第4話 彼女が遠慮しなくなったので、今度は俺が照れさせています
俺と三枝美月が付き合い始めてから、職場での昼休みが以前より賑やかになった。
理由は簡単だ。
恋人になった美月が、俺に対してますます遠慮しなくなったからである。
特に最近は、彼女から告白されていたのに、俺が自分の気持ちに気づいて告白するまで二か月もかかったことを、何かにつけて持ち出してくる。
しかも、その話をするときの美月は、決まって楽しそうなのだ。
「高瀬さん、おはようございます!」
月曜日の朝、出社した俺が自分の席へ向かうと、美月が笑顔で声を掛けてきた。
「おはよう、美月」
「……っ! た、高瀬さん!」
「ん? どうした?」
「こ、ここ、会社ですよ!?」
「……ああ、そうだったな」
美月が慌てて周囲を見回すのを見て、俺も自分の失言に気づいた。
付き合い始めてから、二人きりのときは美月と呼ぶようになった。
ただ、職場ではまだ三枝と呼んでほしいと言われている。
俺も気をつけていたつもりだったが、昨日のデートで何度も名前を呼んでいたせいか、つい普段の呼び方が出てしまった。
「悪い、三枝」
「……い、いえ! 謝らなくてもいいんですけど……!」
美月は周囲を確認してから、俺の方へ少しだけ身を寄せた。
「……二人きりなら、何回呼んでもらっても嬉しいんですけどね?」
「……何回でも?」
「は、はい! でも、皆さんの前では、まだちょっと恥ずかしくて……!」
最後の方は声が小さくなり、美月は照れ隠しのように俺から視線を逸らした。
俺が笑うと、美月は頬を膨らませた。
「……高瀬さん、最近ちょっと意地悪です」
「そうか?」
「そうです! 付き合う前は、私がどれだけ頑張っても全然動じなかったのに……!」
「……あの頃は、どう返せばいいか分からなかったからな」
「……それは知ってますけど!」
美月は俺の腕を軽く叩いたあと、少しだけ笑った。
「……でも、今の高瀬さんも好きです」
「……ありがとう」
「……っ! も、もう! そういうところです!」
美月は自分から好きだと言ったくせに、俺が素直に礼を言うと、また顔を赤くした。
そこへ、少し離れた席から佐伯の声が飛んできた。
「おーい、高瀬。朝から彼女を照れさせてんじゃねえよ」
「……佐伯」
「三枝、顔真っ赤だぞ」
「さ、佐伯さん! 見ないでください!」
「ははっ! 悪い悪い。まあ、仲がいいのは結構だけど、もうすぐ始業だぞ」
佐伯は壁の時計を指さし、面白そうに笑っていた。
美月は慌てて自分の席へ戻ろうとしたが、途中で振り返った。
「……高瀬さん!」
「ん?」
「今日のお昼、一緒に食べましょうね!」
「ああ、分かった」
「……約束ですよ!」
美月は嬉しそうに笑い、自分の席へ戻っていった。
その背中を見送っていると、佐伯が俺の肩を叩いた。
「……お前、変わったな」
「……そうか?」
「ああ。あれだけ三枝に好かれてたのに、自分の気持ちに気づくまで二か月もかかった男とは思えねえよ」
「……お前まで言うのか」
「ははっ! しばらくは言われるだろうな」
佐伯は肩を揺らして笑いながら、自分の席へ戻っていった。
……どうやら、俺の過去の鈍感さは、簡単には忘れてもらえそうにない。
◇ ◇ ◇
昼休み。
俺と美月は、いつもの休憩スペースで向かい合って昼食を取っていた。
「……そういえば、高瀬さん」
「ん?」
「ちょっと相談してもいいですか?」
「もちろん」
美月は箸を置き、少し困ったように笑った。
「実は、凛ちゃんのことなんですけど……」
「川上さん?」
「はい。うちの部署の後輩です」
川上凛は、入社一年目の女性社員だ。
俺も仕事で何度か話したことがあるが、真面目で礼儀正しく、周囲からの評判もいい。
「川上さんがどうかしたのか?」
「……好きな人がいるんです」
「へえ。そうなのか」
「はい。それで、その相手が……北条先輩なんです」
「……北条?」
美月が頷くのを見て、俺は北条の顔を思い浮かべた。
北条葵。
入社三年目の後輩で、仕事もできるし、周囲の面倒見もいい。
人当たりもよく、川上さんが好意を持つのも不思議ではなかった。
「いいじゃないか。北条なら、ちゃんと向き合ってくれると思うぞ」
「……それが、そう簡単じゃないんです」
