第59話『真実と和解』【陰謀と策謀の王都編⑩】
戦いの翌日。
王都の議事堂は、いつも以上に緊張した空気に包まれていた。
高い天井に吊るされた燭台が昼なお暗い光を放ち、列席する貴族や役人たちの視線は一点に注がれている。
中央に座らされているのは、捕縛された陰謀派閥の黒幕――グランツ公。
昨日まで威厳に満ちていた顔はやつれ、しかし眼光だけは鋭く光を失っていなかった。
「グランツ公。」
壇上に立つレオンの声が響く。
「なぜ、カイ・クロスを排除しようとした。」
静かな問いかけに、老人は嘲笑を浮かべた。
「なぜだと? 貴様らには分からぬだろう。
王家と公爵家の均衡――それを保つことこそ、この国を千年支えてきた掟。
そこに“異邦人”などという余計な駒が入り込めば、秤は傾き、国は崩れる。」
会場がざわめく。
貴族たちの中には頷く者もいれば、顔をしかめる者もいた。
「均衡、か。」
レオンはまっすぐに黒幕を見据える。
「だが、それは恐怖から生まれた鎖にすぎない。
互いを信じられぬから、均衡という名の足枷を嵌めてきた。」
彼は一歩前に出て、堂々と声を張った。
「私は均衡ではなく、信頼で国を繋ぐ!
カイ・クロスが証明したではないか。出自も地位も関係なく、知と心で人は結び合えるのだと!」
その言葉に、議場の空気が大きく揺れた。
若い議員たちは頷き、老いた貴族たちも沈黙したまま何かを考え込んでいる。
その場に立つカイは、少し肩をすくめて苦笑した。
「……ワイは大層なことは分からへん。
けどな、ワイは教師や。黒板に数式書いて、生徒と向き合うのが仕事や。」
彼は手のひらを広げ、壇上から生徒席に目をやった。
クロス組の生徒たちがじっと彼を見ている。
かつて魔法を諦めていた子供たちが、今は自分の力を信じる瞳で立っていた。
「守りたいもんがあるんや。
それは立派な国とか、大きな制度やなくて――目の前の生徒や、昨日まで泣いてた子どもの笑顔や。」
言葉は素朴だった。
けれども、その素朴さが真実として響いた。
しばしの沈黙の後、グランツ公は肩を震わせて笑い出した。
「ははは……なんと愚かで、なんと羨ましいことか。
私にはもう、その真っ直ぐさを信じる勇気が残っておらなんだ。」
深いため息と共に、彼は力なく俯いた。
その姿に、派閥に従っていた仮面の男たちがざわめく。
昨日まで命令に従っていた彼らの目に、迷いと後悔の色が浮かんでいた。
「結論は出たな。」
学園長が立ち上がり、重々しく宣言する。
「グランツ公ら陰謀派閥は、王国への反逆により処罰される。だが同時に、彼らの“恐れ”が何を生んだかを忘れてはならぬ。」
場内に拍手が起こる。
それは大きな喝采ではなく、しかし確かな賛同の証だった。
◆◇◆
議事堂を出ると、外には澄み切った空が広がっていた。
ルーティアがにこやかにカイの腕へ絡みつき、声を弾ませる。
「やっぱり、旦那様は素敵ですわ。」
「旦那様言うな! 今ええ話してたのに台無しや!」
「いいえ。どんな時もあなたは私の旦那様。それが真実ですもの。」
笑い声が広がる中、レオンとフィリアも近寄ってきた。
レオンは真剣な瞳でカイを見据える。
「カイ先生。……これからも、この国の未来を共に支えてほしい。」
フィリアは恥ずかしそうに微笑む。
「先生、私も……もっと強くなります。だからこれからも教えてくださいね。」
カイは頭を掻き、あめちゃんを二人に手渡した。
「ほな、まずはアメちゃん配るとこから始めよか。これがワイ流や。」
四人の笑い声が、青空に溶けていった。




