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4.(4)

 しばらく二人の姿を見つめていた音羽は、やがて「ねえ、理亜」と口を開いた。


「他に知ってる人はいるの? 死んだのが美琴だってこと」


 瑠衣の頭を撫でていた理亜の手がピタリと止まる。そしてゆっくりと首を横に振った。


「知ってるのは音羽と瑠衣。二人だけだよ」

「……俺たちだけ?」


 涙声で瑠衣が呟いた。うん、と理亜は頷き、瑠衣から離れる。


「二人だけに秘密を話した。で、音羽。これを聞いてどうする? それでもわたしのこと助けてくれるの?」

「助けるよ」


 音羽は即答した。だって最初からそう決めていたのだから。

 どんなことがあろうとも、理亜のことを助けると。


「どうしたらいいかなんて、まだわからない。でも、わたしは理亜を助ける」


 理亜は少しだけ困惑したような表情を浮かべる。そして「マジで言ってる?」と音羽を見つめた。


「ちゃんと聞いてた? わたし、人殺しだよ?」

「うん。わかってる」

「わかってないよ、音羽。わたしは――」

「わかってる!」


 理亜の言葉を遮って音羽は声を荒げた。

 わかっている。

 理亜は美琴を殺し、そして周囲を騙して美琴として生きている。彼女はきっと許されないだろう罪を犯した。

 それでも理亜はここにいるのだ。

 今、音羽の目の前にこうして存在してくれている。だったら、どんなことをしても助けたい。

 もう彼女がいない世界で生きていくのは嫌だから。


「警察」


 ふいに瑠衣が口を開いた。まだ涙に濡れた目をゴシゴシ擦りながら彼女は音羽を見た。


「まだ動いてるよな。理亜のこと、調べてる」

「うん」

「まずはそこからだな」


 彼女は言って、理亜に向かってニッと笑った。


「俺も手伝うからな、理亜。俺も、理亜を助ける」


 しかし、理亜は困惑した表情のまま「ダメだよ」と呟くように言った。


「あんたは家に帰りなって。わたしのことも忘れてさ。宮守家の一人娘として、真っ当に生きてよ」

「やだ」


 言って、瑠衣は理亜を睨んだ。


「俺は理亜を助けたい」

「父さんも母さんも心配するから」

「させときゃいいんだ」


 理亜は心から困ったようにため息を吐いた。そんな彼女を見て音羽は「無理じゃない?」と微笑む。


「瑠衣ちゃん、諦めないと思うよ」


 理亜も「だなぁ」と笑う。


「こいつ、言い出したら聞かないし」

「理亜と一緒だよね」


 音羽の言葉に、理亜と瑠衣は顔を見合わせて笑った。楽しそうに。そして、嬉しそうに。


「じゃあ、わたしたち今日は帰るね」

「え、俺も?」


 瑠衣が不満そうに頬を膨らませる。


「今日はとりあえず帰って、一緒に相談しよう? 理亜を助けるために何ができるのか」

「……違うだろ」


 瑠衣が腕を組んで音羽を睨む。音羽は首を傾げた。


「何ができるのか、じゃない。何をやるのか、だ」

「何をやるのか、か……。うん。そうだね」


 音羽が頷くと、彼女は満足そうに笑った。そして立ち上がる。


「理亜、スマホ持ってるんだろ? 連絡先教えてよ」

「あ、わたしも。LINEのアカウント教えて?」


 音羽も立ち上がりながらスマホを取り出した。しかし理亜はスマホを手にしたまま、ぼんやりとその画面を見つめている。


「理亜? どうしたの」

「うん。なんか、さ」


 理亜は呟きながら顔を上げる。そして泣きそうな顔でニッと笑った。


「なんか嬉しくて。ありがとう、音羽。瑠衣も」


 音羽は微笑みながら「うん」と頷く。


「なんだよ。泣くなよ、理亜」

「泣いてないよ。ほら、笑ってんでしょ」


 彼女は言いながら瑠衣と連絡先の交換を始めた。その様子を見ながら音羽は思った。

 きっと理亜もまた苦しんでいたのだろう。

 たった一人で、苦しんでいた。

 そしてきっと、耐えきれなくなって音羽に助けを求めてくれたのだ。


 他の誰でもない、音羽に。


 でなければ、わざわざ理亜から接触してきたりなどしなかったはず。

 高校に入学してからずっと、理亜がいてくれたから学校生活を楽しく送ることができていた。彼女が音羽のことをずっと助けてくれていた。その理亜が今は音羽に助けを求めている。

 だったら、助けるしかない。

 どんなことをしても。


「――絶対に、助けるからね」


 呟いた言葉が届いたのか、理亜は目を丸くして振り向いた。そして柔らかく微笑んだ。

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