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エピローグ

 私はお父様とお母様の前に差し出された。

 それを見てお母様がつぶやく。


「あの、ミノン様、このオカリナは……?」

「わかりませんでしたか? この部屋からひとつだけ楽器がなくなっていたことに」


 そして二人とも、楽器が飾ってあった戸棚を見る。そのあとお父様は何かを理解した。


「ま、まさか……」

「はい、そのまさかです」


 リオンはそう言いながら仮面を外した。

 その瞬間、二人はさらに驚いた。

 お父様が口を開く。


「あ、あなたは昨年の優勝者、リオン様」

「はい、その通りです」

「しかし、なぜここにまた……」

「それは、カリーナ様を救いたかったからですよ」

「カリーナを……?」


 お父様は私の名前をつぶやくと、ふと一雫の涙を零した。


「そ、それでカリーナは……まさかだが、このオカリナに入っているのかね?」

「はい、その通りです。私が半年前、闇商店で見つけてこのオカリナを購入しました。高額に設定されていましたが、昨年優勝した賞金を使ってどうにか買うことができました」

「なんと、そうだったとは……」


 お父様は驚きながら涙を流している。お母様は泣き崩れている。


「お父様、お母様……」

「おお、カリーナ……!」


 私は声をかけた。お父様とお母様に。

 こうして私は、久々に家族との再開を果たした。オカリナの姿で。



--



 現在私は、お母様に抱きしめられている。

 やさしく、そっと包み込むように、あたたかく抱きしめられている。


 それは私がオカリナという割れ物になってしまったからだろうか。それとも、お母様の子どもだからだろうか。


 もう私は大人だというのに。まるで赤ん坊のように抱きしめられている。


 そしてお父様は、トロワを追うために部屋を出ていた。


 私が教えたのだ。トロワと女中の仕業でこの姿になったことを。


 お父様はその事実を知った途端、血相を変えていた。


 その一方で、私たち親子の様子を部屋の隅で見ている人物がいた。それはリオンだ。リオンは陰となっていた。それはまるでこの場から自然消滅するかのようだった。


「リオン、こちらへ来てちょうだい」


 私は声をかける。

 だがリオンは応じてくれない。無言で私たちを見ている。



 リオンは壁を作っているようだった。

 私たち貴族とただの貧乏な一般人との間に、一枚の厚くて見えない壁を。


 このとき私は、昨日リオンから告げられた別れの言葉を思い出した。


 そして私は、これがリオンとの最後の別れになるのだと直感した。


 でもそんなの嫌、別れたくない。離れたくない。


 また涙が溢れてきた。


「リオンッ! お願いだからこちらに来てちょうだい! お願いだからっ!」


 私は叫ぶ。必死に叫ぶ。リオンに届くように叫ぶ。喉が潰れてもいい。ただ、見えない壁を越えて、リオンに声を届けたいの。ただそれだけなの。


 なのになぜ?

 どうしてこちらに来てくれないの?


「私は! リオンとキスがしたいの!」


 私は精一杯の声を出して叫んだ。


 すると、リオンが動いた。キスをしたいという言葉が見えない壁を越えたのだ。


「僕も、最後にキスをしたいと思ってました」


 リオンはそう言うと、こちらに近づいてくる。



 そして--



 リオンはキスをした。


 オカリナの私ではなく、寝たきりの私と。



 その途端だった。


 私は突然意識を失った。それは一瞬だった。



--



「--ナ! カリーナ!」


 私を呼ぶ声が聞こえる。

 この声はお母様……?


 私は目を開けた。


 するとその見える世界がいつもとは違っていた。

 人間が巨人のように見える世界ではなかった。


 ちゃんと普通の人間として見えていた。


「あ、あれ? どうなってるの?」

「カリーナ……!」


 お母様が抱きしめてきた。


 しかし、さきほどお母様に抱きしめられていたときの感覚とはちょっと違った。

 立体的に人体を感じることができたのだ。



「お母様、私、どうなってしまったの?」

「元に、元に戻ったのよ! カリーナ! オカリナからあなた本来の身体に戻ったの! ああ!」


 お母様は興奮した口調で私に伝えてきた。



 まさか、まさか、まさか……!



