8 お気に入りの場所でキスをする
「はぁ、今日はなんだか疲れたわ」
「いろんなところに連れ回してしまったからね。ごめんよ」
夕方過ぎになり、私たちはやっと家に帰ってきた。
ソファでくつろぐリオン、おままごとセット風のベッドでくつろぐ私。
そして、二人とも同じタイミングで「はぁ~」と一つ大きなため息をもらす。
そのあとリオンがつぶやいた。
「あれからオカリナの授業もすることになるなんて予想外だったね。しかもこれから週一回授業するようになるなんて……」
実はあのあと、リオンは何度もオカリナを吹くハメになり、さらには授業までさせられていた。つまり、私としてはキスの連発。キス祭りだったわけである。
だけど、リオンとのキスは正直言って嬉しかったとはいえ、さすがに何回も連続でやると疲れた。心身ともに疲労感が溜まった。また、それはリオンも同じようだった。
しかし子どもたちに好評だったために、今後も週一回の授業が組まれることになったのだ。それは感謝しないといけない。
それと今後も授業では疲れるかもしれないけど、やっぱりキスできるのは嬉しい。
「リオンは週一回の私とのキスは嫌?」
「え? いや、その、嫌ってわけじゃないよ」
リオンはあたふたしながら答える。私の質問がいじわるだったかしら。
「嫌ってわけじゃないなら、一体どんなわけよ」
「僕は心配なんだよ。カリーナの負担になってないかが」
リオンは私を気遣ってくれていた。
こういうやさしいところって、リオンの素敵な部分よね。私は気分が良くなり、
「別に私は負担になってないわよ。むしろ……いえ、気にしないで」
「そう、それならよかったよ。あ、僕も負担にはなってないからね」
リオンは負担になってないと答えた。
私は内心ほっとする。もし負担になってたら、週一回やってくるキスが辛いものになっていたかもしれないから。
「それにしてもリオンって何でも吹けるのね」
「なんでもってわけではないよ。僕も吹けないものはたくさんある。だから練習が必要なんだ」
「へえ、リオンでも吹けないものがあるのね。それにちゃんと練習してるんだ」
「そうだよ、練習しないとすぐに腕が落ちるんだ。だから、これからは練習のためにオカリナも吹かないといけない。だってオカリナの授業をしないといけなくなったからね」
なんですって?
練習のためにオカリナを吹かないといけない?
それって、週一回の授業以外にもキスできるってことよね?
このとき私は、リオンとキスする回数が多くなることを喜んでしまった。心の中で。自分で言うのもなんだけど、悪い女ね、本当に。
するとそのとき、「カリーナ、今日はまだ大丈夫かい? 元気ある?」と、リオンが尋ねてきた。
「ええ、まだ大丈夫ではあるけれど、一体どうしたの?」
「さっそくだけど、今から練習したいんだ。いいかな?」
「もちろんいいわよ!」
「ほ、本当に元気だね」
あっ、しまった。ついがっついて返答してしまった。そんな私の反応を受けたリオンは、ちょっと引いているように見えた。
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練習をするために私たちは再び外出した。そして村はずれにある広大な草原に来ていた。この草原から見えるのは、プレーリーの村と遠くにぽつんと見えるお城だけだ。あのお城は恐らくマルシェ城だろう。
私は空を見た。
空は夕暮れ時で、昼と夜が混ざったあいまいな橙色で染まっていた。不思議な気持ちにさせる色だと思った。
「この草原は僕のお気に入りの場所なんだ。静かで広くて、誰にも邪魔されない。最高の練習場所なんだよ」
「うん、いい場所ね。私のお気に入りになったわ」
「本当かい!? それはよかった!」
明らかにリオンはテンションが上がった。私のお気に入りになったと言っただけで。こういうときのリオンってすごく可愛く見えるわね。
「よーし! やる気が出てきた! 今日は日が暮れるまで練習するぞ!」
リオンはそう言うと、勢いのままオカリナを吹いた。
こうして通算何度目かわからないキスを交わした。