「どうして?」
「凛ちゃん、北条先輩の前だと、全然素直になれなくて……」
美月は小さくため息をついた。
「好きすぎて緊張しちゃうみたいなんですけど、なぜか毎回、ものすごく冷たい返事になっちゃうんですよ」
「……冷たい返事?」
「はい。北条先輩が優しく声を掛けても、『結構です』とか『特にありません』とか……」
「……それは、ちょっと誤解されそうだな」
「ですよね……!」
美月は大きく頷いた。
「凛ちゃん、北条先輩のことが本当に好きなんです。でも、どうしても素直になれないみたいで……」
「……なるほどな」
北条の立場からすれば、嫌われていると勘違いしてもおかしくない。
俺は箸を置き、少し考えてから美月に尋ねた。
「……三枝」
「はい?」
「それ、北条に教えてやった方がいいんじゃないか?」
「……私も、そう思う時はあるんですけど」
美月は少し迷ってから、首を横に振った。
「でも、凛ちゃんが自分で伝えたいって言ってるんです。私が勝手に話すのは違うかなって……」
「……そうだな」
本人がまだ伝えていない気持ちを、俺たちが勝手に明かすわけにはいかない。
それに、北条の方がどう思っているのかも分からなかった。
「……北条の方は、川上さんのことをどう思ってるんだろうな」
「それが分かれば、もう少し助けてあげられるんですけど……」
「まあ、無理に聞き出すわけにもいかないか」
俺がそう答えると、美月は少し考えたあと、突然にっこり笑った。
「……でも、高瀬さん」
「ん?」
「北条先輩も、もう少し凛ちゃんの気持ちに気づいてくれたらいいのにって思いません?」
「いや、あれだけ冷たくされたら、普通は気づかないだろ」
「……へえ?」
美月が箸を止めた。
その口元が、ゆっくりと上がっていく。
……嫌な予感がする。
「高瀬さんは、そう思うんですね?」
「……何だよ、その言い方」
「いえいえ。好きな人からの好意に気づかない男性って、結構いるんだなぁと思いまして」
「……三枝?」
「例えばですよ? 後輩の女の子が勇気を出して告白して、そのあと二か月も一生懸命アプローチしてるのに、なかなか気持ちに気づいてくれない先輩とか」
「……それ、俺のことだよな?」
「ええっ!? どうして分かったんですか!?」
「分かるわ!」
美月は楽しそうに笑った。
どうやら、俺の反応が期待どおりだったらしい。
「でも、北条先輩はまだ仕方ないですよね。凛ちゃん、好きって言ってないんですから」
「……まあ、そうだな」
「それに比べて、ちゃんと告白されてたのに二か月もかかった人は……」
「……三枝、そろそろ許してくれ」
「ふふっ。どうしましょう?」
美月はわざと考えるように首を傾げた。
「……じゃあ、今日の帰り、私とデートしてください」
「それは別にいいけど」
「あと、手もつないでください」
「ああ」
「それから、帰り道では何回か美月って呼んでください」
「……何回か?」
「はい。二か月分です!」
「そんなに呼べるか!」
「えーっ! じゃあ、まだまだ足りませんねぇ?」
美月は指を折りながら要求を数えていたが、最後には自分でも可笑しくなったらしく、肩を揺らして笑い始めた。
俺もつられて苦笑した。
「……でも、高瀬さん」
「ん?」
「私、凛ちゃんの気持ち、ちょっと分かるんですよね」
「……そうなのか?」
「はい。好きな人の前だと、普段どおりに話せなくなるところとか……」
美月は俺を見て、少しだけ頬を赤くした。
「……私も、前は高瀬さんに気持ちを伝えるだけで、すごく勇気が必要でしたから」
「……ごめん」
「えっ!? あっ、違います! 責めてるわけじゃないんですよ!?」
美月は慌てて首を横に振った。
「高瀬さんがちゃんと考えてくれてたの、分かってますから! それに……最後は高瀬さんの方から告白してくれたじゃないですか」
「……そうだな」
「だから、謝らないでください。私、今すっごく幸せなんですから!」
美月はそう言って、嬉しそうに笑った。
俺が自分の気持ちに気づくまで、彼女は何度も好きだと伝えてくれた。
その勇気を思い返すと、今こうして一緒にいられることが、以前にも増して嬉しく感じられる。
「……ありがとう、美月」
