第一一章
第一一章
「ド、ドラゴンって……あれが?」
と、外道。
「うむ」
「初めて見た。まさか実在したのか」
「無論じゃ。この世界で伝説となっている生物の大半は、シルヴァリオンに実在する幻獣じゃからの」
「えっ、そうなのか?」
「うむ。遥か昔、シルヴァリオンからこちらに移住してきた者や、たまたまシルヴァリオンに連れて行かれた者が、こちらの世界に戻って幻獣の話を広めたのが、そもそものきっかけじゃ」
「おいおい、そんな簡単に別の世界を行き来できるものなのかよ」
「いや、今はワープクリスタルの数が減少傾向にあるから、異世界への移動は厳しく規制されておる。じゃが、昔はそんな規制などなかったからの。しかし、まさかドラゴンを送ってくるとは。新KKRは、よほどルーンにご執心らしい」
「ど、どうすんの? このままやと特区が滅茶苦茶になってまう」
そう言っている間にも、ドラゴンはギャースと雄たけびを上げながら、口から火を吹いて辺りを火の海に変えている。幸いあの付近一帯の住民の避難は、ライリンと戦う際に、天夏に頼んですでに完了している。故に、人的被害は出ていないだろうが、それでもこのままあのドラゴンを放置しておけば、周囲に甚大な被害を及ぼすであろうことは想像に難くなかった。
「ど、どうする? 逃げる? それしかないよね? よし、とりあえず逃げてまお!」
完全にパニック状態に陥った天夏が、一人でその場をクルクル回りながら叫んでいる。
「すまぬ、ソトミチ。わらわがもっと早く言っておれば……」
「いや、言ったところでどうしようもないさ。しかし、あれがドラゴンか……思ってたよりも弱そうだな」
「「「はい?」」」
その言葉に、そこにいたルーン、天夏、ライリンの声が見事にハモる。
「弱そうって……あれが? 火ぃ、噴いてんで?」
と、天夏。
「まあ、ドラゴンなんだからそれくらいはやってもらわないとな。ところでライリン、あのでっかいトカゲもどきは○・T・フィールドとか使うのか?」
「○―ティー……なんじゃと?」
「だから、○対○怖領域とか○対不○侵領域とか使うのか?」
「お、お主が何を言うておるのかさっぱりじゃが、そんなものは使わん」
「ふーん、ちなみに飛んだりは……」
「できん。飛ぶ種族もおるが、あれはチラノドラゴンと言って、地を走る種族じゃ。飛行能力はない」
「なーんだ。じゃあ、やっぱり楽勝だな」
ライリンが頭痛を堪えるような仕草で、頭を押さえる。
「あ、あのなソトミチ。確かにチラノドラゴンは飛ばんし、○―ティー何たらも使わんが、あらゆる魔法が効かん上に、鋼鉄並みの表皮を持つのじゃぞ?」
「まあ、定番だよな。ていうか、俺、魔法なんて使えないから関係ねーし」
「ソトミチ、頭、大丈夫? ボケるにはまだ早い」
と、ルーン。
「どういう意味だ!」
最後に言ったルーンの一言に思わずツッコんで、外道は玄関へと向かった。
「ちょ、どこ行くん?」
「どこって、ドラゴン退治に決まってるだろ」
「ド、ドラゴン退治って。兄ちゃん、自分が何言うてるか分かっとんの!」
天夏が唾を飛ばしながら叫ぶ。
「もちろん分かってるさ」
「どうにかなるのか?」
ライリンが不安そうな面持ちで外道に尋ねる。
「まあ、見てろって。ああ。そうだ天夏、飯作っといてくれ。カレーな。カレー」
「カ、カレーって。そんな悠長な……」
「ソトミチ、先ほども言ったが、あのドラゴンの表皮は鋼鉄並みなのじゃ。生半可な攻撃は通じんぞ」
「心配すんな。ルーン、そんなしょぼくれた顔してないで、ちゃんといい子にしてるんだぞ」
そう言って、外道はルーンの頭を軽く撫でて部屋を出て行った。
▲▲▲
外道がドラゴンを倒しに向かった後、部屋にはルーン、天夏、ライリンの三人が残された。
ルーンとライリンは互いに気まずそうに顔を背けている。
この重い空気を何とか打破したい天夏であったが、相手が女の子(天夏の心情的に美少女とは言いたくない)では、さすがに外道にするように、カンフーキックで空気一新というわけにはいかなかった。
