4章 4話 剣道場
支度をしているとき、リズが心配そうに話しかけてきた。
「恭平くん、気をつけてくださいね」
「大丈夫だよ。しっかり、潔白を証明してくる」
リズの後ろで、オリヴィアが小さな声で、
「何かあったら、連絡しろ」
「分かった。ありがとう」
藤堂に付いて家を出る。
藤堂の家は、俺の家から学校を隔てて反対側だった。
うちと同じで二階建ての一軒家だが、うちよりも大きく、また典型的な日本家屋だ。
「ただいま」
引き戸を開ける藤堂に続いて、少し緊張しながら、敷居をまたぐ。
「お邪魔します」
足を踏み入れてすぐ、えらい美人が出てきた。
黒髪の優しそうな雰囲気だ。
「透子、おかえりなさい」
「お母さん、ちょっと話があるんだけど」
お母さん? かなり若いように見えるが、この美人は藤堂の母親らしい。
藤堂のお母さんは俺を見るなり、歓声を上げた。
「まさか透子が彼氏を連れて来るなんて!」
「違うわよ! 変なこと言わないで」
どうやらお母さんは、あらぬ勘違いをしているようだ。
「あら、そうなの? 残念ね」
肩を落とすお母さんに、藤堂は俺を紹介する。
「クラスメートの木場くんよ。彼を一週間泊めたいんだけど」
「やっぱり彼氏なんじゃない」
「だから違うってば!」
それから藤堂は経緯を一通り説明した。
「そういうことね。分かったわ」
お母さんは俺の滞在を快く許可してくれた。
藤堂は俺に、家に上がるよう促し、
「案内するわ。付いて来て」
居間、台所、トイレ、風呂場と回る。
勝手口の向こうに、大きな平屋の建物が見えた。
二世帯なのだろうか。
だが、住居とは少し違うように見える。
「あっちにも誰か住んでるのか?」
「あれは剣道場よ。昔、お母さんが剣道の教室をやっていたの。近所の子供を集めてね」
あのお母さんが竹刀を握っているところは、ちょっと想像できない。
剣道場を何となく眺めていると、
「興味あるなら、ちょっと見てみる?」
俺は小さく頷いた。
外靴に履き替え、道場のある裏手に回る。
扉を開け、中に入ると広い空間があった。
木の懐かしい匂いがし、大きな窓から差し込む光が床を照らしている。
奥には日本刀が、悠然と佇んでいる。
その上には、墨で大きく「心技体」と書かれた額縁がある。
「そうだ。この一週間、剣の稽古をつけてあげるわ」
唐突に藤堂が言った。
「え、いや、それは」
「大丈夫。剣道であなたの心を正してあげるから」
結局断りきれず、何故か剣道を習うことになってしまった。
剣道場を出た後、二階にある客間に通された。
畳に障子の和室だ。
「この部屋を使って。押し入れの中に布団があるし、他に必要なものがあったら言って」
「ありがとう」
礼を言うと、藤堂が眉をひそめた。
「私の勝手に付き合わされて、よくありがとうなんて、口に出せるわね」
「これは良い機会だからな。リズが言ってたんだ。この前、山で助けてもらった藤堂に、誤解されたまま嫌われるのは悲しいって。俺もそう思ったから、ちゃんと誤解を解きたいんだよ」
「そう」
藤堂は短く答え、部屋を出て行った。
ここは本当に苦しい。
小さなアイデアが出なかった。