 私は手を動かしてみることにした。


 すると、動いた。手が、指が動いている。部屋にあった鏡を見ると、私がいた。さっきまで寝ていた私がいたのだ。


 そう、私は元の身体を完全に取り戻したのだ。



 するとそのとき、部屋のドアが勢いよく開き、

「はぁ……はぁ……。つ、連れてきたぞ! トロワとその女中だ! カリーナ! これで呪いも解けるぞ!」


 お父様は例の呪いをかけた二人を連れて来た。

 なんという間の悪さだろうか。まあ、とにかくお礼を言わなきゃね。


「お父様、ありがとうございました」


 私は感謝の気持ちを述べた。


「え? カリーナ? どうしてそっちのカリーナが動いてしゃべっているんだ……?」


 お父様は混乱した。



 それから、リオンがキスをした途端に私は気を失い、目が覚めたらこっちの身体に移っていたことを説明した。


「なんとそんなことが……」

「はい、呪いは解けてしまいました。お父様、トロワたちを連れてきてくれてありがとうございました」


 私はお父様に向けて頭を下げた。


「まさかオカリナと本人の肉体の両方ともにキスすると解ける呪いが解かれてしまうとは……」


 トロワは茫然とした表情でつぶやいている。魔女は爪を噛んで悔しがっている。


 「トロワ、そして魔女よ。私はあなたたちを許しません。あなたたちには罰を受けてもらいます」

「ば、罰だって?」

「そうです。罰として私の足を舐め……いえ、私の脚となりなさい。私をプレーリー村のとある場所まで馬車で連れていきなさい。それが罰です」



--



 私がお城で目覚めたとき、すでにリオンはいなかった。リオンはキスをしたあと帰っていたのだ。


 私は馬車でリオンが行くであろう場所へと向かった。

 日がもうすぐで沈む。空はいつかのようにあいまいな色合いをみせていた。


 こうして馬車を走らせ、目的の場所へ着いた。


 その場所には一人の男性がいた。

 リオンだ。


「リオン!」


 私は声をかける。


 するとリオンは声に驚いたのか、身体をびくっとさせてこちらを振り向いた。そしてさらに驚いたようで目を見開き口にした。


「カリーナ!? その身体は一体どうしたんだい!?」

「リオンのおかげよ! リオンが私にキスしてくれたおかげで、私の呪いが解けたの!」

「そ、そうだったのかい! あの時カリーナが急にしゃべらなくなったんで、僕はてっきり嫌われたのかと……」

「嫌いになるわけないじゃない!」


 私はそう言いながらリオンに抱きついた。


「しかし、よく僕がここにいるとわかったね」

「リオンが真っ先に行くならこの草原だと思っていたから」

「カリーナ……」

「リオン……」


 お互いに名前を呼び合い、抱きしめ合い、見つめ合う。

 するとリオンが口を開いた。


「実は、僕はカリーナと昔会ったことがあるんだ。それは披露宴の場だったんだけど、そこでカリーナがオカリナを吹く姿を見たんだ。そのときから、僕はカリーナに惹かれていたんだよ。……カリーナ、君とこうしてまた巡り会うことができてよかった」

「リオンは一途だったのね。そんなリオンと私も巡り合えてよかったわ」

「カリーナ……」

「リオン……」


 再びお互いに名前を呼び合う。



 そして、私たちはキスをした。


 吹くことのできないキス。誰かに聴かせることもできないキス。爽やかな音色も鳴らない、ただただ単純なキス。


 だけど、これまでリオンと交わしてきたどのキスよりも幸せを感じられた。



 こうして私たちは再び出会った。

元悪役令嬢と貧乏紳士〜完〜

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