第23話『事件の余韻、公認夫婦漫才は王都でも』
料亭「蒼穹館」の奥間。
大悪党一味はすでに床に膝をつき、武器も投げ捨て、王都治安騎士団に縄で縛られていた。
「お前ら、よくぞ大暴れしてくれたな……!」
騎士団長は剣を抜きかけていたが、状況を見て唖然とする。
「精鋭部隊が来たはいいが、すでに仕事が残っていない……」
「むしろ、捕虜の移送が仕事やな。お疲れさん」
カイが肩を竦めて笑う。
「先生、あの魔法不可結界……凄まじかったです」
若い騎士が恐る恐る声をかける。
「いやいや、ただの計算式やで。√r²はr、ゼロにすりゃ全部止まるんや」
「ゼロにしたら何も残らないじゃないですか!?」
「せやから残らんのや。簡単やろ?」
「簡単じゃありません!」
周囲はまた笑いに包まれる。
公爵ジークフリードは豪快に笑い、息子二人は剣を収める。
「ヴィルヘルム、ユリウス。見事だったぞ」
「当然です、父上」
「妹に触れる輩を許すわけがない」
その横でルーティアは鼻を鳴らし、剣を鞘に戻す。
「ふん。当然よ。だって、私は“この人”を守るんだから」
言い切ってカイの腕に堂々と絡む。
「お、おい! みんな見てるやろ!」
「いいのよ。もう遠慮はしないって決めたから」
「こら、ほんまに奥様気取りやな……」
「奥様じゃなくて奥様よ」
「二回言うな!」
笑いと呆れが交錯する。
◆◇◆
その夜。
事件のことは王都中に広まり、「公爵家と一人の教師が大悪党を捕らえた」という噂が瞬く間に民衆の話題となった。
「カイ先生って、あの関西弁ってやらの?」
「そうそう、アメ配る変わり者やろ」
「でも、王国で最強の教師やで」
もはや王都では「夫婦漫才教師と令嬢」の噂が定着しつつあった。
◆◇◆
翌朝。
学舎の教室では、いつも通りのやりとりが始まる。
「先生、今日は何の授業ですか?」
「今日は“対数と恋の持続時間”や」
「また恋ネタ!?」
「いやいや、恋は大事な教材やで。落ち着きが早いのは共通項や」
「違うわ! 私の恋は落ち着かない!」
ルーティアが即座に割り込み、机を叩く。
「ずっと、ずーっと続くのよ!」
「お、おう……熱量高すぎやろ」
「高くて結構!」
教室は笑いに包まれ、生徒たちは黒板に必死でノートを取る。
控室では教師たちが苦笑しながら囁いていた。
「クロス先生、もう完全に公爵家の一員ですね」
「婿養子は時間の問題だろうな」
「というか、日取りを決める勢いらしいぞ」
「国王陛下もきっと面白がるだろう……」
その噂がさらに大きな波紋を呼ぶことになるのは、そう遠くない未来だった。




