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第九章 十の言葉
私はふと思い立ち、彼女に問いかけた。 「いつも俺が褒めてばかりだから、たまには逆に……君の目に映る俺を教えてほしい。十個、挙げてくれない?」
その言葉に彼女は一瞬だけ目を丸くした。 普段、求められるのは笑顔や気遣いばかり。相手の心を支えることが仕事だ。だが、このときばかりは、彼女自身の言葉が求められている。
「十個も?」と彼女は小さく笑う。 しかし私の真剣な眼差しに、冗談では済まされないことを悟った。
指を折りながら、一つひとつ言葉が零れていく。 「優しい」 「約束を守る」 「ちゃんと見てくれる」
「……字が綺麗」
言葉に出すたび、彼女の頬が少しずつ赤みを帯びていった。 彼女にとって、こうして自分の感じたことを率直に並べるのは、簡単なことではなかった。だが私が求めたからこそ、勇気を出している――そのことを私は感じ取っていた。
十個を言い終えたとき、私は心の奥で不思議な安堵を覚えた。 それは「褒められた」からではない。 彼女の声を通して、私が彼女の心にどう存在しているのかを確かめられたからだった。
そして同時に、彼女自身も思ったのだ。 ――この人には、いつもよりも少しだけ本当の自分を見せてもいいのかもしれない、と。




