表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!  作者: naomikoryo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

121/136

第120話『黒き羽、声の器』【魔王城での決戦編④】

 “それ”は、リリシアの耳元で囁いた。

 誰にも聞こえない、けれど確実に入り込む――悪意そのものの“声”。


「お前の中に、風の流れがある……。

 その力、貸してもらおうか。娘よ」


「……やめ……」


 拒絶しようとする意志。

 だが、身体の中へ“声”が入り込む感覚はそれを凌駕するほど強烈だった。


(ダメ……先生……見ないで……)


 最後にカイの顔が脳裏に浮かんだ瞬間――

 目の色が、変わった。


◆◇◆


 “リリシア”が顔を上げる。


 その瞳は、あの紫紺ではなかった。

 漆黒の瞳孔に、深緋の光が蠢いている。


「……借りるだけだ。

 少しの間だけな……“異邦人”」


 “声”が、リリシアの口を通して喋っていた。


 次の瞬間。

 その身体が脈動するように変貌しはじめる。


 肌は灰に近く、血管が薄い紫に染まり、背中からは――


 魔族の象徴、“黒い羽”が音を立てて開いた。


 その大きさは、リリシアの人間の姿には不釣り合いなほど巨大で。

 風の気流が城内に生まれ、魔法障壁を軋ませるほどの“魔圧”が溢れ出す。


「リリシア……!? やめなさい!」

 ルーティアが叫ぶが、応えはない。


 “声”が口元を笑みに歪めながら囁く。


「この器……いい感触だ。

 優秀すぎる父の血に、幼い未熟な自我。

 こんなにも使いやすいものか……」


 魔王の瞳が鋭く細まった。


「……貴様」


 その瞬間、“リリシア”が羽ばたいた。

 轟音が、城の壁ごと空気を吹き飛ばす。


◆◇◆


「くっ……ぐ、うっ!」


 カサが幻膜を展開し、ゴルムが盾を振るう。

 双子のキルとカルが斬撃の風を分割しようと試みるが――


「風の質が違う……斬れん……!」


 メリルが飛ばされながらも薬瓶で仲間を包む。

 それでも、全員が吹き飛ばされた。


 魔王が立ちはだかる。

 その結界は数千年の魔力の積み重ねだ。

 だが――


 “娘”の力は、それを削っていった。


「風が……暴走している……いや、“声”が……増幅させているのか」


 魔王の声に、微かな焦りが滲む。


「戻れ……リリシア。

 お前は、“声”に飲まれるな」


「フッ……フハハッ!

 それが“父”の言葉か。

 おかしいな……私は今、最高に自由だぞ?」


 “声”が愉悦に満ちた声で叫ぶ。


◆◇◆


 そして――再びの羽ばたき。


 結界の裏にいた護衛団の数名が、ついに意識を落とした。

 そのまま地に伏し、動かない。


 カイも、理手で壁に縋りながら耐えていた。

 身体はすでにあちこちを打ち、傷だらけだった。


(……これが、“リリシア”の本来の力なんか……)


 いや、違う。

 これは“声”が引き出した、リリシアの力の暴走体。


 そして、リリシア本人の意識は奥底に押し込められている――。


「お前らは、全員、砕けてしまえ……」


 リリシアの声を使って、“声”が告げた。

 黒い風が、波のように城を包み始める。


◆◇◆


 しかし、その中で――


 一人だけ吹き飛ばされていない者がいた。


 ルーティア。


 細剣を地に突き立て、踏ん張っていた。

 魔法障壁など一切なし。

 ただ、鍛え上げた“脚”と“意志”だけで耐えていた。


「なぜ……立っている?」


 “声”が戸惑いの声を上げる。


「そんなもの……決まってますでしょう!」


 ルーティアの叫びが、風の音を裂く。


「旦那様の生徒であり、友であり、もう一人の私だからですわ!」


 その瞬間。

 黒い羽が、ルーティアめがけて突進する。


 突風と共に、風が一点へと収束する。

 その中心で、黒きリリシアが――


 鋭く伸びた、魔族の爪を構える。


 軌道は、心臓を貫く一直線。


 防御の余裕などない。

 ルーティアも剣を振るえない。


(ああ、来る――!)


 だが、間に合わない。


 黒い爪が、彼女の胸元に迫る。


 その時――


「――ストップや!」


 声がした。


◆◇◆


 カイだった。

 ズタボロの体を引きずって――


 左腕を前に突き出していた。


 義手、“理手”の指先が開き、円環の術式を描く。


 空中で、“ある一点”に向かって術式が走る。


 爪と、彼女の胸の間。

 わずか指一本ぶんの距離に――


 重力が、発生した。


「っ……!? 止まった……!?」


 黒きリリシアの動きが、一瞬だけ硬直する。


 そのわずかな隙に、ルーティアが斜めに身を捩り、剣を抜く。


「――戻ってきなさい、リリシアッ!」


 閃光の一閃。


 斬られたのは、黒き羽の一枚。


 ――リリシアの声が、震えた。


「や……めて……ください……っ」


 それは、確かに、彼女自身の声だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