表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋と論理  作者: Kazan
5/15

第五章 新たな予感

 ある夜、彼女は唐突に切り出した。

「実はね、来月いっぱいで今のお店をやめるの」

 私は思わず問い返した。

「……何かあったのか?」

「うん、それはね、話せる時が来たら。総合的な判断で決めたことだから」

 彼女は淡々と、しかし決意を帯びた声で言った。


 迎えた出勤最終日、私は彼女に会いに行った。

「新しいお店は、もう決まったの?」と尋ねると、彼女は小さく首を振った。

「まだなの。いろんなお店に体験入店に行ったんだけど、落ちちゃって……」

 少し俯きながら、彼女は言った。その表情には、普段の明るさが影を潜め、意気消沈している様子が滲んでいた。私は、ただ励ますしかなかった。


 それから二週間後のこと。

「今日、新しいお店が決まったの。今日は出勤初日で、無事終えてホッとしてます。ぜひご招待したいです☺️」

 そんな報告が彼女からメールで届いた。店の名前も記載があり、文面から彼女の安堵感がよく伝わってきた。


私は即座に返信した。

「本当におめでとう。君なら、きっとその場所にふさわしい」

 彼女もまた、新たなステージに胸を膨らませているようだった。


 本当はすぐにでも駆けつけたかった。だが、私の仕事は忙しく、そして何より――その新しい舞台は、今までとは違う「一流」の世界だった。正直、身の丈に合っていないと感じた。場違いであってはならない。私は彼女に恥じぬよう、相応の準備が必要だと心を定めた。


 私は準備に取り掛かった。

 動画サイトで有名ホステスの講義や、恋愛心理学を説く研究家の話を学んだ。ファッション、美容、香水――モテる男の所作や心得を、必死に頭に叩き込んだ。彼女と食事する料理店の調査やリストアップにも、私は余念がなかった。


 彼女に会えない間、彼女は母の日に自分の母へ贈った花の写真を送ってくれた。

「お母さんに感謝を込めて贈ったの」

 その一言と花の写真に、私は深く感銘を受けた。彼女の家族を思う姿勢は、以前から尊敬していた。しかしその時、ふと自分の家族を思った。私の父と弟は、五年もの間、確執から口をきいていなかった。その姿は私にとって重くのしかかる現実だったが、彼女の姿勢に触れ、私は決意した。

 私は間に立ち、二人の関係を和らげるよう働きかけた。そしてついに、わだかまりは雪解けへと向かった。


 私はその経緯を彼女に伝えた。

「君のおかげで、俺の家族が変われたんだよ」

 それは心からの感謝だった。


 そして――。

 彼女から新しいお店に入ったと知らせを受けてから、二か月。私は万全の準備を整えた。服装も、立ち居振る舞いも、心構えも。

 満を持して、彼女と新たな舞台で再会する日が訪れたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