1.
四角関係。それはなんて歪なことか。側から見て気づけばなおのことだ。どうしてああなるのか。どうして、恋焦がれるのか。綺麗で暗くて明るくて、羨ましくなんてないステージの上のよう。そんな立ちたくない舞台の上、それは突如として、こちらを向く。そんな予感がした。
春は恋の季節。暖かくて浮き足立つのか、新たな出会いか、植物に彩りを受けてか。
羨ましくなどない。ただ、どんな、どんな色がするのだろう。気がそそられるだけ、だ。
思いの外、長い間見ていたことに気づくと、私は足の筋肉を動かす。目線を移し、身体に合わせ正面から横へ、横から正面へ。そんな感じで、次の目的地。
告白をしそびれている。いや、タイミングを逃した。月に叢雲花に風。逃した日は後に引きづりそう。傍目にはそう見えた。
「こんなところにいたんだね」
誰かの声だ。誰だろう。姿が全く見えない。見えない。黒くてぐちゃぐちゃ。落書きみたいな人間?が立っているような……。一体……。
「あれ……う、うーん。あ、そうだ。あれ見て」と指を指す方へ自然と顔を向ける。瞳に映してみて首を傾げる。よく見えな……い……。
そこは様子が変わっており、見逃した映画のようだ。顔を見ていたら、見逃したなんて。……私はなにか引っ掛かった気がした。例えるなら、頭に、頭の大事な部分になにか、やや小さくて長い三角形型の骨が刺さってるような……。
「思い出せない……?やっぱり」
悲しげに揺れて、痛ましげに囁く、横顔が見えた気がした。気遣う様に見覚えがあるような……。
頭に右手を当てる。痛いのではなく、思い出せそうな感覚が私にその動きを促したのだ。しかし、「えっ、大丈夫、やっぱりまだ、戻ろう?いつだって、いつまでだって待っているから。大丈夫」とそれは優しく急かす。
呪文のように呟かれても、わからない。まるで、記憶喪失の恋人のようだ。いや、大切な人と言った方が適切で、……「大切な人は守らなければ……?」不意に声に出していた。隣にいた何かの空気が変わる。なにか大事なことなのだろうか。これでは本当に何か忘れた人みたいだ。曇り空の、乱層雲のような気分で、それを置き去りにしてもいいというふうに歩き出す。「ま、待って」なんて聞こえるけれど、置いて……
「待って、よ!」
手首に触れている。手首に黒い物が触れている。なぜだか振り解く気にはならず、受け入れる。懐かしいなんて言ったら、とても。
瞬きをする度に、それが薄くなるように感じた。黒い落書きのような跡が消えていくような。しかし、途中で収まり、それがかろうじて人間なのだろうと分かる程度で収まる。人間。なら、
「やはり、あなた……だれなの?」
「…………君には行って欲しいんだ、あっちに」
指さすのは、先ほどまでの進行方向であって。
「なにがあるの?」と聞けば、「……見てきて」と返される。ならば、しようがないと手を離すように、外側へややと動かす。が、「ごめん」と断りそうな声が耳を触り、これまたしようがないと、ともに進む。春から夏へと、秋から冬へと。桜からプールへと、薄茶色の葉から白い息へと。__と時間が過ぎ去っていく。これがなんなのか。よくある光景ではないか。季節が巡ることを再び知らされても、もう知っている。
「遅いことは分かっている。でも、僕は、僕は君が______」
はらっとなにかが私を通っていくように感じる。突き抜けるような、優しく触れるような、突風のようで、進めないような風で、背中を押すような風。台風みたいじゃないと、隣りを見る。
誰もいなかった。
とたん、寂しくなってくる。両腕を摩る。己の腕を抱き抱えた。なぜだろう。
あれ?なにかいた、ような、だれかいたような…………?




