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決意と行動 前編

フォスキアの検査を終え、二時間後。

母艦の食堂にて、リージアとフォスキアの二名は食事を摂っていた。


「……」


しかし食事に手をつけて三十分近く経過していながら、リージアの皿には料理が半分以上残っている。

先に食べ終えていたフォスキアは、何時もと違う彼女の姿に疑問符を浮かべてしまう。


「どうしたの?口に合わなかったかしら?」

「え?あ、ううん、何時も通り、美味いよ」


フォスキアの声に多少同様するリージアは、止めていた手を動かして食事を進め出す。

モミザとアリサに言われ、フォスキアの事を改めて考えていた。

おかげで折角の料理の味さえ解らない位考え込んでしまい、彼女に少し不快感を与えてしまった。

その事を申し訳なく思いながら、リージアの目は片づけを始めるフォスキアの方へと向けてしまう。


「(……な、何か、フォスキアが何時もの五割増し位で可愛く見える)」


見れば見る程リージアの視覚はフォスキアで一杯になり、また食事の手を止めてしまう。

自然を感じる草色の長い髪に、卵のようにツヤの有る肌、そして凛とした美しい顔つき。

サイボーグ化したせいなのか、改めて意識したせいなのか、どちらなのかはさておき、とにかくフォスキアが綺麗に見えてしまう。

病人服から何時もの服に着替えられた事で、エルフとしての美しさが表面に出ている。


「ちょ、ちょっと、本当に大丈夫?」

「え、あ、うん、だい、じょうぶ」


心配になってしまうフォスキアに話しかけれ、リージアは余計に顔を赤くしてしまう。

一度落ち着く為に大きく深呼吸をすると、何とか落ち着きを取り戻す。


「ふぅ……え、えっと、後片付けは、食べ終わった後で全部やっとくから、その……い、一時間後、この前の艦内デートで行った、その、展望室で、待ってて」

「え?」

「え、えっと、その、伝えたい事、有るから」

「つ、伝えたい、事?」

「そ、そう」

「……」


リージアの事を改めて観察するフォスキアは、彼女が何時に無く艶の有る表情を浮かべている事に気付く。

展望室に行くという事は、二人きりになるという事。

そこでわざわざ伝えたい事を想像し、フォスキアも顔を真っ赤に染める。


「……わ、分かった、わ……い、一時間後、ね」

「う、うん」


互いに高鳴る胸を抑えながら、フォスキアは退出。

彼女を見送ったリージアは、色々と片づけ始める。


「(そっか、私、フォスキアの事)」


――――――


展望室で会う約束をしてから、少しして。

母艦の通路にて、フォスキアは当ても無くブラブラ歩いていた。


「……はぁ、落ち着かない」


と言うのも、リージアが何を伝えるつもりなのか。

気になりすぎて鼓動は高鳴り、胸は締め付けられるように苦しい。

落ち着いて部屋で酒も飲んでいられないので、緊張感を紛らわそうと歩き回っている。

それでも落ち着かないので酒もチビチビ飲みつつ。フォスキアは視界の隅に表示されている時刻に目をやる。


「後……四十分」


一時間後と言われたが、まだ二十分程度しか経過していない事に驚く。

エルフとして悠久の時を生きて来たが、ここまで長い一時間は初めてだ。

と言うより、リージア達と行動を共にするようになってから時間が異様に長く感じる。


「(そう言えば、あの子達と出逢ってまだ三か月程度なのよね……なのに、一年以上一緒に居る気がするわ)」


彼女達と出逢ってから、まだ三か月程経ったかどうか。

今までの人生の長さで考えれば、一呼吸程度の時間だ。

初めてばかりの日々が影響したのか、今までに無い位時間の感覚がゆっくりだ。


「……ん?」


何となくぶらついていると、機械音と共に視界の端に妙な光が表示された。

表示されているのは左方向を指す矢印で、その方向を見る事を促すようにチカチカと点滅している。

とりあえず従うと、通り過ぎた通路の角の影に人型のシルエットが模られる。

シルエットからは矢印が伸び、様々な情報が提示される。


「……ぜ、ゼフィ、ランサス?」

「……ほう、その索敵能力も、機械のおかげか?」

「あ、本当に居た」


矢印の近くにはゼフィランサスの名前と、型式番号がフォスキアの世界の言語で表示されていた。

魔力を持たないアンドロイド達の気配を感じ取る事は容易ではないが、恐らく現在の身体になったおかげだろう。


「た、多分そうね……なんか、慣れるまで酔いそうよ」

「我々と同じ状態であれば、恐らくそうであろうな」


機械の身体となったおかげで、フォスキアの視界に映される情報は多くなった。

視界の隅には時間や日付、今日の天気などが表示され、望めば視界の中心に捉えた物を詳しく調べる事ができる。

しかも先程のように勝手に誰かの接近も知らせて来るので、情報の量は多い。

慣れていないフォスキアには、画面酔いのような物を何度か起こしている。


「それで?今回は何の用?」

「そろそろ、以前聞いた事の答えを聞きたいと思ってな」

「……あ、ゴメン、すっかり忘れてたわ」

「だと思った」


ゼフィランサスがこうして話しかけたのは、タラッサの町で聞いた事の回答を聞く為。

フォスキア自身忘れていたが、今の身体のおかげで鮮明に思い出せる。


「確か、認めてくれる人なら、誰でも良いのか、って奴よね?」

「ああ」

「……」


当時は急な事ですぐには答えられず、それからも答えられずじまいだった。

しかし、今は迷い無く答えを言える。


「確かに、認めてくれるなら誰でも良かったのかもしれないわね」

「……そうか」

「でも、問題はやっぱその先よね、あの子と関わって、あの子を知って、あの子の事を追いかけて、その果てに有る物なのよ、今の私のこの想いは」

「ほう」


恐らく認めてくれた相手に対しては好意を寄せていた、その確証は有る。

しかしその人物と交友を深めた場合、ほんの一瞬の儚い夢で終わっていたかもしれない。

それでもリージアの深い部分に触れれば触れる程、想いや好感度は増していた。


「恋情を抱く第一歩は軽い物なんだろうけど、その先に、一歩、また一歩踏み込むにつれて、足取りは重くなる、でも、その歩みを止めな、止めたくない相手が、本当に好きな人って事なんじゃない?」

