者が居るのではないのか、フォスキアはそんな不安に駆られてしまった。


「(何て、今じゃ卵何て高級品だし、人間と同じ食事ができるようになっても食べられる訳じゃないもんね)」


 落ち込む二人を他所に、リージアは装置の解析を続ける。


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