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桜嵐  作者: 南蛇井
19/22

── 第八章・嵐、始動 ──**

 舞台の幕がゆっくりと開く。

 照明はまだ落とされ、体育館の空気には微かな緊張と、期待の熱が満ちている。


 暗がりの中、詩織がゆっくりと舞台中央に進み出る。

 両手には、淡い桜模様が描かれた一枚の和布――

 書道部の象徴とも言える布だ。


 その後ろを、美琴と楓が支えるように続く。


 太鼓を抱えた大地はステージ上手の隅に位置を取り、

 静かにバチを構える。


 詩織は一度、観客席に深く礼をする。

 体育館はしんと静まり返り、誰もがその小さな所作を見つめていた。


 咲良は袖からそっと見守る。

 右手を胸に添え、息を止めて仲間の一挙一動に集中する。


 詩織が布の端を両手で持つと、

 美琴と楓が同じタイミングで、反対側の端をそっと掴んだ。


 そして――


 「……いくよ。」

 詩織の小さな合図。


 三人が息を合わせて、一気に布を床に広げる。


 ヒラ――……


 薄い桜模様の布が、舞台の中央に優しく舞い降りる。

 わずかな風に乗って、花びらのように揺れる。


 同時に、大地の太鼓が一打だけ、深く響く。


 ドン――……


 その低い音が体育館の空気を震わせ、

 観客の息を一斉に呑ませた。


 布が完全に床に落ち着く頃、

 ステージ上のスポットがゆっくりとその布を照らす。


 淡い桜色の模様が、光を受けて床に咲き誇るように浮かび上がる。


 詩織はその布の上に、静かに正座する。


 背筋を伸ばし、手にはまだ筆は持たない。

 代わりに彼女の瞳に、これから走らせる線のすべてが映っていた。


 咲良が袖で小さく呟く。


 「――咲いた。

 ここから、嵐が吹く。」


 客席はまだ誰一人、息をついていない。

 ただ、この桜模様の布が示す“これから”を信じて

 舞台の中央を凝視していた。



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