「……」


高鳴る胸を抑えながら話すフォスキアの姿を見て、ゼフィランサスはほほ笑んだ。

別段そう言った話に詳しい訳ではないのだが、彼女も根は少女。

今フォスキアの浮かべている表情は、紛れもなく乙女の顔と言うのはわかる。


「(あれ、ちょっと良い事言った風に話したのマズかったかしら?)」

「良い顔だ」

「え?ナゾナゾは、正解?」

「ああ、それでいい、一時のテンションに身を任すだけの半端な奴と、この先一緒に戦えるか不安だったからな」

「……そ、そう、あ、ありがとう(確かに、私達がこれから進むのは、茨の道、でも、私達なら、どんな道でも行ける)」


ゼフィランサスのセリフを聞き、フォスキアは頭を下げた。

自分の覚悟も再認識でき、リージアへの気持ちも確認できた。


「じゃぁな、私も私で、仕事が有るんでな」

「ええ(そうよね?リージア)」


去って行くゼフィランサスの背中を見ながら、フォスキアはこれからの事を考え出す。

リージアのこれからの目的は、元の世界の政府との戦い。

憎しみの炎は、彼女の中で燻り続けているのだ。

それを止めるにしても、一緒に行くにしても、半端な気持ちでは何もならないだろう。


「(たとえ、貴女がまだ復讐を諦めていないのだとしても、私は貴女と共に戦うわ、それで……)」


今のフォスキアの中には、長女であるアリサの魂も存在している。

もう表に出る事は無くても、確かに彼女の想いが有る。

報復心ではなく、ただ純粋にリージアの傍に居たい。

これからも、その気持ちは変わらないだろう。


「全部終わったら、この世界、改めて案内させてちょうだい」


目を閉じたフォスキアは、全てが終わったらこの世界を一緒に旅する未来を思い描いた。

今はどうなのか解らないが、リージアは色々な種族や場所に興味があったらしい。

全てが落ち着いたら、この世界を改めて観光するのもいいかもしれない。

縁遠いと思っていたデートスポットや美味しいお店などを巡り、平和を謳歌する日々こそが望む所だ。


「……ん?」


ゆっくりと目を開けたフォスキアの視界には、彼女の記憶にある大量のデートスポットが映し出されていた。

他にも一回行った事の有る大量の飲食店や、行った時に得た印象まで表示されている。

おかげで、視界は勝手に表示される情報で埋め尽くされてしまう。


「ちょ!な、なにこれ!?なにこれ!?あだ!」


良く解らない状況に悲鳴紛いの大声を上げるが、下手に動いたせいで壁に頭をぶつけてしまう。

視界を覆う情報の数々に目を回していると、カツカツと足音が聞こえて来る。


「……悲鳴っぽいの聞こえたと思って戻ってきたが、何してんだ?」

「あ、良かった、ねぇ、アンタ等って視界の情報どうやって操作してるの?勝手に出まくって前見えないのよ」

「……あ、あー」


運よくまだゼフィランサスが近くに居たおかげで、彼女に助けを求める事はできた。

しかし、ゼフィランサスはその言葉に困惑してしまう。

何しろ視界の情報の操作方法なんて、呼吸やまばたきはどうやるのか、と聞かれているような物だ。


「……ちょっと?」

「え、えっと、あー、しゅ、集中?」

「……あ、ごめんなさい」


質問した内容は、彼女達にとって口頭で説明できるような物ではない。

その事に気付いたフォスキアは、少し申し訳なさそうに謝った。

結局、時間になるまで自分の身体の操作の練習に費やす事となった。

リージアにこの姿を発見されない事を祈りながら。


