サトーの話10
では種明かしをしよう。
ターゲットとなる民間工場は標準的な工業
ユニットで、第三エリアの近所にも同型が
あった。
そこを借りて、ジムのプロモーションビデオの
撮影の風体で侵入経路から戦闘まで練習したのだ。
実戦的練習をやりつつも当日に向け体重もしぼる。
実はジムに来て以来、体重が10キロ増えた。
しかし、体脂肪は半減した。
もちろん体重別の試合に出るわけではないが、
ベストな体重を決めて、そこにもっていく。
2週間前から徐々に練習量を落とし、炭水化物
中心の食事になっていった。
正直、頼もしい味方に囲まれてけっこう気分的に
楽だったが、やはり日が近づくにつれて
プレッシャーが高まってきた。
一週間切ったあたりで聞いてみた。
「いやー死ぬほど緊張してますね」
と言いながらドンはにこにこしている。
いつもより目がキラキラしてないか?
アミはー、趣味仲間と遊びに行ったとか。
聞く相手が間違っていた。よく考えたらこいつら
常人じゃない。おれひとり場違いだったのか。
「いやーリングに一人で立つとものすごい緊張で」
「どんなアーティストでもステージでは緊張する
ものよ」
おれはリングにもステージにも立ったことがない。
そして当日が来た。
起きて、気づいた。体が重い。




