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死神のワルツ  作者: 無限
9/11

『約束と携帯電話』

勧誘をした少年の家を訪ねた翌日、呉羽一葉はとある目的地へ悩みながら歩いていた。


悩みの原因は分かっている。それはあの少年のことだ。


あの後、死虫眼鏡を貸した少年は暫く動かなかった。声を掛けるのも躊躇われたが、私にも予定があったため、反応はなかったがその場を後にした。


契約の都合上、連絡は交換してあったのだが、少年の名前を訊き忘れてしまった。携帯に登録されているのだから、それを読めばいいだけなのだが……。


「…………」


ピシィッ、と傷だらけの携帯が音をたてた。


すでに古いと言われた開閉式の携帯を操作し、登録された少年の名前を表示させることができない。携帯電話の寿命が近いというだけが理由ではなかった。


だが、諦めることはしない。目的の地まではまだ時間があるのだから。


………………。


…………。


……。


「着いてしまったな」


一向にアドレス画面すら表示させられないまま、その場所へと辿り着いていた。


目の前には下校途中の小学生がカラフルなランドセルを背負い、ちらほらと校門を潜っては帰宅し始めていた。


着いてしまったのなら仕方がない。少年の名前は次会った時にでも訊く事にしよう。


が、そこでさらなる問題があることを私は思い出した。


『俺に関わる人間には近づくな』


少年と交わした契約の中に、少年の知り合いとは関わってはいけないというものがあった。ところがその知り合いの判別ができない。


そうなることは来る前から分かってはいた。だから、携帯で死虫が憑いている者だけを写真に収め少年に送るつもりでいた。


そこまで言えば分かるだろう。アドレスさえも表示できない物にカメラ機能を起動させることなど到底できる物ではなかった。


「困ったものだな……」


チャレンジは何度でもできる。


携帯が壊れるまでなら……。


その間にも小学生が何人も横を通り過ぎている。なぜか距離を取っているようにも思われるが、その理由は不明。とにかく、早い段階で起動させなければ目的の人間が出てきてしまう。


再び私は携帯の画面に目を向けた。


着信以外の音は出ないよう設定されているので、カチカチと操作音は物理的にボタンを押す音しか出ていない。それがかえって操作できない人を現していた。


幾度となく押す事を繰り返し、しだいにその音さえもなくなっていく。もうすべてのボタンを押した。それなのにそれらしき画面が現れない。


最後に携帯電話をひっくり返した。


「はぁ……、何を起動させたいの?」


ふいにまだ声変わりもしていない子供の声が私に向かって掛けられた。


「…………」


私は辺りを一度確認する。


そして、目の前の少年に目を向けた。


「私で、あっているか……?」


小学生の少年の身長は私の肩くらいでおそらくは高学年であろうことは分かる。だが、周りの子と同じように無視していかなかったかが不思議だ。


「他にいないでしょ。あんたの周りに」


少し見上げるような形が小学生の少年の生意気さを表していた。


「何か用か?」


小学生の少年の眉間に皺がよる。


「はぁ? あのね、小学校の前でずっと携帯の操作で悪戦苦闘している人って怪しいとしか言えないんだよ。だから、さっさと携帯さえ使えてしまえば、この場を離れるだろ。だから、待ち合わせの時間を使ってその操作をオレが教えに来た。説明はこれでいいっ?」


捲し立てるように語尾を強め小学生の少年は面倒な説明をしてくれる。


どうやら、私はこの小学生の少年に監視されていたようだ。そして、見かねて声を掛けてきたということだろう。


少年との契約の都合上、あまり小学校近辺の人間とは関わらない方がいい。特に学生となれば尚更だ。


だが、声を掛けられてしまったのなら、後の祭り。ならば、と私も潔く少年の助力をもらうことにする。


「写真を撮りたいのだが、やり方が分からない」


言うとまた小学生の少年は呆れた表情を作る。


「人の話聞いてた? 怪しいっていって良く写真を撮りたいって堂々と言えたね」


てっきり、そんなことも知らないのか、という侮辱的な意味合いなのだと思ったのだが、どうやら違ったようだ。


「私にも都合があってな」


小学生の少年はぶつぶつと呟く。


「その都合が問題ある場合があるって話をしてるんだけどな」


文句を言い終わるや否や、私から携帯を取り上げた。


「もうどっちでもいいから、その都合を終わらして帰りなよ」


少年の指が素早い動きでボタンを叩いていく。


なるほど。最近の子供は携帯電話をこうも簡単に操作できてしまうのかと、感心していると、突然少年は私と同じように携帯電話を裏返しにした。


思わず、私の最後の行動は正しいと思ったのだが、


「ウソでしょ……」


なにか信じられない物でも見たように驚いている。


そして私の顔をチラリと覗く。


そして、ポケットから何かを取り出した。


「これ、なにか分かる?」


長方形の箱が目の前に掲げられる。


これはさすがに馬鹿にしすぎだ。現代っ子なら大抵の人が持っているのを知っている。加えて、私の周りの人間の大半は所持しているのを見たことさえある。確かに機械操作は苦手ではあるが、物を知らないわけではない。


