第二章 選択と覚悟
彼女の内面を見つめたその先に、どうしても考えざるを得ないことがあった。――彼女はなぜ、あの「夜の世界」を選んだのか。
彼女が「夜の世界」に足を踏み入れたのは、衝動ではなく、冷静な選択だった。日中は会社員として勤め、安定した生活の基盤を持ちながら、それでも彼女はもう一つの道を選んだ。ダブルワークという負担の大きな生活。誰にでも容易にできる決断ではない。
理由は明快だった。「余裕のある生活を送りたい。今、この年齢でしかできない仕事だから。」彼女自身の言葉でそう語っていた。だがその裏には、さらに個人的で切実な願いもあった。――美意識の高い彼女には「歯科矯正をしたい」という夢があり、そのための多額の費用を稼ぐことも夜職を選んだ目的の一つだったのだ。
さらに彼女は、働き続ける中で「夜の世界」が抱える別の現実も知った。なぜ女性たちは水商売までしてお金を得ようとするのか。親の入院費や手術費を工面するため、弟や妹の学費を支えるため、あるいは家族の借金、恋人の借金を背負ってしまったため――そうした事情を背負う人たちがいることを、彼女は自らの目で見て、耳で聞き、胸に刻んでいた。
彼女は人との距離を測ることに慎重だった。恋愛を避け、プライベートを閉じ、心の奥を他人に見せない。そんな彼女にとって、夜の世界は本来「最も不得手」な舞台であったはずだ。
それでも挑んだのは、自分を鍛えるため。「心が鍛えられるから」――そう、彼女は後になって語った。
彼女は言葉を飲み込み、笑顔の裏に隠すことを、彼女は日常にしていた。
沈黙する勇気を持ち、場を乱さない賢さを持ち、そして時に、自分に都合のよい部分にだけ光を当てて話す計算高さも持っていた。それは、夜の世界で生き抜く術であり、同時に彼女自身が抱える「ずるさ」でもあった。
私はそこに敏感に気づき、時に彼女を詰めた。彼女にとっては苦しい瞬間だっただろう。だが同時に、そんなふうに真正面から彼女を「ずるい」と指摘できる人間は、他にはいなかった。
彼女はきっと、私に詰められるたびに胸の内でこう思ったはずだ。
――「なぜこの人は、私を見抜くのだろう。」
――「ごまかせない。」
――「だからこそ、怖い。でも、信じたい。」
夜の世界に踏み出した初めの決意は、生活のためであり、自立のためであった。だが、そこから7年も続いたのは、彼女がその舞台を自分の成長の場として選び続けたからだった。
苦手をあえて背負う強さ。沈黙する勇気。言葉を放つ勇気。
彼女はその両方を、自ら試す人生を歩んでいた。
だから私は、彼女の沈黙の奥に、言葉よりも雄弁な“覚悟”を見ていた。




