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しばらく二人の姿を見つめていた音羽は、やがて「ねえ、理亜」と口を開いた。
「他に知ってる人はいるの? 死んだのが美琴だってこと」
瑠衣の頭を撫でていた理亜の手がピタリと止まる。そしてゆっくりと首を横に振った。
「知ってるのは音羽と瑠衣。二人だけだよ」
「……俺たちだけ?」
涙声で瑠衣が呟いた。うん、と理亜は頷き、瑠衣から離れる。
「二人だけに秘密を話した。で、音羽。これを聞いてどうする? それでもわたしのこと助けてくれるの?」
「助けるよ」
音羽は即答した。だって最初からそう決めていたのだから。
どんなことがあろうとも、理亜のことを助けると。
「どうしたらいいかなんて、まだわからない。でも、わたしは理亜を助ける」
理亜は少しだけ困惑したような表情を浮かべる。そして「マジで言ってる?」と音羽を見つめた。
「ちゃんと聞いてた? わたし、人殺しだよ?」
「うん。わかってる」
「わかってないよ、音羽。わたしは――」
「わかってる!」
理亜の言葉を遮って音羽は声を荒げた。
わかっている。
理亜は美琴を殺し、そして周囲を騙して美琴として生きている。彼女はきっと許されないだろう罪を犯した。
それでも理亜はここにいるのだ。
今、音羽の目の前にこうして存在してくれている。だったら、どんなことをしても助けたい。
もう彼女がいない世界で生きていくのは嫌だから。
「警察」
ふいに瑠衣が口を開いた。まだ涙に濡れた目をゴシゴシ擦りながら彼女は音羽を見た。
「まだ動いてるよな。理亜のこと、調べてる」
「うん」
「まずはそこからだな」
彼女は言って、理亜に向かってニッと笑った。
「俺も手伝うからな、理亜。俺も、理亜を助ける」
しかし、理亜は困惑した表情のまま「ダメだよ」と呟くように言った。
「あんたは家に帰りなって。わたしのことも忘れてさ。宮守家の一人娘として、真っ当に生きてよ」
「やだ」
言って、瑠衣は理亜を睨んだ。
「俺は理亜を助けたい」
「父さんも母さんも心配するから」
「させときゃいいんだ」
理亜は心から困ったようにため息を吐いた。そんな彼女を見て音羽は「無理じゃない?」と微笑む。
「瑠衣ちゃん、諦めないと思うよ」
理亜も「だなぁ」と笑う。
「こいつ、言い出したら聞かないし」
「理亜と一緒だよね」
音羽の言葉に、理亜と瑠衣は顔を見合わせて笑った。楽しそうに。そして、嬉しそうに。
「じゃあ、わたしたち今日は帰るね」
「え、俺も?」
瑠衣が不満そうに頬を膨らませる。
「今日はとりあえず帰って、一緒に相談しよう? 理亜を助けるために何ができるのか」
「……違うだろ」
瑠衣が腕を組んで音羽を睨む。音羽は首を傾げた。
「何ができるのか、じゃない。何をやるのか、だ」
「何をやるのか、か……。うん。そうだね」
音羽が頷くと、彼女は満足そうに笑った。そして立ち上がる。
「理亜、スマホ持ってるんだろ? 連絡先教えてよ」
「あ、わたしも。LINEのアカウント教えて?」
音羽も立ち上がりながらスマホを取り出した。しかし理亜はスマホを手にしたまま、ぼんやりとその画面を見つめている。
「理亜? どうしたの」
「うん。なんか、さ」
理亜は呟きながら顔を上げる。そして泣きそうな顔でニッと笑った。
「なんか嬉しくて。ありがとう、音羽。瑠衣も」
音羽は微笑みながら「うん」と頷く。
「なんだよ。泣くなよ、理亜」
「泣いてないよ。ほら、笑ってんでしょ」
彼女は言いながら瑠衣と連絡先の交換を始めた。その様子を見ながら音羽は思った。
きっと理亜もまた苦しんでいたのだろう。
たった一人で、苦しんでいた。
そしてきっと、耐えきれなくなって音羽に助けを求めてくれたのだ。
他の誰でもない、音羽に。
でなければ、わざわざ理亜から接触してきたりなどしなかったはず。
高校に入学してからずっと、理亜がいてくれたから学校生活を楽しく送ることができていた。彼女が音羽のことをずっと助けてくれていた。その理亜が今は音羽に助けを求めている。
だったら、助けるしかない。
どんなことをしても。
「――絶対に、助けるからね」
呟いた言葉が届いたのか、理亜は目を丸くして振り向いた。そして柔らかく微笑んだ。