――――――


フォスキアがゼフィランサスと話している頃。

リージアはおぼつかない足取りで、モミザの居る部屋へと移動していた。


「(あの時、私の心は)」


通路を歩くリージアが思い出すのは、瀕死の状態で倒れ込むフォスキアの姿。

あの時、心はズタズタに引き裂かれた気分だった。

それこそ、自分の手でアリサを撃ち抜いた時以上の痛みだ。


「あんな痛み、お姉ちゃんを撃った時以来だった、てことは……」


胸を抑えるリージアは、徐々に自分がどんな感情をフォスキアへ抱いていたのかを自覚してくる。

本当にそうなのだとすれば、モミザに言わなければならない事が有る。

それを伝えるために、リージアはモミザの自室の前に立つ。


「(確か通信だと、自室でくつろいでるって事だったね)」


先に通信をしておいたので、自室に居る事を確信しながらドアを叩く。


「モミザ?いる」

『あ?ああ』


返事と共に扉が横方向へとスライドしていき、モミザの部屋の扉が開く。

間取もインテリアも、リージアの物と違いは無い質素な物。

無機質な部屋に一つだけポツンと置かれる椅子に腰かけるモミザは、リージアの事を睨むように視線を向ける。


「何だ?伝えたい事って」

「ちょ、ちょっとね」


部屋に入ったリージアは、モミザの前に立つ。

手を交差しながら目を泳がせるリージアは、今の自分の気持ちを打ち明けようと呼吸と言葉を整える。


「……そ、その、驚かないで聞いて欲しいんだけど」

「な、何だ?」


顔を赤く染めるリージアを前に、モミザは身構えてしまう。

今まで見た事無いような雰囲気を醸し出すおかげで、変な緊張感がモミザを襲っている。

そんな姉の事を目の前に留めながら、リージアはモジモジしながら答える。


「え、えっと、その、わ、私ね、意外かもしれないけど」

「ああ」

「フォスキアの事、好きみたい!ブヘッ!!」

「……」


今更聞くまでも無い事が伝えられ、モミザは間髪入れずにリージアの顔面に拳を入れた。

『好き』と言う単語が出て来た瞬間に立ち上がり、そのまま正拳突きを繰り出してしまったのだ。

おかげでリージアの顔面は潰れ、そのまま後ろの壁に後頭部がめり込む。

ようやくフォスキアへの好意を自覚したのは良いが、言い回しに腹が立った。


「いっつぅ~」

「あのなぁ、それ意外でも何でもないからな?」

「え?そうなの?」

「ああ、なんならホスタ以外全員気付いてた」

「え?」


後頭部を壁から引き抜いて痛む鼻を抑えるリージアは、モミザの言葉に首を傾げしまう。

全く自覚していなかったという事もあって、本当に疑問符を浮かべてしまっている。

そんな愚妹の姿に、モミザは頭を抱える。


「……お前なぁ、一昨日言っただろ?エルフィリアの事、どう思ってんのかって」

「ん~?……あ~……えっと……」


首を左右に往復させるリージアは、アグラをかきながら一昨日の模擬戦の事を思い出す。

モミザの言葉一つ一つをしっかりと取りだし、自分の言ったセリフからも自身の気持ちを紐解いていく。

更に過去に有ったフォスキアとの触れ合い、その会話内容まで高速で再生。

すると、徐々に気付いていなかった自分の気持ちがあらわとなる。


「……そういえば、一緒に居るとなんか楽しいし、あの子の事で胸も頭も一杯だったし、他の女と話されるとなんかムカムカしたけど……あれ?もしかして私、結構前からフォスキアの事好きだった?」

