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3.(4)

「なんで瑠衣が来るんだよ」


 困った表情で理亜が言う。


「教えたわけじゃないの?」

「んなことしないよ。わたしのこと知ってるの、音羽だけだもん」

「じゃあ、なんで――」

「おい!」


 スピーカーから瑠衣の苛立った声が響いた。


「いるのはわかってんだからな!」

「あー、わかっちゃってんのかぁ」


 理亜が困ったように呟くと「どうしよ」と音羽を見てきた。


「どうしよって言われても……」


 音羽も困ってしまう。


「居留守すんなよ!」


 再び響く瑠衣の声。理亜は少し考えてから「えっと、どちら様でしょう?」と声色を変えて返事をした。


「……ふざけんなよ、理亜!」

「完全にバレてんのね」


 深くため息を吐いて理亜は「しょうがないなぁ。入ってこいよ」とモニタ横のボタンを押した。おそらくそれが門のロックを解除するボタンなのだろう。すると十秒もしないうちに玄関のドアを叩く音が響いた。


「早いな」


 理亜は笑いながら玄関へ行ってドアを開ける。そこには怒りの表情を浮かべた瑠衣が立っていた。彼は音羽を見ると小さく舌打ちをしてから理亜を睨みつける。


「お前ら、グルだったんだな」

「は?」

「グルって……」


 音羽は理亜と顔を見合わす。そして理亜が苦笑しながら「何のことだよ」と瑠衣に視線を戻した。


「惚けんなよ。理亜が生きてるって、お前、知ってたんだろ」


 瑠衣は低く震えた声で言いながら音羽を睨んでくる。音羽は彼を見返しながら小さく首を横に振った。


「理亜が生きてるって知ったのは数日前だよ。それまではわたしも知らなかった」


 数日、と瑠衣は口の中で繰り返す。そして俯きながら「俺と会ってたときには知ってたんじゃないか」と吐き捨てるように言った。


「それは……」


 その通りだ。しかし言うことはできなかった。あのときは音羽自身、何も状況が理解できていなかったから。


「なんで、黙ってたんだよ」


 瑠衣は俯き、肩を震わせながら言う。


「――ごめん」


 音羽の謝罪に瑠衣はカッとした表情で音羽を睨みつけてくる。そのとき「瑠衣」と理亜が柔らかな声で彼の名を呼んだ。


「なんでここがわかったんだ?」


 瑠衣は再び顔を俯かせて「寮に行こうとしたら音羽が出掛けるの、見えたから」と答えた。


「ついてきてたのか……」


 理亜は言いながら眉を寄せて首を傾げた。


「っかしいなぁ。わたし、ちゃんと尾行ついてないこと確認してたんだけどな。バスにだって瑠衣乗ってなかったでしょ」

「タクシーで追った」

「マジ……? 無駄遣いすんなよ」

「無駄じゃない」


 瑠衣は顔を上げると理亜を睨みつけた。


「全然無駄じゃない。だって、理亜に会えただろ。なんだよ、無駄って……」


 表情とは裏腹に、瑠衣の声は弱々しかった。理亜は「そっか」と息を吐くようにして笑う。そして両腕を広げると瑠衣を包み込んだ。


「ごめんな、瑠衣」

「――何がだよ」

「んー、色々?」

「色々って……」


 瑠衣は息を吐きながら「ほんとに、理亜なんだよな?」と小さな声で続けた。


「他の誰かに見えないのならね」


 妙な言い回しをする理亜を、瑠衣は怪訝そうな顔で見上げた。そしてそのまま理亜のことを見つめ続ける。理亜もまた、何かを受け止めるかのように瑠衣を見返していた。どれくらいそうしていたのだろう。やがて瑠衣が「映画」と口を開いた。


「ん?」

「約束しただろ。一緒に行くって」

「んー、そうだっけ」


 理亜は首を傾げる。瑠衣は「そうだよ」と言いながらボフッと理亜の胸に顔を埋めた。


「理亜の奢りで連れてってくれるって言った」

「そっかそっか。じゃあ、今度行こっか」


 微笑みながら理亜は瑠衣の頭を撫でる。瑠衣は理亜に身体を預けるようにしながら「絶対だからな?」と念を押すように言った。


「うん。絶対」

「約束だぞ?」

「わかってるよ。今度こそ、行こうな」

「ポップコーンのセットも理亜の奢りだからな? 一番でっかいやつ」


 フフッと理亜は笑って「了解」と瑠衣の頭を撫でる。


「絶対、だからな……。理亜」


 静かな玄関に、瑠衣のすすり泣く声が響いていた。


「――ごめんな」


 囁くように言いながら理亜は瑠衣を優しく抱きしめる。その顔は音羽が見たこともないほど、穏やかなものだった。

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