6章 4話 キューピッドランド
翌日学校に行くと、オリヴィアは転校したことになっていた。
南条を始め、クラスメートたちは驚き、残念がっていた。
事あるごとに言い争っていた藤堂でさえも、「寂しくなるわね」と漏らした。
当然だが、オリヴィアがいなくなっても、日常は続いていく。
そして、とうとうデートの日になった。
朝九時、快晴の空の下、家の前でリズの支度が終えるのを待つ。
やがて玄関のドアが遠慮がちに開いて、リズが出てきた。
フリルの多い純白のワンピースに、足元は小さな花飾りがついた赤いパンプス。
肩から掛けているショルダーバッグの紐を両手でぎゅっと握り、そわそわした様子だ。
手入れの行き届いた銀髪が陽光を浴びて煌めき、顔には薄く化粧が施されている。
かなり気合が入っているように見える。
リズは恥ずかしそうに俺を上目遣いで見つめ、
「どうですか?」
その表情、仕草の一つひとつが眩しい。
「いいんじゃないか」
胸を撫で下ろすリズから視線を逸し、
「それじゃ行こうか」
俺たちは駅に向かって歩き出した。
電車に揺られ、四十分ほどで目的地であるキューピッドランドに到着した。
園内の中央にキューピッド像の威容が見える。
全高百メートル、ビルの三十階くらいの高さで、この距離だと圧倒的な威圧感がある。
事前にコンビニで発券したチケットをもぎってもらい、装飾過多な電飾が華々しく光る巨大な入場ゲートを通り抜ける。
周囲の男たちの熱い視線が、リズに集中している。
同時に俺には、嫉妬に狂った眼差しが突き刺さる。
ここに来るまでの道中もそうだった。
リズの隣を歩けることを自慢したいと思うことはなく、むしろ肩身が狭い。
休日ということで、園内は来場者で溢れかえっている。
件のジンクスのせいか、同性同士や家族連れが多い。
ジンクスだが、夫婦は対象外となっているのが、唯一の救いだと思う。
男女で来ている人たちもいるが、友達と割り切っているか、単純にジンクスのことを知らない、あるいは気にしていないのだろう。
ここはとにかくアトラクションが多く、それを売りにしている。
待ち時間を考えると、とても一日では回りきれない。
園内のマップを見ながら、
「どこから行く?」
「怖いのはちょっと……」
リズはおずおずと答えた。性格的に苦手なのだろう。
となると、絶叫系とかホラー系はダメってことか。
ライドタイプでも、高さのあるやつは無理そうだから、地上をゆっくり進む乗り物がいいよな。
それ以外では、3Dシアターで専用のメガネをつけてアニメーションを見るものや、ここのキャラクターと交流を持てるステージもある。
ベタにコーヒーカップやメリーゴーラウンドといった定番でもいいだろう。
考えを巡らせていると、
「恭平くんはどれに乗りたいんですか?」
「俺はどれでもいいよ。それよりリズが楽しめるのを考えないと」
「怖いのはあまり得意じゃありませんけど、やっぱり今日は頑張りたいです」
「怖いのも大丈夫ってこと?」
リズは力強く、というよりも自棄っぽく頷いた。
今日にかける覚悟がそうさせたのだろう。
「大丈夫です! 早速あれに乗りましょう」
近くのアトラクションを指差すリズ。
恐怖の館、と書かれたおどろおどろしい看板がある。
お化け屋敷だ。
看板には幽霊の絵が描かれ、その長髪の白い着物の女性が俺たちを見下ろす。
いきなりハードルが高いんじゃないだろうか。
「最初はもっと刺激の少ないやつの方がいいんじゃないか?」
「いえ、あれにしましょう。お、おばけなんて私がやっつけて見せます!」
やっつけちゃダメだろう……。
一抹の、いや、かなりの不安を覚えつつ、列に並ぶ。
待ち時間は十五分ほどで、その間リズはずっと怯えていた。
俺たちの順番になり、中に入る。
墓地を模した造りで、また暗く、天井のライトのわずかな灯りは頼りない。
通路の両側に墓石が並んでいるのだが、かなり不気味で、今にも何か出てきそうだ。
リズは小刻みに震えながら、視線をきょろきょろと彷徨わせている。
怖かったら俺の腕に掴まって、とか言うべだろうか。
でも、女の子の体に簡単に触れるのは……。
そう思ったとき、親父の声が頭の中で再生された。
人を好きになるのが怖いんじゃないだろうな。
「良かったら俺の腕に掴まれよ」
気がつくと、そう口走っていた。
リズは驚いた様子だ。
よほど意外だったのだろう。
「迷惑をかけるのは……」
「迷惑なんかじゃないよ。それにそうした方が、デートっぽいし」
リズは逡巡した後、
「じゃあ」
と遠慮がちに俺の腕に掴まった。
右腕にリズの控えめな力を感じる。
自分のキャラクターに萌えてもらえるか、不安。