故にしばらくの間、三人の間に微妙な空気が流れていたが……
「ルーンよ」
最初に声を発したのはライリンだった。申し訳なさそうな顔でルーンを見つめている。
「こんな時じゃが、今までのこと、本当にすまぬと思っておる。この通りじゃ」
深々と頭を下げるライリン。
その姿を見たルーンが、唖然とした表情になった。
「ラ、ライリン、どうしたの? さっきも謝ってたけど、ひょっとして何か変な物でも食べた?謝るなんてライリンっぽくない。私の知ってるライリンは、我が儘でケチんぼでいじめっ子
な酷い女の子。早く元のライリンにもど……らなくていいかも」
「……やっぱり殺しておいた方がいいかもしれんと思い始めたが、まあよい。今後、わらわは一切、お主には手を出さん。恋人であるソトミチとの約束じゃからな」
ウットリとした表情で頬を染めるライリン。
しかし、その言葉にルーンがピクリと反応した。
「ライリン、ソトミチの恋人になったの?」
「うむ、そうじゃ。さっきソトミチも、わらわを自分の恋人じゃと言っておったろ」
「恋人なんて言ってない。女って言ってた」
「ホホッ、女というのは恋人という意味なのじゃ」
「そんなの嘘」
「嘘ではない。ソトミチに熱烈に迫られてな。わらわは、今まで傅かせた男の数こそが女の価値を決めると思っておった。しかし、それは間違いじゃった。あの時、そう、ソトミチに自分の女になれと言われた時に、わらわは気づいたのじゃ。女の価値は傅かせた男の数などでは決まらんことを。故にルーン、わらわはもう、誰がお主に心を奪われようがどうでもよい。ソトミチさえいてくれれば」
「ダメ!」
夢の世界へと旅立っていたライリンに、珍しく強い口調でルーンが叫ぶ。
「ソトミチは私のご主人様。だから、ライリンの恋人になるのはダメ!」
「何を言っておるのじゃ。ペットはペット。恋人とは違うではないか。ソトミチと出会って、わらわは寛大になった。愛とはこうも簡単に人を変えるものなのじゃな。お主がソトミチの傍におっても、わらわは何とも思わぬ。お主はソトミチのペットなのじゃからな。恋人とは違うのじゃ。ホッホッホッ」
「むうーー!」
勝ち誇った笑みを浮かべるライリンに、ムスッとした顔で唸るルーン。
しかし、さすがにこれ以上は、この娘が黙っていなかった。
「お~の~れ~ら~」
魔王のような声を上げて、ルーンとライリンを睨みつける一人のアマゾネス。そう、天夏である。
複雑な事情のありそうな二人に気を使って、しばらくは黙っていたが、外道の話が出始めた辺りから徐々に怒りのボルテージが上がっていき、ライリンが勝ち誇った高笑いを上げた辺りから、すでに臨界点を突破していた。
それでもしばらくの間、我慢していられたのは奇跡としか言いようがない。
「黙って聞いてれば好き放題言いよってからに。兄ちゃんは、ウチが最初に目え付けたんや。それをいきなり出てきて恋人だのペットだの、調子に乗るんやないで!」
マシンガンのような早口でまくしたてる天夏。
しかし、ライリンは全く動じず……
「何じゃ、この……」
天夏の胸に注目。そして、そこに広がる平原を見て……
「チビ男は?」
と、言い放った。
ブチッ。
どこかで何かが切れる音がする。
天夏百号機改が、○ーストモードでライリンに襲い掛かろうとしたその時……
「ライリン、違う。アマカは男じゃない」
二人の間にルーンが割って入った。
その言葉が、一瞬だけ天夏百号機改を正気に戻す。
そして天夏百号機改は、低く唸りながら、心の中でルーンに「いいぞ、ルーン。もっと言ってやれ!」と叫んだ。
「アマカは男じゃなくて男の娘。間違えちゃダメ」
「男の娘? 何じゃそれは? 結局、どっちなんじゃ?」
「んと……両方?」
「おんどりゃあああああーーー!」
結局、○ーストモードに移行した天夏百号機改が、ルーンとライリンに襲い掛かる。
女同士のプライドを懸けた熱い戦いが、今まさに始まろうとしていた。
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