「……っ! た、高瀬さん!」
「……あっ、悪い」
「……い、いえ! 今のは嬉しかったので、許します!」
美月は頬を赤くしたまま笑った。
少し離れた席にほかの社員がいることを思い出したのか、慌てて周囲を確認している。
「……でも、二か月待たされたことは、これからも時々思い出してもらいますからね?」
「……まだ言うのか」
「もちろんです! せっかくですから、いっぱい甘えさせてもらわないと!」
「……分かったよ」
「ふふっ。約束ですよ?」
俺が頷くと、美月は満足そうに弁当箱を閉じた。
「……凛ちゃんにも、幸せになってほしいんです」
「……ああ。そうだな」
俺も、あの二人の関係がうまくいくことを願っていた。
◇ ◇ ◇
それから数日後。
仕事の打ち合わせを終えた俺は、会議室の前で北条に呼び止められた。
「高瀬さん、ちょっといいですか?」
「ん? どうした?」
「……いや、仕事のことじゃないんですけど」
「珍しいな。何かあったのか?」
北条は少し迷ってから、苦笑した。
「……高瀬さんって、三枝さんと付き合ってるんですよね?」
「……ああ」
「いや……ちょっと羨ましいなと思って」
「……羨ましい?」
「はい。好きな人と付き合えるって、いいなって」
北条は廊下の向こうへ目を向け、少し照れくさそうに笑った。
俺は北条の顔を見た。
「……北条、お前、好きな人がいるのか?」
「……まあ、いますけど」
「へえ。誰だ?」
「……それ、言わないと駄目ですか?」
「いや、無理に聞くつもりはないけど」
北条は少し考えたあと、小さく笑った。
「……川上です」
「…………!」
思わず声を上げそうになり、俺は慌てて口を閉じた。
……両想いじゃないか!
美月から川上さんの気持ちを聞いていた俺にとっては、これ以上ない朗報だった。
「……高瀬さん?」
「い、いや! 何でもない!」
「……そうですか?」
北条は不思議そうに首を傾げた。
俺は表情を整え、できるだけ普段どおりの口調で尋ねた。
「……それで、川上さんとはどうなんだ?」
「……全然駄目です」
「……駄目?」
「俺にだけ、ものすごく冷たいんですよ」
北条は、川上さんがほかの社員とは普通に話すのに、自分にだけ素っ気ないことを説明してくれた。
「……まあ、嫌われてるんでしょうね」
「いや、そうとは限らないんじゃないか?」
「そうですか?」
「ほら、緊張してうまく話せない人だっているだろ?」
「……川上が、俺に緊張する理由なんてありますかね?」
北条は本気で分からないという顔をしていた。
……あるんだよ。
しかも、ものすごく分かりやすい理由が。
だが、川上さんの気持ちを俺が勝手に明かすわけにはいかない。
「……と、とにかく、あまり決めつけない方がいいと思うぞ」
「……そうですかね」
「ああ。まだ分からないだろ」
北条は少し考えてから頷いた。
「……ありがとうございます。もう少し頑張ってみます」
「お、おう! そうしろ!」
俺の声が大きくなったせいか、北条が目を瞬かせた。
「……高瀬さん、何か今日、変ですね」
「……気のせいだ」
俺は咳払いをして、何事もなかったように姿勢を正した。
好きな相手に嫌われていると思い込んでいる後輩を前にして、真相を教えられない。
想像以上に難しい立場だった。
「……なあ、北条」
「はい?」
「川上さんのことが好きなら、一度、二人で食事に誘ってみたらどうだ?」
「……食事、ですか?」
「ああ。仕事中だと、どうしても業務の話ばかりになるだろ? 二人で話す機会があれば、少しは違うかもしれないぞ」
「……でも、断られたらどうします?」
「それは、その時考えればいい。誘ってみないと分からないだろ?」
北条は腕を組み、しばらく考え込んでいた。
やがて、小さく頷いた。
「……分かりました。機会があったら、誘ってみます」
「おう。頑張れよ」
俺は期待していた。
北条が勇気を出して誘えば、川上さんも喜んで応じるだろう。
少なくとも、そのときは本気でそう思っていた。
◇ ◇ ◇
その週の金曜日。
美月は仕事を終えると、家族の用事で実家へ向かった。
週末は親戚も集まる予定らしく、月曜日の朝まで戻らないという。
俺も土曜日と日曜日には以前から予定が入っていたため、今週末はデートを見送ることになっていた。
