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4.(6)

 自室に戻ってしばらくすると、窓をノックする音が響いた。そっとカーテンを開くと瑠衣が寒そうにパーカーのポケットに両手を入れて立っていた。


「おかえり」


 窓を開けて小声でそう声をかけると、彼女はどこか照れたような表情で「おう」と答えた。そして窓枠に手をかけて器用に部屋へ入ってくる。窓の桟に腰かけるように体勢を変えると、その状態のまま靴を脱いで部屋に足をついた。


「おー。すごい身軽。瑠衣ちゃん、いつもそうやって入ってたの?」

「そうだけど。別に普通だろ」

「いや、たぶんわたしなら靴でそのまま部屋に足ついちゃいそう」


 音羽が言うと彼女は「あー」と納得したように頷いた。


「お前、ちょっとトロそうだもんな」

「まあ、否定はしないけど」

「しろよ。バカにされてんだから」


 瑠衣はつまらなさそうに言いながら、ポケットから取り出したビニール袋に靴を入れて窓の近くに置いた。そして疲れたように息を吐くとテーブルの前に足を投げ出すようにして座る。


「ご飯、食べてきた?」

「いや、風呂は入ってきたけど。お前はもう食べたの?」

「うん。さっき食堂で」

「へえ」


 彼女は言いながら少しだけ眉を寄せて腹に手をあてた。音羽は机の上に置いていた涼からもらった食料を手にすると瑠衣の前に置いてやる。


「なんだよ」

「あげる。カップ麺とかパンとかお菓子だから、夕飯としてはちょっと足りないかもしれないけど」

「お前のじゃないの?」

「もらいもの。なんか、いっぱいくれたから」

「ふうん」


 彼女は言いながら、どこか嬉しそうにカップ麺とパン、それにジュースを手にした。音羽は笑みを浮かべながらケトルで湯を沸かす。


「んで? どうするつもり?」


 瑠衣がカップ麺の蓋を開けながら言う。


「何か作戦は思いついたか?」

「作戦……。ううん、何も」


 音羽は答えながらケトルを見つめた。

 理亜を助ける。それはつまり、殺人を隠蔽するということだ。自分たちもまた罪を犯すということ。それを瑠衣は理解しているのだろうか。いや、きっと理解はしているはずだ。しかしおそらく、実感がないのだ。自分の行動が罪であるということの。それは音羽も同じだった。

 ボコボコと音をたてはじめたケトルを見つめながら、音羽はひそかに息を吐く。


「とりあえず、俺たちがやるべきことはわかってんだよな」


 その声に振り向くと、瑠衣はベッドに背をもたれて天井を見上げていた。


「なに?」

「なにって、そりゃ警察だろ」


 眉を寄せながら彼女は顔を音羽に向けた。カチッとケトルのスイッチが切れる。音羽はケトルを持って瑠衣が開けたカップ麺に湯を注いでやる。


「警察……。捜査を打ち切りにさせるってこと?」


 ケトルを戻し、瑠衣の向かいに腰を下ろしながら問う。彼女は「んー」と唸った。


「そうなんだけど、その手段がなぁ。うちの親にもう捜査は止めてくれって言ってもらうか……」

「それでもあの人は止めないと思うな」

「あの人?」


 瑠衣は怪訝そうに眉を寄せた。音羽は頷く。


「昨日、ここに来た刑事さん。たしか、坂口さんって言ったかな」

「ああ、あいつか」


 瑠衣は納得したように頷いた。


「知ってるの?」

「まあ、何度も家に来てたから。で、そいつは何の用で今頃ここに来たわけ?」

「理亜のことで思い出したことはないかって」

「何か言ってないだろうな?」


 瑠衣が疑わしそうに目を細めた。音羽は「言うわけないでしょ」と軽く彼女を睨む、そしてため息を吐いた。


「でも、そのときにあの人言ってたよ。理亜が消えた日の足取りがつかめないのが気になるから調べてるって。たしか瑠衣ちゃんの両親、理亜のことは自殺として処理してくれって言ってるんだよね?」

「ああ。もうずっと、そう言ってる」

「それでもあの人は調べることを止めない。気になることがあるから、調べ続けてる」


 きっと、真面目で良い刑事なのだろう。些細なことでも気になることがあれば調べる。それが刑事として、当たり前の仕事なのだろうから。


「……遺書、とかは?」


 呟くように瑠衣は言った。


「理亜にさ、遺書書いてもらったらどうかな。それ見せたら警察だって自殺として処理するんじゃねえの?」

「半年以上も経って見つかった遺書?」

「……ダメか」

「不自然だね」


 音羽と瑠衣は顔を見合わせ、そしてため息を吐いた。

 瑠衣はしばらく考えていたが何も思いつかなかったのか、おもむろにラーメンを食べ始めた。ズルズルと麺を啜る瑠衣を見つめながら、音羽は答えの出ない問題をひたすら考え続けていた。

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