ふと、私の中でイタズラ心が芽生えた。


「携帯式カイロ」


さんざん見下された仕返しのつもりだ。おそらくは小学生の少年は驚いた表情をするだろう。


その後に種を教えるだけ――はずだった。――のだが、小学生の少年は驚きを見せるわけでも、慌ててその正体を明かすわけでもなかった。


例えるならば、死んだような瞳。


「…………冗談だ」


さすがに私の方が根負けして正直に答える。


「……無表情で冗談言われても」


そう冷たく返された。


私は取り急ぎその本当の正体を口にする。


「タブレットと言うやつだろう。私は持っていないが――」


「いや、微妙に間違ってるし、スマートフォンだから」


小学生の少年はため息を吐くと、スマートフォンと私の携帯電話を両手で操作する。どうやら、もう私に何も言わせなく内容で、作業が迅速に行われる。


「調べてみたけど、この携帯カメラ機能は付いていないタイプ。残念でした。はい、じゃあ、もう帰りなよ」


それだけ言い残し携帯電話を私に返すと、立ち去ろうと背中を見せた。


「まて、それでは困る」


小学生の少年は私の次の言葉を分かっていたように振り返る。そして、小学生の少年のスマートフォンを渡してきた。


「貸してあげるから、撮るもの撮って」


「いや、それでは意味が――」


「撮ったものをオレがそっちの携帯にメールに添付して送る。そっちのアドレスはさっき登録したから、問題ない。画像は見れるようだから、それも問題ない。画像の見方はアドレス登録してくれた人に訊くか、お店に行く。ここまでで問題は?」


何を言っているのかよく分からないが、小学生の少年の言葉から推測するならば、


「この携帯電話でその写真が確認できるということだな」


「なるほど、それしか理解してもらえなかったということを理解したよ。とりあえずこっちの説明は簡潔にしておくから。このスマートフォンをこう向けて、この丸いボタンを押せば撮れる」


「ボタンがどこにある?」


どう見てもボタンのような突起物は存在していない。


「……ここを触ればいいよ」


試に触れてみると、トゥンッ! と音が鳴った。そして、試し撮りした写真を小学生の少年が確認させてくれる。


「なるほどな」


「あ、来ちゃったな。戻ってくるまでに終わらせといて」


待ち合わせの相手が来たようでそのまま少年は校舎の方へ戻っていく。ひとまずは間に合ったと思おう。小学生の少年に待ち人が来たように、私が見つけるべき相手もまた、見つけている。


私は親切な少年の背中を追い、携帯電話のカメラを向けた。


トゥンッ!


撮った写真は何処かへ移動したのか、もう表示画面からはなくなっている。そのまま小学生の少年を待っていると、待ち合わせの相手、髪を両サイド二つに縛っている少女と共にやってきた。


あまりいい状況とは言えないが、この場は諦めよう。


「終わった?」


「ああ」


その子は私と小学生の少年を交互に見ると、


「ふーん」


それだけを言い、私から小学生の少年のスマートフォンを奪い取るように取り上げる。そのまま、何かを操作した。


「……この写真私ももらっていい?」


どうやら、すでに小学生の少年から事情は説明されているようで、手早く処理しようとしている。その途中、その写真が気に入ったようだ。


「ああ」


「でも、どうしてこんな写真撮ったか訊きたいんだけど」


正直には答えられない。加えて、説明してもあの少年と同じ事態になる。すでに勧誘は終えている身としては、これ以上リスクを明かす気はない。


「言えないんだ」


当然、少女からの追及はきた。


そこに、


「どんな写真撮ったのさ」


小学生の少年は小学生の少女の手にある写真を覗き込もうとした。


すると、小学生の少女は、


「――ッ!?」


「ごほっ!」


過敏に反応するや小学生の少年の腹部に拳をめり込ませた。


「それであなたはこれをどうしたいの!? 早く答えて!!」


小学生の少年が苦しんでいるのを助けることを許さない追撃に、


「ある人物に送りたい」


すぐさま今度は私の携帯電話を要求してくる。


「どの人っ!?」


小学生の少女は私が表示させることができなかった画面をすでに表示させている。いくつかの名前の後に、あの少年のアドレスが表示されていた。


「なにこれっ、名前くらい登録するでしょ、普通っ!」


それは文句を言われても仕方がない。アドレスを登録したのはあの少年だ。加えて、これであの少年の名前は本人に会わない限り、分からないことも判明する。


「とりあえず、送っておいた。それに、あなたの携帯から削除もしておいたから、文句はないでしょ。まぁ、メール送ってる時点であまり意味はないけど、何かあれば警察に言うから、覚悟しておいて」


小学生の少女の警戒も分かるが、当初の目的以外で使用するつもりもない。目的が果たされたのなら、それで十分。


「問題ない」


「そ」


最後まで警戒はされたままだが、小学生の少女は携帯電話を私に返し、踵を返すと小学生の少年の所まで戻る。


「い、いきなり殴る方が警察沙汰だ」


「いいから、もう帰る!」


小学生の少年はまだ文句を言っているようだったが、それは日常のようだった。小学生の少年は諦め、最後に私の方を見た。


「気を付けて帰りなよ」


生意気と言うべきなのだろう。


「君たちもな」


小学生の少女がそのやり取りが気に入らなかったようで、早く追いかけてくるように小学生の少年の名前を呼んだ。


「行くよ、聖也!」


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