金曜日の夜には美月から短いメッセージが届いたが、その後は互いに忙しく、電話でゆっくり話す時間も取れなかった。
月曜日も美月は朝から打ち合わせが続き、昼休みには別の社員と仕事の確認を兼ねて食事を取ることになっていた。
付き合い始めてから、これだけまともに話せなかったのは初めてだった。
そんな月曜日の午後、北条が俺のところへやってきた。
「……高瀬さん」
「ん? どうした?」
「……川上を、食事に誘ってみました」
「おっ! どうだった?」
俺は思わず身を乗り出した。
北条はすぐには答えず、気まずそうに視線を落とした。
「……断られました」
「…………え?」
「……しかも、即答で」
「……即答?」
「はい。『む、無理です!』って」
……待て。
好きな相手から食事に誘われて、無理です?
俺はしばらく北条の顔を見つめてしまった。
「……本当に?」
「本当です。周りの人が振り向くくらい、大きな声でした」
「……そ、そうか」
北条は力なく笑った。
「……やっぱり、嫌われてるんでしょうね」
「い、いや! そうとは限らないだろ!」
「……でも、普通、好きな相手に誘われたら断りませんよね?」
北条は困ったように眉を下げていた。
……それは、そうだ。
だが、川上さんは北条が好きなのだ。
何か理由があるはずだった。
「……ほら、急に誘われて驚いたとか!」
「……そうですかね」
「ああ! そういうこともあるだろ!」
「……でも、無理ですって即答でしたよ?」
「……うっ」
俺は返す言葉に詰まった。
北条はしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。
「……高瀬さん。相談に乗ってもらったのに、すみません」
「いや、謝ることじゃないだろ」
「……でも、やっぱり少し、落ち込みますね」
その顔を見ると、食事に誘うよう勧めた俺まで申し訳なくなってくる。
俺は北条の肩を軽く叩いた。
「……北条」
「はい?」
「一度断られたからって、全部終わりだと思う必要はないんじゃないか?」
「……そうでしょうか」
「ああ。少なくとも、仕事では普通に接してやれよ」
「……それは、もちろんです」
北条は小さく頷いた。
「……ありがとうございます。もう少し様子を見てみます」
「……おう」
北条が去ったあと、俺は机に肘をついて考え込んだ。
両想いなのに、食事の誘いが失敗する。
そんなことが本当にあるのかと驚いたが、北条の落ち込み方を見れば、笑い話では済まされなかった。
……美月に相談した方がよさそうだな。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
仕事を終えて帰宅した俺は、久しぶりに美月とゆっくり電話をしていた。
「……美月、週末はお疲れさま」
「ありがとうございます! 高瀬さんも、予定があって忙しかったんですよね?」
「ああ。でも、やっぱり美月と話せないと寂しいな」
「……っ! た、高瀬さん!? いきなりそんなこと言わないでください!」
「……本当のことだけど」
「……もう! 私だって、ずっと高瀬さんと話したかったんですから!」
電話の向こうで、美月が嬉しそうに笑った。
俺はソファに座り直し、スマートフォンを耳に当て直した。
「……そういえば、高瀬さん。金曜日の夜に凛ちゃんから電話があったんですけど……」
「……川上さんから?」
「はい。実はそのとき……」
美月が説明を始めたところで、俺は今日の北条の様子を思い出した。
「……美月。もしかして、食事の誘いを断った話か?」
「……ああ、そういうことだったんですね!」
「……何が?」
「金曜日の夜、凛ちゃんから電話があったんです。北条先輩に食事に誘われたのに、断っちゃったって……」
「……もう聞いてたのか?」
「はい! でも、北条先輩がどう思ってるかまでは分からなかったので……」
俺は北条から聞いた話を、美月に伝えた。
「……北条、かなり落ち込んでたぞ」
「……ですよねぇ……」
電話の向こうで、美月が深いため息をついた。
「……何やってるの、凛ちゃぁぁぁん!」
「……美月!?」
突然の大声に、俺は思わずスマートフォンを耳から離した。