「……むしろそこまで気づかないのが凄いわ」


と言う結論にたどり着かれ、モミザは殴る気すら無くしながら椅子に深く座り込んだ。

その通りだと言いたくとも、鈍さには呆れてしまう。

そんな事より、つい先日分かった事が心変わりの原因になった事はすぐにわかった。


「ま、お前の事だ、どうせエルフィリアの奴がホムンクルスって事が分かったから自覚できたんだろ?まぁ自覚って言うか、認められたって言うか、表現に困るが」

「う~ん、それも有るかもね、好意を認めるにしても自覚するにしても、やっぱエルフでも現実の人間の事は好きになりたくないから」

「だろうな」


未だ人間への憎悪を捨てきれていないリージアにとって、エルフでも人間を愛する事は今までを否定する事に成る。

折角練りに練った計画を、感情の一つで全て放り捨てる事と同じなのだ。

しかしホムンクルスと言うのであれば、その辺を気にする事は無くなる。

少なくとも、リージアはそう言う認識だ。


「ホムンクルスって、言ってしまえば、私達と似たような物だからね」

「それなら愛せるってか?現金な奴だ」

「私もそう思うけど、まぁ、それはそれとして」

「あ?」


フォスキアへの好意を自覚した経緯を再確認したリージアは、急に顔を赤くしながらモジモジと手を交差させる。

そんな彼女の様子にモミザが首を傾げていると、リージアは申し訳なさそうに口を開く。


「この前の、私の事好きだって言うの、やっぱり無しって事で、良い?前までと同じように、普通の姉妹のままで」

「……俺はとっくにその気だったんだけどな」


胸に強い痛みを覚えながらも、モミザはリージアの言葉を飲み込んだ。

モミザの方はもうそのつもりは無かったとは言え、まだ本人には切り出せていなかった。

こうして改めてリージアの口から告げられ、モミザは俯いた。


「そ、その、ゴメンね、フォスキアに気持ちを伝える前に、こうして筋は通しておかないとって、思って」

「……ああ、エルフィリアに振られたから俺にする、そんな二番煎じはゴメンだからな」

「ありがと」


少し意外に思いながらも、モミザはリージアと笑みを浮かべた。

やはり恋仲の間で居るよりも、今まで通り姉妹の関係の方が落ち着いてしまう。

二人そろって色々と吹っ切れるとリージアは立ち上がり、お尻を軽く掃う。


「それじゃ、準備とかしたいから、私はこれで」

「ああ、新しい妹ができるの、楽しみにしてるからな」

「あんま期待しないでよ」

「……」


ちょっとひっかかりながらリージアの背中を見送るモミザは、そのまま背もたれへと体重をかける。

吹っ切れたつもりでも、やはり胸の痛みはあまり収まっていない。

なんだかんだ言って、まだリージアへの想いは残っている。


「(自分でも望んでいたとは言え、辛いな、これがWSSって奴か?あれ?IWSだっけ?どっちでもいいか)」


目に一滴の涙を浮かべたモミザは、軽く笑みを浮かべた。

愛する妹が一歩進むのだから、姉が悲しい顔を浮かべる何て無礼だ。

せめて浮かべられるだけの笑顔で、妹を見送る。


「じゃ、玉砕覚悟だけど、行って来るね~!」

「ズッ!」


別れ際の発言で、モミザは椅子から滑り落ちた。

好意に気付けなかったのは先ほどの理由も有るが、そもそもフォスキアからの好意に気付いていなかった事も大きい。

何しろ、リージアの中のフォスキアは、まだ同性愛に懐疑的。

既にその認識は崩れている事や、好意を向けられている事さえ彼女は気づいていない辺り、失敗する事前提なのだろう。


「あんの鈍感妹が……」


ゆっくりと立ち上がったモミザは、数秒程同じ姿勢で硬直。

今のリージアの事を考えれば考える程、不安が次々吹き出してしまう。


「(どうなるか分かんねぇから、こっそり様子見るか)」


妹の告白シーンを見に行く何て野暮かもしれないが、心配なのでモミザは様子を見に行く事にした。


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