EP 5
ポポロ村の宴会。美味い飯と星空の下で〜究極のホワイト拠点候補地、発見〜
合成死蟲将軍機という規格外のレイドボスを打ち倒したその夜。
ポポロ村の中心にある広場には、巨大な焚き火が焚かれ、村を挙げての盛大な大宴会が開かれていた。
「さあさあ、ホープ・クローバーの皆さん! 今日は村のありったけの酒と飯を出しますぞ! 存分に食って飲んでくだされ!」
ロップ村長が、満面の笑みでジョッキを掲げる。
広場には、村人たちが持ち寄った太陽芋の料理や、トライバード(三徳鳥)の丸焼きなどがズラリと並べられ、歓声と笑い声が絶え間なく響いていた。
だが、この宴の『真の主役』は、村の料理ではなかった。
「お待たせしました。特製『肉椎茸と米麦草の醤油草炊き込みご飯』、それに『太陽芋とマヨ・ハーブの濃厚ポテトサラダ』です」
俺は、脳内の【ホームセンター】から召喚した『プロ仕様・大型キャンプ用コンロ』と『ダッチオーブン』を駆使し、次々と料理を完成させては村人たちに振る舞っていた。
「う、うおおおおっ!? なんだこの肉椎茸の深い旨味は! 醤油草の香ばしい匂いが米麦草の一粒一粒に染み込んでいるぞ!」
「こっちのポテトサラダもヤバいべ! 太陽芋の甘みとマヨ・ハーブの酸味が絶妙に絡み合って、口の中でとろけるだあ!」
一口食べた農民たちが、目をひん剥いて美味さに震えている。
前世、独身の過労死店長として自炊を極め、今世でも母・マリアを家事から解放するために腕を磨き続けた俺の料理スキルは、異世界の素朴な味覚を容易く蹂躙した。
(フッ……ビジネスにおける接待の基本。『相手の胃袋を完全に掌握する』だ。これでポポロ村の住人は、俺たちホープ・クローバーに絶対の信頼を寄せることになる)
俺が現場監督として次々と料理をディシャップしている横で、ズズズッ……と凄まじい音を立てて飯を掻き込んでいる少女がいた。
「はふっ、んむっ! 美味しい……! こんな美味しいお肉、初めてですぅぅっ!」
ピンク色の芋ジャージを着たリーザである。
彼女の目の前には、俺が約束通りに作った『シープピッグ(豚型魔獣)の特大メガ盛りカツ丼』が鎮座していた。分厚いシープピッグの肉をサクサクに揚げ、特製の出汁と卵でとじた逸品である。
普段はパンの耳や雑草で食いつないでいる彼女にとって、それはまさに神の食べ物だったのだろう。感動のあまり涙をボロボロと流しながら、自分の顔より大きな丼に顔を突っ込んでいる。
「焦らなくていい、おかわりもあるからな。今日だけは腹が破れるまで食え」
「りあしゅしゃまぁ〜! 一生ついていきましゅぅぅ〜!」
一方、焚き火の反対側では、フェイトが村の若い娘たちに囲まれて上機嫌にグラスを傾けていた。
「いやぁ、あのバケモノ相手に突っ込んでいくのは流石の俺も骨が折れたぜ。だが、村の可愛い子ちゃんたちを守るためなら、俺の剣も自然と動いちまうってな。ハハハ!」
「キャーッ! フェイト様ぁ、素敵ぃ!」
度数40度の『イモッカ(芋焼酎ウォッカ)』をロックで煽り、ポポロ・シガレットをふかしながら、武勇伝を語るフェイト。
将軍機戦の9割は俺のトラップとキャルル・リーザの働きによるものなのだが、最後の一撃を持っていったため、村人からは完全に『最強のヒーロー』として認知されてしまっている。
「……あいつ、後で絶対に経費の精算で泣かせてやる」
俺が恨みがましくフェイトを睨んでいると、ロップ村長がトコトコと歩み寄ってきた。
その手には、高級酒『サケスキー』の瓶が握られている。
「いやぁ、リアス殿。本当に貴方方は村の救世主じゃ! あの死蟲将軍機を倒してくださっただけでなく、こんなに美味い料理まで振る舞ってくださるとは……」
村長が、俺のグラスにトクトクと酒を注ぐ。
「これをご縁に、ホープ・クローバーの皆さんには、いつまでもこのポポロ村に居ていただきたい! いや、むしろ村の専属護衛になってはくださらんか!? 報酬は弾みますぞ!」
村長が、目を潤ませて懇願してくる。