「……だって! 北条先輩から誘ってもらえたんですよ!? それなのに『む、無理です!』って……!」
「……まあ、俺も驚いたけど」
「私だって驚きましたよ! 金曜日の電話でも、凛ちゃん、ずっと泣きそうな声で後悔してたんですから!」
美月はその夜の電話で、川上さんがどれほど後悔していたのかを聞いたらしい。
「……それで、美月は何て言ったんだ?」
「もちろん、ちゃんと訂正しなさいって言いました! でも、凛ちゃん、『今さら何て言えばいいんでしょう……』って……」
「……ああ、なるほど」
「もう! 好きな人に食事に誘われたんだから、普通に『はい!』って言えばよかったのに!」
美月はしばらく愚痴をこぼしていたが、やがて少しだけ声を落とした。
「……でも、凛ちゃんの気持ちも分かるんですよね」
「……そうなのか?」
「はい。好きな人に急に誘われたら、びっくりしちゃいますから」
「……まあ、そうかもしれないな」
「……高瀬さんだって、私が告白したとき、ものすごく驚いてましたよね?」
「……またその話か?」
「ふふっ。だって、今なら笑って話せますから!」
美月は電話の向こうで楽しそうに笑っている。
俺はテーブルの上の飲み物に手を伸ばし、コップを持ち上げた。
「……でも、美月は無理ですって断らなかっただろ」
「当たり前じゃないですか! 私、高瀬さんとデートしたくて仕方なかったんですから!」
「……そうだったな」
「それなのに、高瀬さんはなかなか誘ってくれなくて……」
「……すみませんでした」
「ふふっ。よろしい!」
俺が苦笑すると、美月はさらに声を弾ませた。
「……そういえば、高瀬さん」
「ん?」
「北条先輩には、自分から食事に誘えって勧めたんですよね?」
「……ああ」
「へえ〜。後輩には、ずいぶん積極的な助言をするんですねぇ?」
「……美月?」
「いえいえ! 自分は二か月もかかったのに、後輩にはすぐ行動しろって言えるなんて、立派な先輩だなぁと思いまして!」
「……それは、言わない約束じゃなかったか?」
「そんな約束、しましたっけ?」
「……してないな」
「ふふっ! 正直でよろしい!」
俺は思わず天井を見上げた。
北条の相談をしていたはずなのに、いつの間にか俺が追及されている。
しかも、電話越しでも美月が楽しんでいることが、声だけで分かってしまう。
「……それにしても、北条が可哀想だったな」
「……そうですよね」
「俺が誘ってみろって勧めたから、余計に申し訳なくて」
「高瀬さんのせいじゃありませんよ。むしろ、誘ってもらえたこと自体は凛ちゃんもすごく嬉しかったんですから」
「……そうか」
「はい! だから、あとは凛ちゃんが頑張るしかないんです!」
美月は力強く言い切った。
後輩のために本気で悩み、何とか力になろうとしていることが伝わってくる。
「……美月は、本当に後輩思いだな」
「……えっ?」
「川上さんのこと、ずっと心配してるだろ。いい先輩だと思うよ」
「……っ!」
電話の向こうが静かになった。
「……美月?」
「……た、高瀬さん」
「ん?」
「……急に褒めるの、ずるいです……!」
「……そうか?」
「そうです! さっきまで私がからかってたのに……!」
俺は思わず笑ってしまった。
さっきまであれほど勢いよく話していたのに、今は声が小さくなっている。
「……でも、嬉しいです」
「……ああ」
「……大好きですよ、高瀬さん」
「……俺も好きだよ、美月」
「…………っ!」
今度は完全に返事がなくなった。
「……美月?」
「……も、もう! 今日はここまでです!」
「……え?」
「これ以上話してたら、私、明日会社で高瀬さんの顔を見られなくなります!」
美月は慌てて電話を切ろうとした。
「……じゃあ、おやすみ」
「……おやすみなさい! 大好きです!」
通話が切れた。
最後は、ちゃんと言っていくんだな。
俺はスマートフォンを見つめながら、思わず笑ってしまった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
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ありがとうございました!




