表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/40

37.水鏡、開門


「水鏡よ、目を醒ませ!」


 眩く鋭い輝きが、広間を照らし出す。

 青い光の刃が害魔獣を貫く。

 その巨体が、苦しげに悶え始めた。


 『ジュグ……グルル……ジュルウ!!!!!!!』

 

 ぶくぶくと、害魔獣を包んでいる水膜が勢いよく泡立ち始める。


「水の転移は成功した!あとは……!!」


「お前を門の外に、ぶっ飛ばすだけだ!!!!!!!!」


 エレーシャが瞼を閉じる。

 残り、二十五秒。

 天井の亀裂が、さらに広がる。

 クルトが持ち場を離れたからだろうか。

 天井の崩落が、ゆっくりと再開していた。

 害魔獣の不気味な声と、天井が軋む音が耳に響いている。


 (エレーシャ、集中して。)


 (大丈夫。

 絶対に生き残ってやる!)


 (生まれてきてからずっと苦しかった。

 でもそれを救ってくれたのは、アーノルドと、エチルエーテルのみんなだ。)


 (絶対にボクが守ってみせる!)


  エレーシャの美しい髪が、風に煽られて揺らめく。

 月明かりに照らされたその姿は、神秘そのものだった。

 金色の瞳が、ゆっくりと開かれる。

 そこにはエレーシャの覚悟が、はっきりと現れていた。


「水門、展開。

 母なる偉大なエーテル種精よ。

 今、我に力をお貸しください――!」


 残り、十五秒。

 水膜が軋み、黒い粘液が内側から泡立った。


「吹き飛べェ――――――――――――――ッ!!!」


 自分の持てる全てのエーテルを振り絞る。

 大量の湯水が水膜に勢いよく注入され、害魔獣が激流に飲まれていく。

 

 (東門はすぐ近く。

 そこまで吹き飛ばせれば、民間人への被害は最小限に抑えられるはず!)


 残り、十秒。

 もう振り返る時間はない。

 害魔獣が水の奔流に巻き込まれたことを確認し、エレーシャは崩れゆく建物から駆け出した。

 全力疾走。

 エレーシャが滑り込むようにして、壁の外へと飛び出す。


「うわあああああああッ!!!」


 その瞬間、柔らかい草の香りがふっと消える。

 ガラガラガラ………………ッ!!!!!!

 天井が完全に崩壊していく。

 思い出の場所が、跡形もなく崩れていく。

 胸の奥が、ほんの少し痛んだ。

 けれど、そんなことを言っている場合ではない。


 (ッ、とにかく東門に急がないとッ!)


 エレーシャは駆け出した。

 持てる全てのエーテルを出し尽くしたのにも関わらず、よろけもせずにしっかりと走ることができる。

 それでも足は止まらない。

 彼の身体は、魔術師としての限界をまだ超えていない。

 小さな身体で、自分よりも大きな杖を背負い、月明かりの中を必死に駆けていく。


 ――その頃、東門付近。


「ベルンハルト、もう一人で立てそうか?」


 フォンスが、ベルンハルトの支えを外した。


「ああ、大丈夫だ。

 最悪、外なら迎撃もできる。」


「ああ、そうだな!三人でぶっ飛ばしてやろうぜ。」


「……水流の音がしますッ!」


 クルトが、温泉の方を指差す。

 ベルンハルトが剣に手を掛け、フォンスが右手を振り上げる。

 ごう、と水流が唸りを上げる。

 次の瞬間。

 黒々とした害魔獣が、勢いよく水に流されながらこちらに迫って来ていた。

 徐々に勢いが弱まり、東門の前でぴたりと動きを止めた。

 水膜がパチン、と弾ける。

  地面に叩きつけられた害魔獣が、ゆっくりと蠢き出す。

 グジュグジュ、と粘液が溢れ出した。


「来やがったな!!」


 フォンスが、構えた右手を突き出す。

 バリリリリリッッッ!!!

 眩い閃光が、害魔獣を貫いた。

 害魔獣が咆哮をあげた。

 どの器官から発されているのかもわからない、苦しい声だった。

 肉塊の切れ目から、粘液が吹き出す。


「へっ、ここならエーテルは遅れねぇみたいだなぁ!!」


 フォンスがニヤリと笑った。


「クルト、障壁を頼む!」


「わかりました!!」


 そう言い残し、ベルンハルトは害魔獣に向かって駆け出した。


「フォンス、継ぎ目を狙うぞ!」


「ああ!!近接は気をつけろよ!」


「……エレーシャさんが来るまで、なんとか持ち堪えてくださいね!!」


 クルトが地面に手を翳した。

 ゆらりと緑色のエーテルが網目のように張り巡らされる。

 みるみるうちに淡く光る障壁が門周辺に編み上がった。

 門の外まであと少し。

 どうにかしてエレーシャがここに到着するまでに押し出し切りたい。


 (焔魔術じゃ、火力はあっても、押し込めない、か。)


 (……なら!)


 ベルンハルトの握る剣から、砂埃が舞い上がった。

 剣先がゆっくりとエーテルで出来た岩に包まれていく。

 そのまま大きく踏み込み、刃を振り上げた。


「これで押し切るッ!!」


 害魔獣の巨体を押し割るように、力任せに刃を叩き込む。

 粘液が足元にへばりつき、踏ん張りがきかない。

 害魔獣が大きく唸った。

 その巨体が、わずかに門の外へずれる。


「効いてる……のか?」


 ベルンハルトが更に剣を振り上げる。

 土色のエーテルが舞い上がり、剣が黄金に輝いた。

 ザクッ!

 肉塊に、思いきり刃を突き立てた。

 その度に、害魔獣の身体が大きく震えた。

 苦しそうな声をあげ、継ぎ目から激しく粘液を放出する。


「障壁の展開が終わりました!」


 クルトの声に反応し、害魔獣がぐるりと首を向けた。

 耳を劈くような高音を発しながら、勢いよくクルトに向かって迫っていく。


「クソ!標的を変えやがった!!」


 フォンスが歯噛みする。

 ここでクルトが狙われれば、障壁が破られる。

 それだけでなく、本人の命も危うい。


 (まずい……!フォンスだけを狙っているわけじゃなかったのか!?)


 温泉の広間で害魔獣と対峙した際、明らかにフォンスを喰らおうとしていた。

 ベルンハルトが急いでクルトの方に駆け出す。

 大きな身体を不気味にうねらせながら、害魔獣は必死にクルトの方に向かう。


 (……もしかして、エーテルが強く現れている方向に進もうとしているのか?)


 ベルンハルトの脳裏に仮説がよぎる。

 だが、ベルンハルトはすぐにその仮説を振り払った。


 (……いや、まだそう決まったわけじゃないか。)


 (だが、突発的にあの温泉へと突撃してきた理由は……?)


 (ダメだ。

 今はクルトを守りに戻らないと。)


 ザシュッ、と肉を裂く鈍い音が微かに耳を掠めた。

 はっと顔をあげる。

 次の瞬間、クルトの方にへ向かって伸びた肉片が。ボロボロと地面に落ちていく。

 ベルンハルトには、クルトがいつ動いたのかすら見えなかった。


「……問題ありません。」


 クルトがぽつり、と小さな声で呟いた。

 

ここまで読んで頂き本当にありがとうございます!!

温泉街の激闘もついにクライマックスに入りました。

第二十師団とエレーシャの共闘は書いてて本当に楽しいです。

水曜19時/日曜11時更新予定ですので、また読みにきて頂けるととっても嬉しいです!

よろしければブックマークや評価などいただけると大変励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