三大国家の緩衝地帯という激ヤバ立地にあるこの村は、常に外敵の脅威に晒されている。俺たちのような実力のあるクランを囲い込みたいのは、村のトップとして当然の判断だ。
「ハハハ。大変光栄なお誘いですが……我々も色々と入り用でして。前向きに『善処』いたしますよ」
俺は前世で磨き上げた、完璧な営業スマイルと大人のマジックワード(善処します=確約はしないが検討はする)で躱した。
だが、内心では村長の提案を冷静に評価していた。
(……この村は、悪くない。むしろ最高だ)
国家の軍部や法律が介入できない『非武装地帯』。
広大な土地と、豊かな資源(太陽芋、コーヒー、タバコ)。
もしここに俺が【ホームセンター】の資材で強固な防衛拠点を築き、自前でインフラを整えれば、俺の目指す「誰にも邪魔されない究極のホワイトライフ」が実現するのではないか。
俺は少し喧騒から離れ、冷たい夜風に当たることにした。
広場から少し離れた小高い丘。そこには、一人で夜空を見上げているキャルルの姿があった。
「どうした、キャルル。せっかくの宴会なのに、抜け出してきたりして」
俺が声をかけると、キャルルは振り返り、優しく微笑んだ。
その手には、俺が作った太陽芋のポテトサラダが乗った小皿が握られている。
「ううん。少し、風に当たりたかっただけ。……リアス君の作ったご飯、すごく美味しいね」
「そりゃどうも。おかわりもあるぞ」
俺が隣に腰を下ろすと、キャルルは少しだけ体を寄せてきた。
夜空には、満天の星と、大きな月が輝いている。
「……ポポロ村って、良い所だわぁ」
キャルルが、ぽつりと呟いた。
「私ね、レオンハート獣人王国にいた頃は、ずっとお城の中にいたの。姫としての作法、近衛騎士としての厳しい規律……王族の血(月兎族)を絶やさないための、ただの『籠の鳥』だった」
彼女の横顔には、普段の明るさや、戦闘時の狂気は微塵も感じられない。
ただの、等身大の二十歳の少女の顔があった。
「でも、ここにはそんな窮屈なルールは何もない。みんな笑って、美味しいものを食べて、星空を眺めてる。……私、冒険者になって、リアス君たちと出会えて、本当に良かった」
「……そうか」
俺は、彼女の言葉に静かに頷いた。
前世で、過労死するまでコンクリートのジャングルとバックヤードに縛り付けられていた俺にも、彼女の言う「自由の尊さ」は痛いほどよく分かる。
「むにゃむにゃ……カツ丼……もう、食べれないですぅ……」
ふと見ると、丘の草むらで、リーザが幸せそうな顔をして大の字で寝転がっていた。
どうやら限界までカツ丼を詰め込み、そのまま寝落ちしてしまったらしい。
芋ジャージの腹が、ボールのようにパンパンに膨れている。
「ふふっ。リーザちゃん、本当に幸せそう」
キャルルがクスクスと笑う。
「フェイトも、あんなに嬉しそうに飲んでるし。……ねえ、リアス君。私たち、ここを拠点にするのも悪くないと思わない?」
キャルルの言葉に、俺は夜空を見上げたまま、ゆっくりと息を吐いた。
「……ああ。そうだな」
問題児ばかりの厄介な社員たちだが、不思議と悪くないチームだ。
それに、このポポロ村ののどかな空気と、村民たちの温かさは、前世で荒みきっていた俺のビジネス魂に、確かな癒しを与えてくれていた。
(ここを、俺たちホープ・クローバーの『ホーム(拠点)』にする。定時で上がり、美味い飯を食って、夜はぐっすり眠る。……そんなホワイトな生活基盤を、この村でDIYしてやるか)
俺の中で、新たな事業計画が確かな輪郭を持ち始めた瞬間だった。
満天の星空の下、ポポロ村の宴は夜遅くまで続いた。
この平和な時間が永遠に続くようにと、誰もが信じて疑わなかった。
――だが、数週間後。
この平和なポポロ村に、ルナミス新聞の『三面記事』を発端とする、村の存亡を揺るがす前代未聞の大事件(村長のバックレ)が巻き起こることになるとは、この時の俺たちはまだ知る由もなかったのである。
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