10 ライバル出現
「カリーナ、急に行きたいなんて言ってどうしたの? 気でも変わった?」
リオンは突然私が行きたいと言ったことに対して疑問に思っているようだ。
「そうよ! 気が変わったの! 今は行きたくて堪らないわ!」
「わかった。じゃあ今日も連れていくよ。でも今日は僕たち以外にも同行する人がいるからあまりしゃべれないと思うけど、それでもいい?」
「いいわ! とにかく一緒に行かせて!」
その言葉を聞いたリオンは、一つ頷いたあと私を手に取った。
そしてリオンは玄関を開ける。
するとそこには、二人の人物がいた。
一人は女。髪はブロンドで、肩までしか伸ばしていない。短めの髪だ。小柄な体格だが実に元気そうで活発なイメージだった。
また、Tシャツに短パンという女らしからぬスポーティーな服装をしている。そして肝心の顔は、悔しいけど可愛かった。私を美しいと表現するなら、この女は可愛いだ。
そして私は直感した。この女はリオンを狙っていると。
それともう一人。それは男だった。背はリオンよりも少しだけ小さく、活発女と同じでブロンドの短髪。黒縁メガネをかけており、顔は整ったいい男だった。
類は友を呼ぶというし、イケメンのリオンがイケメンの友を呼んだのかもしれない。そして服装は白シャツに黒パンツというシンプルなものだった。ただ、雰囲気からは真面目そうな印象も受けた。
「おっはよー!」
肩をぽんと叩きながら活発女はリオンに挨拶した。
その瞬間、私は激しく熱せられたティーポットのように怒りが沸騰。
な、なによこの女は! 馴れ馴れしい! めちゃくちゃにキスし合った私でさえ肩に触れたことなんてないのに! このカリーナ様が口撃して精神的に懲らしめてあげようか!
と、心の中で活発女に対する怒りをぶちまけた。
するとそのとき、「姉さん、ボディタッチが強いですよ。もっとやさしく触らないと。そう、こんな風にそっとね」と、背の高いメガネくんもリオンに触れた。
しかも触っているのは肩ではない。頬だ。リオンの頬にそっと触れたのだ。
それを見た瞬間、私はまたしても直感した。
このメガネくんは真面目じゃない、不真面目だと。そしてメガネくんもリオンを狙っているのかもしれないと。
「二人とも、今日もボディタッチ多めだね……」
リオンは少し呆れたようにつぶやいた。
そのつぶやきを聞いた私は、リオンと二人の関係が何なのか考えた。そして気づく。この情報だけでは何もわからないと。
ただ、リオンと二人の関係よりも気になってしょうがないことがあった。『今日もボディタッチ多め』とリオンが言ってたということは、私がいないときからこんなことを常にしていたっていうの? ということだ。
ああ、なんてことなのかしら。突然ライバルが二人も登場してしまうなんて。
私は強力なライバル出現に愕然としたのだった。
--
リオンは高台の展望台に登る前に、私をジャケットの胸ポケットに入れた。そしてリオンは展望台を登った。それにつれてリオンを狙っていると思われる男女二人も登った。
リオンが着ているジャケットの胸ポケット。中は真っ暗。何も見えない。リオンたちの声などの音しか聞こえない。
ただ、胸ポケットを通じてリオンの体温と鼓動が私に直接伝わってきている。ドクン、ドクン、とリオンが生きている音がしている。
もしかしたらこの胸ポケットはとんでもない良スポットなのかもしれない。
私は自分が現在置かれているドキドキな状況をライバル二人に自慢したい衝動に駆られた。
でもこれは私だけが体験できること。これを誰かに言ってしまったら価値が下がる気がする。だから誰にも言わない。私だけが独り占めするの。この体験は秘密にするの。
そう決めたところ、ふと清々しい音色が聞こえてきた。
リオンがトランペットを吹き始めたのだ。
ああ、やっぱりいい音色ね……。心がおだやかになるわ……。リオンの鼓動とともに音色も響いてくるし、なんて素晴らしいひとときなの……。
私は、リオンによってもたらされた安心感に浸っていた。
「いやー、やっぱりリオンのトランペットはサイコーだねー!」
「はい、リオンさんの奏でる音は最高です。ボクもこういった音を出せるようにならないと」
「二人とも褒め過ぎだよ。僕なんかまだまだ甘いひよっこだよ」
「じゃあリオンがひよっこなら、ワタシたちはたまごだねー」
「はい、ボクたちはたまごです。だからあたためてください、リオンさん」
三人の会話が聞こえてきたかと思うと、次の瞬間私の身体がぐっと押しつぶされた。リオンの胸に私の身体がゴリゴリと当たっている。そしてリオン側じゃない方はたぶんメガネくんだろう。
胸ポケットに入っているため外の様子を見ることができないけど、どうやらメガネくんがリオンにハグをしたようだ。というかメガネくん積極的過ぎるわね。
そして私はイケメン二人の胸の間でサンドイッチとなった。
く、苦しい……けど最高……。
私はこうして朝っぱらから快楽に溺れたのだった。